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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第八章-愛の国-
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焦燥感

“……詰まんないなぁ。”


「何がだ?もしかして俺が何の苦労もなく草春を消して3階に着いた事か?」


“そうだよ。可哀相ねー草春。大して活躍してないから出したげたのに、あっさり消されちゃうなんて。”


「ふん。」


噂に聞いていた言葉を忘れる塔とはこんな物か。

大した事はない。

この分なら7階まで辿り着く事は難しくなさそうだ。


“本当にそう思っているなら勘違いも甚だしいわね。まだ2階までをクリアしただけよ?此処からが辛く、元い面白くなる所。ほら、次の相手が来たわよ。”


「面白くなる、ね。それは楽しみだ。次は一体……誰が……。」


……悪趣味な女だ。

同意だ。

我も彼と一戦交えるなどしたくない。


「久しぶりライノセンス。その様子からすれば分かりきった事だが、元気そうだな。」


「おかげさまでな。センマイカ。」


“にひひ。面白くなるのはこれからぁ。優越感、達成感に続いて得る物。それは焦燥感だよ。じゃあスタート!”

スタート!じゃないだろ。

そんな明るく仕切られても返事に困る。


「此処に呼ばれるのはそう、二度目だ。一度目はあの甘ちゃんの更月が来た時だった。」


「……センマイカ、そこを通してくれ。」


「何故?俺はお前と戦う為に……いや違うな。戦わされる為に此処に呼ばれた。なら戦わねばならんだろ。」


「そうなるよなやっぱり。」


さてどうしよう。

俺は俺という存在、ライノセンスがまともにセンマイカと戦えるとは思えない。

本当の仲間だったのだから。

しかしそうも言っていられないだろう。

此処で死んでは元も子もない。

それは分かっている。

だけど……!


「く!」


天井より突き出てきた金の糸を躱す。

柵の術式兵装である“静止(トリック)(スター)”。

それは、センマイカを大地に引き止める為の物でもあった。


「止めろと言っても止められる訳ないか……!十月九日完全殺人。“最上たる所以の鎌(ハルパー)”。静止する魔力の胎動。“月の支配(セメク)”。」


「中の者を殺す鎌に魔術封じか。やっとその気になったなライノセンス。」


「やりたくはない。だが俺は先に進まなければならないんでな。」


アルマロスは智天使、ヒエラルキーに於て第二位。

つまり“最上たる所以の鎌”でセンマイカを9回斬れば、アルマロスは消える。

たった9回だ。

センマイカがそれで痛みを得る事はない。

割り切れ。


「そうか。それで良い。そういう事なら俺も本気でいけるからな。止めるだけ。ただそれだけで私の欲望。“静止線”。張り付く静止の合一。“私意たる粘性(チーモ)”。」


「……ああ。それで良いんだ。」


“攻撃”星九十脚へ。

一気に加速してセンマイカに迫る。


「単調な攻撃程防ぎにくいと、そうは思わないかライノセンス!」


対するセンマイカは“攻撃”の星など殆ど持っていない。

俺からの単純な逃走は図れない筈。

だからこその“静止線”と“私意たる粘性”なのだが。

左足が地面に付いた瞬間に感じた若干の違和感。

分かっている。

何も考えないまま“月の支配”を地面に投げ付けそれを解除。

速度を緩めずにセンマイカに突進する。


「流石。“私意たる粘性”が掛かった事を一瞬で見抜くと同時に解除とは。だが、これは予測出来たか?」


「予測なんてしなくても防ぐ事は可能だ。」


目の前に現れたのは金の壁だ。

“静止線”が幾重も幾重も幾重も折り重なって出来た金の壁。

しかもそれは徐々にだがこちらに迫って来ている。

……いや、俺からも迫っているからこの表現は少しおかしいのかもしれない。

それはそうとして、早く準備をしなければ危ない。


「“月の支配”4枚。」


“月の支配”は魔術を封じる。

張り付けた対象にその類の物が掛かっていれば、それはたちまち解除される。

しかしそれにも有効範囲という物がある。

札を中心に半径5m程かな。

当然それだけあれば人一人に掛かった魔術を解除するのは簡単だ。

だが今回の場合、魔術は掛けられたというより行使されている。

金の糸が壁として無数に出現して俺を飲み込もうとしている。

半径5mだけ消した所で、残りの糸に囲まれるのが落ちだ。


「なら話は簡単だ。消すのではなく防ぐ。」


しゃがみ込み、自分の周りの床に4枚の“月の支配”を張り付ける。

“魅惑”で隠す必要はない。

金の壁が徐々に迫って来る。

そして壁は俺の下に到着した。

が、到着しただけだった。

方陣に触れた糸はどんどん消滅していく。

俺を覆うべく収束してきた糸もまた然り。


「しかし、大丈夫だと分かっていてもあの圧迫感は嫌な物だ。」


「だろうな。」


「……さてセンマイカ。君の必殺技も訳無く消し去った。此処らで終いにするというのはどうだ。」


「何だその冗談は。ユーモアの神であるお前らしくない詰まらなさだ。刃を交えた物事は、命が散らなきゃ終わらない。ま、俺はもう死んでいるから散るもくそもないんだが。」


それこそ詰まらない冗談だ。

あそこまで強情だと、中の者を消した所で折れてはくれないかもしれない。

だが、一筋でもあるのなら、その希望に縋るのは悪くない。


「ライノセンス。大概甘いなお前も。」


「とても全人類を殺す奴には見えないよな。そんな事は俺が一番よく分かっている。」


「けど、やるんだよな。」


「……ああ。勿論だ。」


“月の支配”を一枚破って方陣を解く。


「“最上たる所以の鎌”。やりたくはないが、決めさせてもらう。」


「来いよ。」


センマイカが言い終わるかどうかのタイミングで一気に詰め寄る。


「“速攻”×2。」


「……。」


5連の斬撃を2回。

計10回センマイカを切り付ける。

これでアルマロスは消えた筈だ。


「……これで中の者は消えた。お前の負け―――」


「主人公になれるくらい甘いよ、お前。」


声にはならなかった。

悲鳴を上げる程の痛みではなかったから。


「ち……!何故だ!」


「此処に呼ばれるのは最高の状態の人間だ。“人間だけ”だ。」


「そういう事か……。」


左腕から血が垂れて床を汚す。

“静止線”が皮膚から飛び出したせいで出来た切り傷からそれは出ている。

1回だろうが10回だろうが関係なかった。

そもそも殺すべき対象がいなかったのだから。

とか、そんな事はどうでもいい。


「……殺す。“栄光の手(カウェア)”ああああああ!」


「それでいい。」


俺は刃を振るう。

人を殺す為に生み出された刃を。

我を忘れながら斬撃を繰り出し、センマイカを血祭りに上げる中、俺は耐え難い程の焦燥感に苛まれた。

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