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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第八章-愛の国-
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優越感

何故俺が焦ったかを説明していなかったという事を今更ながらに思い出した。

という訳で今更ながら言わせてもらうとしよう。

俺自身、体験するのが初めてで面食らってしまってついつい忘れていた。

此処は言葉を忘れる塔、いや正確にはビルだがそれはどうでもいい。

血塗りと血染めの(カロス)螺旋階段(バベル)”。

その昔、人は神へと近付こうとした。

精神的に、宗教的に、ではなく物理的に。

何を考えたかは知らないが、とにかく神が住む……神界、とでも言っておこう。

天高く、宇宙をすら越えた次元に存在するそこに近付けば、人は神になれる。

そう妄信して、人は高い塔を造りはじめた。

これが一等良い方法だと信じて。

誰もが思ったんだろうな。

これで人は神になれると。

なんとも幸せな考え方だ。

だが、その考え方は甘すぎた。

神の領域に人が踏み込むのを神が良しとする筈がない。

何故神が人を創ったのか、その昔の人はそこに考えが及ばなかった。

人は神の玩具で、そして神が神でいられるためだけにある存在証明なんだ。

運命は神が決めている。

神は人が信じなければ存在しない。

つまり、人が神に近付けば、人はいなくなる。

それは同時に神の存在を消す。

それを良しとする程神は優しくないし愚かでもなかった。

人は塔を造った。

高く高くし、そして区切りにして7階目まできた所で、人は言葉を失った。

「ほう。私はバベルの塔についての伝承など知らなかったから勉強になったよライノセンス。」


「それは良かった。」


轍醍醐は魔術師ではない。

ワレラ、咎人の魂を狩る者達の一人。

何人いるのか知らないが、今この世に存在しているワレラの中で、その昔は2番目に、そして今では最も強いワレラ。

それが轍醍醐だ。

繰り返すが、轍醍醐は魔術師ではない。

つまり、対象の魔術を封じる“月の支配(セメク)”は使えない。

中の者を狩る事に特化した“最上たる所以の鎌(ハルパー)”はただの大鎌になってしまう。


「それでも勝てるだろうけどな俺は。」


「大した自信だ。なら、早く始めよう。」


「最初から全力でいかせてもらう。」


栄光の手(カウェア)”。

未来は(フトゥールム)我が体の中にあり(リーベルタース)”。

右手に七の剣を。

そして左目に未来を見る魔眼を召喚する。

先ず魔眼で轍醍醐の動きを見る。

祢々切丸(ねねきりまる)”を召喚。


「山は金。波を起こし波瀾とす。断ち切る大太刀“祢々切丸”。」


続いて“千刃の谷-祢々切丸”を放つ。


「来い断ち切る大太刀。流星となり波瀾とす。拘束するは金。“千刃の谷-祢々切丸”。」


既に見た光景なので“予定”された様に避ける。

しかしまあ……千の刀を降り注がせる技とは。

そこらの術式兵装よりよっぽど強力だな。


「……避けられるなら直接行くまでだ。」


次いで見た未来は轍醍醐が一瞬で俺まで迫り“祢々切丸”を振るう姿だった。

刃で防いだ俺は弾き飛ばされるらしい。

ならその切っ先を躱すまでだ。


「……!」


避けられるとは思っていなかったのか、何時如何なる状況であろうと冷静沈着、ポーカーフェイスで知られる轍醍醐の顔に驚きの色が浮かんだ。

ま、紙一重で躱されればそれは驚くだろう。


「第一項七苦。」


「ぐ……。」


ほんの少し生じた隙を逃さず轍醍醐に向け斬撃を放つ。

……なんとまあ、次は俺が驚いた。

少しとは言え隙をついたのだ。

それなりに力を込めて。

彼の腹がすぱっといくのは明らかだった。

のだが、結構軽く躱しやがった。

七苦を使って切り付けたので、傷の大小はあまり関係なかったが。


「……。」


「関係なかった筈なんだが、痛くないのか?」


「いや痛い。欺体、偽の体ではあるが結局人間の体と大差はない。神経が体内の其処彼処に設置してあるし血管もちゃんとある。」


「確かにそうみたいだ。」


切り付けた腹からはちゃんと赤い血が流れている。

刀を召喚したり刀の雨を降らせたりを抜けばどこからどう見ても人間その物だ。


「ただ痛みに慣れているからそこまで痛がらないだけだ。」


「そりゃ結構な事で。」


……おかしい。


「それでライノセンス。」


「……なんだ?」


「私は何時まで時間稼ぎに付き合えばいいのだ?いい加減話すのは止めにしたい」


「ばれてたか。」


魔眼はちゃんと召喚されている。

その証拠に俺の左目は未来を見ているのだから。

だが、この1分後の未来が見えない。

轍醍醐が言う。

“深部には既に至っている”と。


「やはり記憶を抜いておいて良かった。お前が未来を見る事を私は知っている。先程驚いたのは演出だ。」


その言葉ももう見た。

未来が切れるまであと20秒。


「つまり私は“既に深部に至っている”。」


「な……!」


台詞が違う。

どういう事だと考える間もなく、“栄光の手”は右手から消えた。


「『深部に至るは全てを知った』。と言ってもお前には何の事かさっぱりだろう。」


「……ワレラの特性か。」


「その通り。ライノセンス、お前はこの世の中に於て害以外の何物でもない。此処で死ね。」


「ぐ……。」


轍醍醐が再び瞬時に俺の目の前まで来た。

斬られる。

左肩から右脇腹に掛けて袈裟切り。

そして左脇腹から右肩に掛けて逆袈裟切り。

かなり深い。

その証拠に体の奥底、深部が激しく痛む。

俺の体は自らが作った血の海へと俯せで倒れ込んだ。


「終わりだライノセンス。」


その背中に突き刺される刃。

……致命傷、だなどう考えても。


「私は漫画の悪役ではない。殺るなら殺るで早急に、そして確実に殺す。“千刃の谷-祢々切丸”。」


幾千もの刃が俺に向けて飛んでくる。

……どうだっていい事だ。

どう足掻いた所で轍醍醐が負ける事は自明なのだから。

俺は笑い、優越感に浸った。

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