しんのせかい
俺の願望、俺の欲望、そして俺の希望。
それらを叶えるために、なのかどうかは分からないが、いずれにしてもDynamicWorldは再び俺を権限者として選んだ。
現れたそれは少し薄汚れた古臭いノート。
何もかもを可能にしてくれるノート。
満身創痍で、腕どころか指一本動かすのも辛い状態で、それでも何とかノートを開く。
「やめ、ろ……。やめろおおお!このベリアルを、俺の……世界……を……。」
芽部の精神を完全に乗っ取ってしまったベリアルが何か言っているが、そんな物に返事をする余裕はない。
一枚一枚ページを捲っていく。
……殺人が許された世界。
……何も起こらない世界。
……小説の中の世界。
……正義が勝つ世界。
……悪のいない世界。
……悪が蘇った世界。
……魔術と科学の世界。
このノートには、今までの権限者の夢が綴られている。
最初に書いた奴は何故殺したかったのか。
二番目の奴は何故何も起こらないでほしかったのか。
三番目の奴は何故幻想を現実にしようとしたのか。
四番目の奴は何故正義を信じたのか。
五番目の奴は何故悪を根絶したのか。
六番目の奴は何故悪を信じたのか。
七番目の奴は何故魔法に憧れたのか。
全ての理由が分かる訳じゃない。
だが形はどうあれ、それらはその人の夢。
思いなんだ。
俺は、それを終わらせる。
終わらせなきゃならない。
[……そうだな。終わりだ。私と更月涼治の物語は此処で完結する。]
ああ……ああ、そうだった。
あんたとも、お別れ……か。
それは、凄く、寂しいな。
[別れはまた出会いの始まりでもある。それに……。]
ふっと、頭に誰かの手が置かれる感触。
[私は何時でもお前を見ている。神に等しい私だ。記憶の継続や俯瞰から涼治を見守る事など容易い。]
そう……か。
それは、凄く、嬉しいな。
もう一枚ページを捲る。
そこには空白しかなく、新たな世界を見せるためのページだという事を示している。
「……め、べ。」
喉を潰され、掠れ掠れの声しか出ないが、それでも声を発する。
芽部……ベリアルからの返事は無い。
既に息絶えた様だ。
「あんた、の……せかいじゃない。」
それと同時にノートに文字を綴る。
生憎ペンの類は持っていないので、丁度よくそこにあった血溜まりの血を指に付けて、文字を綴る。
次に見た奴は、びっくりだろうな。
「せかい……このふしぜんなせかいは。」
そして書き終わる。
皮肉にも、それはセナリアが書いた物と同じだった。
[……お別れだな。]
ああ。
今までありがとう。
[こちらこそ。中々面白い世界だった。次も私を楽しませてくれ。]
ああ。
人間は……って。
ははは……。
「あん、た……おんな、だった……んだな。」
最後に驚愕の事実を知った所で、俺は瞼を閉じた。
DynamicWorldに綴った文字。
それは―――『全てが終わる』
これで俺の、俺という存在が冒険した物語は終わり。
お早う。
お休み。
そんな当たり前の挨拶を、今となっては当たり前の存在に返す。
当たり前の存在、『神』の事だ。
前時代に於て神と呼ばれていた存在が、今では普遍として、そして『どちらにも』不偏としての存在になった。
世界は神を神様などという大仰な存在として認めることはなく、神も人間を我等が想像せし物として認識する事もなく、ただただ平等に、ただただ普通の存在として互いを認めている。
詰まるところ、人間と神は同居し始めた。
そんな世界は、果たして全ての終わった世界と同義なのだろうか。
分からない。
どうしてこんな事を考えるのかも、それに答えがあるのかも。
ただ、これだけは言える。
あいつは……それが誰なのか俺にはよく分からないけれど。
俺を見ていてくれる。
これからの人生を、より良くする為に導いてくれる。
『僕』はそうならなければならない。
―――そうだよ。君は、幸せになれ。それだけの価値が君の生き様にはあったのだから。
……そうか。
なら、やはり僕はそうならなければならないよな。
「この世界は―――」
世界は誰のものでも無い。
世界は世界人間は人間。
どちらも干渉してはいけない存在。
故にこの世界は、美しい。
そして、僕が『俺』として、『更月涼治』という一人の人間として生きた物語は終わり。
えーかなり急ぎ足になってしまいましたが、これでExtraMaxWayは一応終わりです。
更月涼冶がHAJACKから離れて何かやっていた時期の話もその内公開していくつもりなので正確にはまだ続きますが。
最後に、読んでくださいました全ての読者の皆様、本当にありがとうございました。




