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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第八章-愛の国-
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無力感

“3階もクリアだねおめでとー。”


「……今更だが分かった。君は性格が悪い。」


性悪なんて甘い物じゃない。

最悪だ。


“そうかもね。仲間の血をシャワーみたいに浴びた気持ちはどう?”


「さっさとその口を噤め。俺は今君を殺したくて仕方がない。」


“でしょうね。でも残念ながらまだまだお楽しみは続くよ。次はどちら様かなぁ?”


「どちら様でも何もない。私は俺で僕だ。」


「……センマイカの次は君か。」


本当に最悪だ。


「君にだけは勝てる気がしないよ。ドルイトス。」


“焦燥感の次に得る物は無力感ー。レッツラゴー!”

「勝てる気がしないとは強気ではないなライノセンス。普段からそうではあったがない。」


「懐かしいよ君のそれ。」


「そうか。ならさっさと決めてしまえばいい。追う追われる。見る見られる。語る語られる。逃げる術は無く、堕ちる。“睥睨する七万の瞳(ストーカー)”。」


「……はあ。」


所謂ライノセンス勢と呼ばれる……いや、既に実質俺一人なのだから呼ばれたが正しいか。

ライノセンス勢と呼ばれた、ライノセンス、ネフィリム、センマイカ、セナリア・ベイグラント、糸井草春、ドルイトス・P・レイヴァン、大城毬、須磨孝。

これを単純な戦闘力が高い順で並べれば、ドルイトスが先頭になるのは間違いない。

あのネフィリムをすら圧倒する基礎戦闘力の持ち主。

それがドルイトス・ポーカー・レイヴァン。

“防御”を使う上で彼以上の魔術師は恐らく存在しない。

つまり、本気の彼に徒手空拳の戦闘で敵う人間はいないのだ。

加えて目を見るだけで相手の戦闘意欲を削ぎ、剰え自殺させる事も出来る。


「……そう考えると、君は最強の魔術師と言っても過言ではないし、やはり俺が君に勝つのは不可能だと思えるよ。」


「そんな事では困るなライノセンス。僕は君が人間を消す事を楽しみだ。此処で負けるなんて俺は許せない。」


「そうだな。ああそうだ。だから俺は君を殺して前に進む。“栄光の手(カウェア)”、“未来は(フトゥールム)我が体の中にあり(リーベルタース)”、“月の支配(セメク)”。」


右手に剣、左手に魔術封じ、そして両目に未来を見る魔眼。

備えとしては十分過ぎる。

ドルイトスと戦うための備え、と言うと完全とは言えないが。


「最初から全力か。それが良い。行くぞライノセンス!」


ドルイトスと戦う時に注意するべきはやはり魔眼だ。

目を合わせなければ良いだけの話だが、戦闘に於て相手の目を見る事が出来ないのは致命的だ。

相手の動きを読むのに使えるのは、足の出し方、腕の動き、筋肉の動き、そして目の動き。

やはり目が一番分かりやすい。

それを封じられるのは、やれやれ非常に厄介だ。

とは言っても取りあえず俺には“未来は我が体の中にあり”がある。

動きを読んで―――


「く!」


「そらそらせらすらそら!」


紙一重でドルイトスの打撃を華麗に避けていく。

……いや、格好よく言ったが違う。

別に華麗に避けたい訳じゃない。

動きが早過ぎてギリギリになっているだけだ。

動きを二手三手四手五手と読んでそれを記憶して避ける。

正直かなりきつい。

だが、それをしなければくらってしまう。

鎧の術式兵装でも持っていればそれも構わないが、生憎と持ち合わせがないのでね。


「は!」


「ぐ……は……!」


右掌底が腹に食い込む。

未来を見る事が出来る奴は良い、なんて考え方している奴を見ると嘲笑いたくなる。

未来を見た先に待っていたのが、自分が殴られる姿だというのは中々にショッキングだ。


「……そのまま左掌底を叩き込むと見せかけて、上段右回しげ―――」


言葉は続かない。

顔を蹴られて尚言葉を紡げる奴はそんなにいないだろう。

“防御”を使い、顔を動かして衝撃をいなしてもまだこのダメージか。

やはりドルイトスは強い。


「……!」


「強いが……倒せない訳じゃない。」


続いて放たれる正拳突きを“栄光の手”で受け止める。

第一項七苦を使う事を忘れずに。

七つの苦痛に襲われ狼狽えたであろうドルイトスに斬撃を繰り出す……が。


「どうしてそう“防御”が上手いかね君は。」


「どうという事はある。大して強くない俺が助かる術だ。」


星一しか使わずに“栄光の手”を止めた奴のどこが強くないんだか。


「そしてお主を殴り飛ばすのは難くないかもしれぬ!」


「く、あ、がは……!」


右手刀が顎を掠める。

いや、掠めさせたの間違いか。

それで俺の脳は激しく揺れて体勢が崩れた。

ったく、未来を見たって避けられなきゃなんの意味もない。

脳を揺らした後、ドルイトスは手刀の勢いそのままに回転し、早さを掛け合わせた重い右掌底を繰り出す。

それは寸分違わず俺の腹部に着弾。

胃をこれでもかという程刺激されて吐き気が込み上げて来る。

しかし吐く事は許されない。

俺の体は3m程吹っ飛ばされたので。


「お。空中で体勢を整えて着地とかやるですな。」


「げほ……。やられてばっかじゃないんだよ。それより君、いくら……話し方が支離滅裂と言っても、お主はないだろ。」


「そうは言うても癖やし仕方ないやんがな。」


「……絶好調だな。」


やれやれ。

少々ダメージを負いすぎた。

いや、それにしたって死ぬ程でも動けなくなる程でもない。

芽部と戦う前に受けるダメージとして負いすぎた、という意味だ。

これ以上くらうのはまずい。

先読み―――この後ドルイトスはスチール製の机を二つ投げつけてくる。

それを俺は切り裂き、そのままドルイトスに突進。

が、既にそこにはドルイトスはおらず。

ドルイトスは飛び上がっており、天井を踏み台にして落下してくる。

そして華麗に“栄光の手”を奪い取り、俺を切り裂く。

……成る程致命傷だ。

つまりこれは何があっても阻止しなければならない。


「さてと、こうしておるのも詰まらへんきに。再開しようではあるか!」


二つの机が床と平行に飛んでくる。

“攻撃”使わずにそれとか、どうかしてるとしか思えない。

とにもかくにも、先読みの結果を変えるには動き方を変えなければ。

机を切り裂くのはやめて左に躱す。

突進するのをやめて上を睨みつける。

―――未来を変えられる者がいるとすれば、そいつは未来を見られる奴だけだ。

つまり今この場で未来を変えられるのは俺だけだ。

他の奴は未来のままに道化を演じる。

筈だった。


「やっぱり……君を倒すなんて、無理な話……だ……った。」


右脇腹に食い込んだ手刀。

いやいや、これまた“攻撃”も使わず出来る事じゃないだろ。


「やっぱりお前を倒すのは非常に難しくない様な行為だ。」


「うぐ!?ああああああ!」


縦に刺さった手刀を横にされ、それは腹を突き破って外に出た。


「ぐ、うううう!」


「痛かろう。僕も更月涼治に刺された時は痛くなかった事もなかった気がする。」


血が止め処なく流れ出る。

一気に寒気がしてくる。

不味い不味い不味い。

“超回復”を使うか?

今の状態でまともに機能するか分からない。

魔術は魔法じゃない。

何時でも何処でも十全にとはいかない。

それはその時の身体的かつ精神的状態に左右されるから。


「……参ったかライノセンス。」


「ああ……。参ったね。血が止まらないし、激痛も治まらない。死にたいくらいだ。」


「そうか。それでいい。あまり“我々”が出張っても面白くない。」


「何……?どうい!やめ……っ。やめろドルイトス!」


「また会おうライノセンス。」


ドルイトス・ポーカー・レイヴァン。

彼は自らの首に手刀を突き立てた後、抜く事で自殺した。

俺にこの上ない、泣きたくなるくらいの無力感を押し付けて。

編集出来ていなかった悪魔、天使、人物CDC勢とライノセンス勢更新しました

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