惨憺ボディー
「……あれ、おかしいな。ネフィリムはスマタカシとか言う雑魚と一緒だとばかり思っていたぜ。」
「孝は先に行った。」
逝った、だろうな。
この先の戦いには付いてこれないからとか、理由はそんな所か。
「さて御剣爽。俺は君を殺す。」
「……何でだ。」
「何?」
「何で、俺は殺されなきゃならない。理由が無ければ、俺はお前を殺そうとは思えない。」
……くそ!
完全にびびっちまってる。
いや怖いに決まってるだろ。
こんな化け物、ジェイカーさんか本気になった紳くらいじゃないと殺せない。
俺じゃ、絶対に勝てない。
……そう考えれば、俺はびびっていた方が寧ろ都合が良くないか?
こうして何とか場を凌げば、その内紳達が来るはずだ。
それまで何とか生き残れば……だが。
ネフィリムは直情型ではなさそうだし、何とかなりそうではあるか。
「理由がいるのか。君の様な人間は戦えればそれで良いという様な人種だと思っていたが、違うのか?」
「ああ……違うね。今の時代は『理由』が無くても一向に構わんが、俺の時代はそうじゃない。大なり小なり、何でもいいから理由を提示しなくちゃならなかった。そん時
の癖だと思ってくれ。」
と、不審がられない程度にゆっくりと話す。
「……。」
「……?」
あれ?
ネフィリムが驚いた?
これには俺も驚いた。
「君はあの“剣”の世界に……いや、御剣か。成る程、君がそうなのだな。」
「確かに爽だ俺の名前は。て、そうじゃなくて!」
いや爽なんだがって話が進まねえ!
「てめえ何で“俺”の世界を知っている。有り得ないだろ。」
「有り得ない事は無い。今回以前の世界を知っているのは権限者だけ、だろ?」
「……つまりてめえも権限者だった訳か。」
「さあ、どうだろうな。そんな細かい事はどうだっていいだろう。千の重力纏いし力。“煉獄に咲く晩年華”。」
「っ……!」
何と言うか、凄まじいまでの圧倒感、圧迫感だ。
加えて押し潰されそうな威圧感。
こんなもんを相手取っていかなきゃならねえのか……。
「君が俺の前に現れてからきっかり7分。時間稼ぎに付き合ってやったんだ、次は俺のしたい事に付き合え。」
「……は、殺す事にか?」
どうだろうか。
俺は極めて冷静かつ馬鹿にする様に今の台詞を吐いたつもりだが、実際は声が震え、馬鹿にされているのは俺の様な気がする。
「俺は別段殺しが好きと言う訳じゃない。というか、この世界に於てだけ言えば、人を殺して楽しいなどと考える輩はいないだろう。主要メンバーに限れば、だがな。」
「……言われてみればそうかもしれねえな。」
筆頭である涼治は言わずもがな。
ジェイカーさんも、紳も、セナリアも、大地も、金石も、そして俺も。
きっと誰だって、人を殺すのが楽しいなどと言う気の違えた性癖を持ってはいないだろう。
……そう考えればこの世界は全く以て平和だぜ涼治。
「確かに殺人嗜好を持ち合わせている奴はいねえな。ならどうだネフィリム、此処で争う事は止めにするってのは。」
「殺人嗜好を持つ者がいないというだけで、やはり目的の相違は存在する。押し通るには殺しが必須になってくるのは仕方が無い。だろ?」
「ぐ……。」
威圧感が更に増した。
このままだとこれだけで死んじまいそうだ。
しかし此処で安易に抜刀くのも―――
「さっきも言ったが時間稼ぎは終了だ。さっさと構えないとこのまま殺す。」
「……万物を赦したい。それ故に燃やす。“得難いは全てに説き伏す烙印”。愛。“愛すべき未来の焔業”。」
「鎌と刀か。良いだろう。」
何も良くねえよ。
俺は今すぐ帰って煎餅でも齧りながら間抜けなテレビ番組に野次を飛ばしたい気分だってのに。
「……ま、そうはいかねえよな。」
「どういかないのか分からないが、そうだな。君は俺と戦わざるを得ない。」
「はー、やだやだ嫌だね。お前となんか全然戦いたくねえよ。でもな、俺だって曲がりなりにも主人公だったんだ。なら―――」
なら、格好つけねえとな。
この世界には無いが、使わせてもらうぜ魔法擬き。
『電光石火』。
「!」
「はあああ!」
“攻撃”による移動が三輪車のレベルに思えてくる程の速さでネフィリムの背後に回り込む。
流石のネフィリムも目では追えていなかった様だが、流石はネフィリム背後に回った事を察知した。
だが、遅い。
このまま切り裂いて終わ―――
「君はもう少し考えるべ―――」
ネフィリムが何か言ったが、最後までは聞けなかった。
“愛すべき未来の焔業”がネフィリムの左から、“得難いは全てに説き伏す烙印”が右からそれぞれ斜めに体を切り裂いたからだ。
ネフィリムの背中には見るも無残なでかい切り……傷が……。
「……ごふ。そう、いう事か……よ。」
「お前はもう少し考えるべきだったな、剣。」
「まだ……赦されて、いなかったか。」
「当然、だ。」
切り裂いたネフィリムは偽物、というより幻影だった。
ここまでリアルな幻、それは……お前にしか出せねえよな。
「ぐ、あああああ!?」
腹から突き出た“煉獄に咲く晩年華”がくるくると回される。
「この……サディストが……ぐ!がは!おえ……。」
腹からも口からも止め処なく血が溢れてくる。
やばいな……これ、俺死ぬんじゃないか?
「そういえばまだ殺す理由を言っていなかったな。単純明快な理由だ。俺は“お前”を赦していない、つまり憎んでいるから殺す。……いや、殺したと言った方が合って
いるか。」
「調子……乗るな。……まだ、死ん……でねえよ。」
「しかし死にかけだ。……あの世界から4つ目のこの世界でやっと果たせた。更月涼治には感謝しなくちゃいけない。」
「ああ、そうだな。柵から解かれたん……だ。後はてめえの、好きに……しやがれ。」
「そうさせてもらう。」
……そこで俺の意識は途切れた。
何のことだかさっぱり分からないだろうが、御剣爽は此処で脱落だ。
大した活躍は出来なかったが、それでもあいつとの確執が無くなって良かった。
因果応報じゃないが、殺し殺されノーカンだから、これで和解。
これでも和解だ。
何にしても、俺は殺されたが、これで良かったと思っている。
という訳で、じゃあな。
御剣爽死亡。
よって脱落。




