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◇第3話◇ 優しい人
「お疲れさまでしたー」
やっとバイトが終わった。
もう夜の10時。外は真っ暗で夏とはいえ少し肌寒い。
「送ってくよ、莉子ちゃん」
「あぁ、篠田くん。私なら大丈夫だから他の子を送ってあげなよ」
「いや、俺も電車そっち方向だからさ」
「ふーん?」
帰宅途中のサラリーマンが多い電車内。
混んでいて身動きが取れなくて困っていた。
すると突然、後ろの方が楽になった。
「……?」
不思議に思って後ろを見てみると、篠田くんが後ろに立ってスペースを取ってくれてるみたいだった。
「楽になった?」
「うん、ありがと」
すると篠田くんはまるで動物のように愛らしい笑顔を見せた。
「どういたしまして」
「……」
なんだか照れくさい。
男の子にこんな優しくされたことなかったから。
「ねぇ、莉子ちゃんの学校の文化祭っていつ?」
「えーっと、9月の27日だったかな」
「そうなんだ。行ってもいい?」
「えっ?」
「嫌じゃなかったら、で良いんだけど」
「うん…いいよ」
「まじで!?ありがとう!」
嫌なわけじゃなかったし、たかが文化祭だし。