圧倒的優位論
「お帰りなさ……い?」
C.D.Cの部屋の扉を開けると、紳さんが開口一番出迎えの台詞を疑問形で発した。
無理もない。
知らない……いやもしかしたら大地の原点使いと知って驚いているのかもしれないが、女の子が俺達と一緒に部屋に入ってくれば、それはクエスチョンマークを並べたくもなるだろう。
「君は……大地の原点使いの中代頼子さんでしたか?」
「うんそうだよ。そういう貴方は神杉紳さんですね。」
「知られているとは光栄です。」
やはり頼子ちゃんはにこりと笑いながら紳さんに挨拶をし、紳さんもまた笑顔でそれに答えた。
「よし。では諄い様ですがまた会議を行います。状況が変わりました。それも良い方に。強化の権化である王悪魔『キマリス』をライノセンス勢より先に発見。更に彼と同化した大地の原点使いである中代頼子さんがC.D.Cに与してくれる。これは状況が好転した所の話じゃない。こちらが圧倒的に優位になったと言っても過言じゃありません。」
……キマリスが強いのは分かる。
けど、頼子ちゃんってそこまで強いのか?
[逆に問おう。貴様は原点使いを嘗めているのか?]
いや嘗めてはいないけど。
そもそも原点使いってのがどれくらいの物なのか分からないんだよ。
実際に力を使っている所を見た訳じゃないからな。
[富士山の標高を-3776mにする程強力な重力を持つ。世界中の国々を水没させられる。国一つを制圧出来る力を持つ。世界から人工物を消し去る選択権を持つ。世界の電気を全て吸収出来る。高さ一万kmを越える水壁を立てられる。一日を丸々飛ばすだけの速さを持つ。それが原点使いだ。]
……強いですね。
[特に重力の原点使いである春日井直太と大地の原点使いである中代頼子、そして光の原点使いは五つ程頭が抜けているくらいの強さだ。私とベレトと同化している貴様でも勝てるかは時の運任せという程にな。]
それは本当に強いですね。
「強いのは否定しないけど、私じゃ更月さんには勝てないよ。」
「ん?どうして?」
「そもそも戦わないからだよ。戦わなきゃ勝ちも負けもない。無駄な争いが無いだけどちらかと言えばWinWinなの。」
「成る程確かに。」
争いは利益も産むが死も産む。
言ってしまえばそれもWinWinではある。
逆に利益は無くとも生があるのなら、それもWinWinなのだ。
「次に、ExtraMaxWayについてです。」
「前の情報以外に新たな事が分かったんですか?」
紳さんの問いに対してジェイカーが頷く。
「はい。ExtraMaxWayの発動に必要なのは、それぞれの物理呪文の権化、若しくは神が付く悪魔か天使を五柱程準備するかのどちらかだと前言ったと思います。」
「神クラスが五柱ってのは聞いてないですよ。」
と、爽がジェイカーに。
俺は悪魔から聞いていて知っていたからスルーしてしまったが、確かにジェイカーさんの口からは聞いていない気がする。
「そうでしたか?まあ神クラスでも大丈夫だそうです。そしてですね、それらだけではなくあと一柱、神に最も近い悪魔が必要です。」
[……ベリアルが地上に来ているのか。]
へ?
何をそんなに驚いて、っていうか答えを先に言わないでくれよ。
[……済まない。]
「彼の名はベリアル。七十二柱いるソロモン七十二柱の七十三柱目。イレギュラー、存在する筈の無い七十三です。W.W.Sの図書館の奥底にあった、“憑依”、“発現”などの禁忌呪文について書かれた本に記載されていました。」
[……其の物は光り輝く美麗。七ツ子の光を放ち、燃え上がる哲学を持つ。光と闇の境界を依り代とし、その全てを担う。不可視の証明者。其の物の名をベリアル。神を冠する悪魔なり。]
またまたいきなりどうしたんだ。
そんな格好つけた台詞を。
[ジェイカー・リットネスが読んだであろう書物に書いてある文だ。]
知っているのかその本について。
[ベリアルについて書かれた本と言うとあれしか思いつかん。悪魔の聖書とも呼ばれる、ギガス写本。]
……悪魔の言った通り、ジェイカーさんが読んだのはギガス写本だった。
悪魔の聖書、か。
何とも矛盾しているな。
「と書いてありました。そしてその中の一文に書かれていたのが“NaturaProdesse”。自然の恩恵です。続けてExtraMaxWay。何故これだけ英語なのかは分かりませんが、とにかく、“自然が行う完全排他”にはベリアルの力が必要という訳です。」
「あのジェイカーさん。ベリアルは地上にいるんですか?その、誰かと同化して。」
と質問をぶつける俺に、ジェイカーさんはまたしても頷く。
「詳しい事は分かりませんが、愛の国にいるそうです。」
[成る程愛の国か。それなら私が奴を感じられなかったのも納得がいく。それだけの情報があれば十分。]
何が十分なんだ?
[奴は誰とも同化していない筈だ。今は愛の国その物と同化していると考えて違いない。つまり奴は愛の国から外に出る事は出来ん。]
成る程、なら他の地域がベリアルとか言う奴にぶち壊される心配はないな。
[それはどうでもいい。とにかく、愛の国には近付くな。]
「……は?」
「どうしました更月君?」
「あ、いえ。ちょっと待ってください。」
お前今何て言ったんだ。
[愛の国には近付くな。それ以上でも以下でもない。とにかく近付くな。]
いやいや何でそうなるんだ。
意味が分からないぞ。
ベリアルはExtraMaxWayの発動に必要。
こんな事はきっともうライノセンス勢も知っている。
なら先に手に入れるかしないと―――
[貴様は分かっていない。一人間風情がベリアルに勝てる筈がないのだ。行ったが最後、貴様の命も輪廻の枠に捕われ次を待つ事になるぞ。]
な……。
あんたらしくもない、何をそんなにびびっているんだ。
[恐れているのではない。私単体なら勝てる。だが私の力を此処で解放すれば、地球がどうなるか分からないからそれは出来ない。もう一度言うが、私は恐れているのではない。貴様を心配して言っているのだ。]
……はい?
あんたが、俺を、心配?
本当にどうしたんだ?
[……。]
だんまりか。
「更月君?」
「……悪魔が言うんです。愛の国に、ベリアルには近付くなって。」
「ほう。今更な気もするのですが、悪魔と会話する事はできますか?」
[ジェイカー・リットネスと話すのは私も吝かではないが、この件については別だ。行くなとしか私は言わない。]
「話すのは良いけど、この件については考えを曲げる気はないそうです。」
「成る程。なら愛の国に近付くのは極力避けた方が良さそうですね。」
「私もそう思う。愛知県はね、異常だよ。世界と繋がっている筈の私でもあそこの動きは感じられないから。」
ジェイカーさんと頼子ちゃんは悪魔に同意した。
他の奴の顔を見る限り、皆そうっぽいけど。
……あれ?
[どうした。]
いや、そういえば俺、あの旅で愛知県に行ったよな?
[忘れたのか?貴様は愛知県に行く前に石川宗次朗とかいうイヴの力で過去に送られただろう。]
あ、思い出した。
そうだ、確か50年程前に飛ばされて、そこから愛知県に移ったんだ。
あの時はそんな異常を感じなかったな。
[つまりベリアルは此処50年の間に召喚された事になる。]
だな。
って、今はそんな事は置いておこう。
「でもジェイカーさん。ライノセンス勢が愛の国に行ったらどうするんですか?俺達だって行かなきゃなりませんよ。」
「それについては良い案があるから安心して。」
良い案?
……何か果てしなく嫌な予感しかしない。
「彼等が愛の国に行く前に全員叩く。それが良案です。」
笑いながら、一番分かりやすく、一番手っ取り早い案をジェイカーは口にした。




