虚無感
“一瞬で決めちゃうなんて詰まんない。”
「本日二度目だなその台詞。」
“ちょっと違うけどね。あ、そういえばそこをどけに類似した言葉って一回しか言ってないよ?”
「成る程。」
三度目ではなかったからアリスレットは通してくれなかったのか。
「なんて冗談は言わない。仲間を三人も殺させた恨みは必ず晴らさせてもらう。」
“……いいねえ。”
「は?」
思わずしたくもない返事をしてしまった。
返事をしたくなかった訳ではない。
こんな返事の仕方は間抜けだからしたくなかったんだ。
“いやいや主人公みたいでいいねえって事。あたし良い者サイドなのに悪者みたいになってるし。いいねえ。”
「君が良い者?冗談は止せよ芽部。」
“そうね。詰まらない冗談だわ。さっさと次を始めて頂戴。次に得るのは虚無感。”
「始めろと言うが相手は―――」
「相手ならいますよ。まだ死んでないが、どうやら生者でも此処に呼ぶ事は出来る様ですね。」
「ジェイカー・リットネス……。次は君か。」
ジェイカー・リットネス。
C.D.Cを取り仕切る男。
神天使『メタトロン』と同化している。
彼も、最強の魔術師の一人と呼んで間違いないだろう。
メタトロンと同化している事もそうだが、彼の個呪文であり、彼のあだなでもある“ネクローシス”もまた脅威だ。
ネフィリムも殺した張本人。
「彼を殺した事で、私も貴方に恨まれているのですかね。」
「それは無い。更月涼治はネフィリムに聞いただろうが、俺達は殺されたって文句は言わないし、仲間が殺されたとして殺した相手を恨んだりもしない。」
俺達は人類全てを殺そうとしている。
それなのに、こっちの人間が殺されて相手を恨むなんてのは酷いエゴイズムだ。
「成る程。人類を消し去るなんて考え方を持っている時点でエゴイストではあると思いますがね。」
「言えてる。」
「だからこそ、私は貴方を殺して、ExtraMaxWayなんて馬鹿げた呪文を発動させる事を防ぐ。天高く炎立つ。天蓋を焦がす灼熱の天国“炎の柱”。」
「“栄光の手”。」
“炎の柱”か。
メタトロンの持つ剣の術式兵装。
それが放つ“星の火”はあまりにも強力。
それが放たれる前にけりを付ける。
“契約の天使”や“神の代理人”も使わせない。
詰まらなかろうが知った事ではないんだよ。
今回も一瞬で決める。
「それについては賛成ですよ。此処で殺しても無意味ですからね。」
それには返事をせず、俺はジェイカーの胸に“栄光の手”を突き刺した。
ジェイカー・リットネスはこの程度かという呆気なさを感じながら。
そう、虚無感を感じながら。




