達成感
「……何時だ。」
「最初からさ。左目だけに魔眼を召喚させた事に疑問を持つべきだったな。」
俺は言いながら右手に乗っている球体、所謂義眼というやつを地面に捨てた。
そして机の上に置いておいた本物の義眼を右目に付ける。
「これで……ふう。やっと右目もまともな景色を見られるようになった。技術の進歩ってのは凄いよな。義眼に角膜や視神経を移植して目に出来るんだから。」
「そう、だな。私ももう少し世俗について勉強しておくべきだった。」
「面白半分でやった事だ。君が引っ掛かっても誰も笑わない。無理矢理感もあるしな。」
「ふ。そうだな。では私はそろそろ死ぬ。お前が次で死ぬことを祈る。」
そう言って轍醍醐は消えた。
“成る程成る程。最初からその右目には偽の義眼が入ってたんだね。”
「ああ。本物の義眼は“千刃の谷”が放たれた時に“最たる元始の欲たる瞳”を召喚させて偽とすり替えた。それを“魅惑”で包み机の上に置いたんだ。轍醍醐の脚は、だから破壊された。」
“ふむふむ。一ついいかな。”
「何だ?」
“ネタバレしちゃって良いの?次の相手もういるよ。”
「構わない。これは轍醍醐みたいな能力を使う奴に使ってこそ有効だからな。それを差し引いて考えても問題ない。君は俺の目の事を知っているからな。」
羽音がする。
幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも幾つも。
何百という羽音が、不快感を催すそれが場を埋め尽くす。
「相変わらず、不愉快な奴だ。」
「は。てめえに比べりゃ全然大したことねーよライノセンス。」
「そうかな。俺は見た目だけで言えば好青年の筈だぞ。草春。」
現れたのは雀蜂や甲虫、それに蟻を引き連れた糸井草春。
かつて俺を殺そうとした人物だ。
「ふむ。よくよく考えれば、俺は昔から命を狙われていたんだな。」
「てめえは危険因子だからな。代々続く胸糞悪い“ライノセンス”の因子。その最高系に達しちまったのが今期のライノセンスであるてめえだ。は、だったら命が狙われて当然じゃねえか。」
「そうだな。それでもこの歳まで生き延びてしまった。殺されかけもしたが、それでもだ。」
いや、もしかしたら死んでいたのかもしれない。
ライノセンスが、一時間前のライノセンスと同じ存在かどうかなど、主観的に見ていては分からないからな。
「脈々と受け継がれる記憶と存在。……ち。やっぱり胸糞悪い野郎だぜてめえ。」
「胸糞悪いならそれで一向に構いはしない。俺は君を殺して人類滅亡に一歩近付くだけだ。」
「それが胸糞悪いって言ってんだよおおお!」
草春程度の奴にこの俺の邪魔は出来ない。
期せずして個人情報を暴露されたが、まあいいだろう。
その対価は命で払ってもらう。
俺は欲しくもない達成感を得るために刃を振るった。




