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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第八章-愛の国-
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炎の柱

時は神杉紳がネフィリムに殺されてから1分後。

所は相変わらず愛の国、その昔愛知県と呼ばれていた県の内の西尾という市。

誰か、ジェイカー・リットネスである。


「殺すとは随分と大きく出たなジェイカー・リットネス。“煉獄に咲く(モルス)晩年華(グラウィタス)”を構えているというのに、丸腰のまま平気で俺の前に立っているのは評価出来るがな。」


「そんな物はどうという事はない。更月君は地力、悪魔やベレトの力を加味したそれではお前と対等以上だ。だが如何せん場慣れしていない。だから彼は丸腰でお前の前に立てなかった。違いますか?」


「違わない。君が言った事には一片の相違すら含まれていないな。」


「それは良かった。なら、私が言いたい事も理解できるな?」


「君は地力、場慣れ共に俺と同等、って事だろ?」


「その通り。」


ジェイカー・リットネスはいきなり切れている様子だ。

それも仕方がない。

神杉紳を、御剣爽を、ネフィリムは殺したのだから。


「ま、そんな事はどうでもいい。どうであれ、お前を殺す事に変わりはない。」


「そうか。それは中々どうして楽しみだ。」


ネフィリムが剣を振るう。

それこそ、時速で考えるよりも、光速から引いていった方が早いのではないかという速度で。

放たれたのは“ハザイ”。

薄い刃の斬撃波だ。

先程は“破壊の天使”の一柱であるグラヴが、いとも容易く打ち消していたが、それはグラヴが“破壊の天使”であるからで、ただの人間、魔術師であるジェイカー・リットネスがそれを消す、若しくは避けるか躱すかするのは、簡単な事ではない。

速度が速度だ、このモノローグを語り終えるまでに50発以上を放つ事は難くないだろう。

それを何の構えも無しの常人が避けられる筈は、基本的にはない。

ではその基本的でない常人とは何か、ジェイカー・リットネスである。


「……やれやれ。驚いた、というより悲しくなったとでも言うべきか。何時から“ハザイ”はこんなに安っぽい技になったんだ。」


「いや、全然安っぽくはない。打ち消すのでやっとだった。」


ジェイカー・リットネスは何を使うでもなく、ただ手を“ハザイ”に触れただけであった。

いや、何を使うでもなくというのは少し語弊がある。

正しくは手と呪文を少しばかり使った。

手に“ネクローシス”を纏わせ、そして“ハザイ”に触れた。

“ネクローシス”は“腐食”と“重力”を合わせる事で使う事が出来るジェイカーの個呪文。

それはあらゆる物を、それが例え重力だとしても、物質として、見える物として存在するならば、何であろうと腐らせる。


「“ネクローシス”か。全く、君は恐ろしい物を作り出したな。」


「私もそう思うよ。だから人は畏怖を込めて私をネクローシスと呼ぶんだ。」


「そのあだ名も最近ではとんと聞かなくなったな。流行り廃りの成れの果てと言った所か。」


「何だっていいだろそんな事は。」


「そうだな。何だっていいしどうでもいい。“ハザイ”が破られたとなると、いよいよもう一つの技を出さなきゃいけないな。ま、君になら“放たれる”権利はあるか。」


「そんな権利はゴミ箱に入れた後に切り裂いてやる。」


「まあそう言うな。今度のは、避けなきゃ死ぬかもな。」


と、ネフィリムは言いつつ“煉獄に咲く晩年華”を頭上へと掲げた。

何を放つつもりなのか、また何を放たれるのか、ジェイカーにはまるで分からなかったが、それはさして問題ではない。

何故ならジェイカーはまだ彼の持つ術式兵装を構えてすらいない。

“ハザイ”を素手で打ち消した今この瞬間に於て言えば、ジェイカーの方が圧倒的に有利なのだ。

……ネフィリムも召喚の術式兵装を使っていないので相子とも言えるが。

何にしても、此処に至っても、尚ジェイカーは“炎の柱”を、構えるどころか召喚する素振りすら見せない。


「“炎の柱”を出さないか。それはそれで結構俺のプライドを傷付けてくれる。」


「そうか。それは“結構”な事だ。」


「ち。まあいい。潰れないよう精々用心しろ。“ヘルモン”。」


「っと、これは中々まず―――」


ジェイカーの声は最後まで続かなかった。

彼は放たれた、言わば重力の壁によって背後に吹っ飛んでいったのだから。

“ヘルモン”、“煉獄に咲く晩年華”によって放たれるもう一つの斬撃波。

それば眼前に立つあらゆる対象を、その圧倒的な重力により背後に吹き飛ばす物だ。

それだけ聞くと“ハザイ”に比べ見劣りするかもしれないが、そうではない。

“ハザイ”は薄く、何物をも切り裂く力を持つが、やはり薄い。

つまり打ち消そうと思えば打ち消せる物なのだ。

対して“ヘルモン”は厚い重力の壁。

これを打ち消すのは並大抵の力では不可能である。

人間が素手で掻き消せるレベルを遥かに超えている。

手に“ネクローシス”を纏わせていても然り。

そもそも触れる事が難しい。

激しい重力波が襲ってくるのだから当然。


「ぐ……。」


「おや、君の背後に丁度よく、誂えられていたんじゃないかと思わせるくらい完璧な配置にある岩にぶつかって平面になるかと思ったが、中々どうしてと言うか、やはりと言うべきか、耐えたなジェイカー。」


ジェイカーの背は、先程ネフィリムが長ったらしく説明した岩にぴったりくっついている。

ジェイカーが油断し、前に突き出している両の手から力を抜いてしまえば、ネフィリムの言うように平面になって岩に張り付く事になるだろう。


「“ネクローシス”は本当に優秀だな。じわじわと“ヘルモン”を腐らせている。だからこそ君はそうやっていられる訳だが、果たしていつまで持つかな。メタトロンと同化している君の魔力は大体三万くらい。“ネクローシス”は、大体魔力消費十と言った所か?君の手が明滅している所を見ると、どうやら“ネクローシス”を何度も掛けている様子だ。明滅は30秒に一度くらいの周期。つまり君は1分で二十の魔力を消費している。三万を使い切るまであと1500分、つまり25時間。人間の体内時計の時間と合致するな。魔力の回復は基本的に体内時計を基準にしている。君が“ヘルモン”を腐らせ尽くせば勝ちな訳だが、25時間経てば魔力は回復する。つまり君がそこから抜け出せる確率は非常に高い訳だ。これが24時間しか持たなければ、24時間経った時点で潰れていたが、やれやれ、これまた仕組まれた様な数字だ。いつまで持つかなとか言ったが、魔力面で見ればいつまでも持つな。体力面ではどうか知らんが。」


「……一つ、お前と対峙して分かった事がある。」


「何だ?」


「喋りすぎなんだよ。」


「……おっと。これはさすがに想定の範囲外だ。」


“ヘルモン”は破られた。

相も変わらずジェイカーは術式兵装を出していない。

使ったのは両手と“ネクローシス”。

そして―――


「まさか両足を使って破るとはな。」


「……単純計算で、“ネクローシス”の威力が2倍になった。だから破れ……いや、腐らせられたんだ。喋りすぎで周りを見る事を忘れたな。」


「喋りすぎってのはよく言われるんだ。悪癖だとは思っているが、そこは癖。強制しなきゃ直らん。」


「つまり直す気が更々ない訳だな。全く、だからお前は此処で死ぬんだよネフィリム。天高く炎立つ。天蓋を焦がす灼熱の天国“炎の柱(コラスィ)”。」


「やっと出したな。そうだよそれでいい。何時までも丸腰のままじゃ、っておいおい。君は一体何を―――」


「黙れ。」


今度はジェイカーが頭上高く“炎の柱”を構える。


「言っただろ、お前は喋りすぎだ。“星の(アストラル)(イグニス)”。」


そして振る。

何時だったか、確か轍醍醐を殺した時に、いや、直接の死因にはならなかった気がするが、とにかくその時に使った火を、私はネフィリムに向け放った。


「戦闘とはこうやってする物だネフィリム。勉強して、今からの戦いに備えろ。」


そう、きっと死んでいない。

紅蓮がネフィリムを遮ってはいるが、死んではいない。

きっと。

20秒程経った後、段々と消えていく視界を埋める赤。

そこに混じったのは、刃を手にした人と、そして巨人と、黒い軍勢だった。

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