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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第八章-愛の国-
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正真正銘少女

「ほら、こっちですよ方向音痴の更月さん。」


「……。」


何故そんな言われ方をされなければならないんだ。

どうしてこうなった。

[さあな。]

……仕方ない巻き戻して考えてみよう。

時は30分程前、糸井の家でセナリアと糸井が一戦やらかして直ぐの事だ。

縄から解放されて、誰も見張っていないのだから、当然俺は家から出た。

そこにはやはり当然セナリアの姿も毬の姿も無かった。


「くそ!せっかく見付けたっていうのになんだよこれは!」


[正確には見付けたのではなく見付けられただな。]

煩い細かいんだよ!

……とにかく、一度ジェイカーさんに連絡を入れないと。

連れ去られてから大体2時間くらいは経過しているし心配しているかもしれない。


<あー、あー。テステス。聞こえますかジェイカーさん?>


<更月君!>


<どわ!?>


いきなり大声を出さないで頂きたい。


<今まで何をしていたんだ?心配していたんだよ。>


<すみません。実はですね―――>


と、事の顛末を余す所無く全て話しきった。

当然知っているだろうから会話は割愛だ。


<……申し訳ありません。あんなに近くでそんな事が起きていたなんてまるで気付きませんでした。気が抜けていたんでしょう。店の中、トイレで襲われるなんて有り得ない、と。>


<糸井にも言われました。用心するならトイレの中でもするべきだったって。>


全く以て余計なお世話である。


<とにかく無事で良かった。合流しましょう、今何処にいるか座標を送って貰えますか?>


<はい。ちょっと待って下さい。>


ベリネのGPSを起動する。

……お?


<どうかしましたか?>


<いや、これ、起動しないんですけど。>


<故障ですか?>


<アプリケーションなので故障とかじゃないと思います。>


詳しくないからよくは分からないが。


<そうなると少し厄介ですね。早く合流したい所ですが、取り敢えずばらばらのまま第三地区を抜けましょう。此処は道が入り組み過ぎでGPSでもないと会うのは難しいでしょうから。>


<はい……それは良いんですけど。>


<また何か問題が?>


<実は俺、方向音痴なんです。>


<ああ……。それは大問題ですね。>


いやはや全くだ。

自分が今何処にいるのかさっぱり分からない。

周りに地図は無いし交番も無い。

民家はあるが道を尋ねる事は難しいだろう。

大半が留守だろうし、留守でなくても家の中の研究室に引きこもったりしているだろう。

それに、此処の魔術師達は言ってはなんだが時代遅れも甚だしい。

魔術師の地位が高かったのはその昔の大英帝国の頃の話。

今は一般市民となんら変わりはしない。

筈なのだが、自分達は特別、選ばれた人類だと本気で思っている奴らもいる。

此処の住人は大体がその勘違いプライドを持っている。

そして彼等は自分より優れた者を嫌い、常に寝首を掻こうと必死だ。

自分で言うのも何だが、C.D.Cの面々はその優れた者の筆頭。

懇切丁寧に道を教えるなど糞食らえ、下手をすれば間違えた道を教えてくる可能性が高い。

つまり難しい訳だ。


<……あれです、何とかしてください。>


<それは無茶振りです。とも言ってられないですよね。なんとか脱出します。>


<分かりました。では第三地区から出たら、出られなかった場合は15分後くらいにまた連絡をします。>


<分かりました。>


通信終了。

……さて、歩きだそう。

先ずどちらに進むかだ。

右か左か、選択は二つに一つ。

どっちが北なんだろう。

[今の時間は大体15時。太陽があちらにあるという事は、あちらが西。]

つまり右が西だな。

此処が第四地区寄りなら右に進むのが正解だが、もしW.W.S寄りなら遠回りになってしまう。

第三地区の中央ならどっちに行っても大して変わらない。


「うーん……どうしようかな。」


「迷子ですか?」


「え?」


いきなり掛けられる声。

それは俺が見ていた右の道の逆、つまり左の道に立っている女の子が発した物だった。


「えっと、君は誰だい?いや、こういう時は俺が名乗らなきゃ、かな。」


「いえ。貴方の事は知ってます。更月涼治さんですよね?」


「……。」


どうしてこの子は俺の名前を知っている。

怪しいぞ少し。

考えすぎかもしれないが、ライノセンス勢か?

[いや、あの子は違う。]

……へ?

[いつだったかしっかりとは覚えてないが、大地の原点使いについて少しばかり貴様に話した事があっただろう。]

そういえばそんな事言って……もしかしてもしかすると、なのか?

[問うてみればいいだろう。]

何故か笑いながら言う悪魔。


「そう、更月涼治だ。そういう君は大地の原点使いちゃんなのかな?」


「そうです。悪魔さんに聞いたんですね。」


「ああたった今ね。……って、君は悪魔の事も知っているのか。」


「うん。だって悪魔さんは友達で、あと子孫だから。」


「友達で子孫?」


どういう意味だ?

[友達か。確かに私とあの子は友達と言える様な関係だ。大地の原点使いともなれば世界の申し子の様な物。私と同じ立ち位置にいてもなんら不思議ではない。]

成る程。

[ヨーロッパが消滅仕掛かった時、頼子を落ち着かせたのは私だ。故に友達なのだよ彼女と私は。]

……え?

[何だ?何か気に入らない事でもあるのか?]

いや、別にそうじゃない。

ただ、人の名前をそんなに親しげに呼ぶなんて珍しいなとは思った。

[まあ、なんだ。私も彼女の事を憎からず思っているから自然愛着の様な物が沸いているのだろう。]

へえ。


「友達だという事は分かったけど、子孫ってどういう意味だい?君は人間だろ?」


「そうですよ。子孫って言うのは、私が同化している者の事です。」


「[何?どういう事だ頼子。]」


「あ!悪魔さん久しぶりです。」


お前また勝手に……。

[分からない。]

え?

[頼子が何者と同化しているのかまるで分からない。私の子孫と言っていたから恐らくは悪魔の類なのだろうが、気配が感じられない。流石は大地の原点使いと言った所か。]


「[それで、何者と同化しているんだ?教えてくれないか。]」


「いいよ。」


にこり笑って中代頼子は口を開く。

右手を前に突き出して。


「桎梏の力。ただ単純に圧倒し壊す。“戦闘神(マヒデオス)”。」


「[……成る程私の子孫か。確かに過ぎる程のそれだな。]」


中代頼子……いや頼子が右手に出現させたのは刀身3m程の大剣だった。

別段特徴がある訳ではないが、この表現の仕方もいい加減大概なんだけど、威圧感が凄い。

ぴりぴりという感じより、どんどんと空気がぶつかってくる様なそんな感じ。


「王悪魔『キマリス』。貴方の子孫でありベレトさんの右腕です。」


「キマリスって……。“強化”の権化のキマリスか?」


「みたいです。」


これは何と言うか……この子に対する懐疑心は無くなったけど、出来過ぎではないだろうか。

キマリスが“強化”の権化であるという話はつい数日前に聞いた物だ。

今何処にいるのか、誰と同化しているのか分からなかった彼が、今こうして目の前の彼女と同化している。

ライノセンス勢の誰かに出会う前にC.D.Cである俺と出会った。

どう考えても出来過ぎだ。

それこそ“誰かが考えた話のレール”に乗っかって此処まで来たかの様。

はっきり言って気味が悪い。


「確かに気味悪いかもですね。それを作ったのに意図が理解出来ないのは気持ち良い訳ないもん。」


「え?……今心を読んだのか?」


「あ……。」


俺の問いに彼女はばつが悪そうな顔をした。


「ご、ごめんなさい!」


「あいや、心が読める奴には会った事があるから別に驚いてないし、不快にも思ってないよ。」


「本当にごめんなさい……。他の原点使いと違って、大地の原点使いは世界その物と契約した様なものなんです。……だから私は相手の心を読めちゃうんです。」


「そう、なんだ。」


勝手な想像ではあるが、この子はその力のせいで心に傷を負い、蝕まれていたのではないだろうか。

心を読む。

それはとても便利な力に思える。

相手の顔色を窺って媚びへつらう必要は無い。

自分の評価を上げる事も簡単だろう。

だが、人の心は深層を覗いてしまえばどす黒い物ばかりだ。

そんな物を“覗かされ”続けた先に待っているのは自分の心の崩壊。

耐え切れる訳がない。

自らの黒さすら飲み込む事が出来ない人間が、他人のそういった汚れた、劣悪な心を受け入れられる筈がない。

容量オーバー。

溢れたそれはやはり、心を切り裂きボロボロにしていく。


「……確かに傷付いた事もあります。最初の内はなだれ込む他人の醜さに辟易して泣きそうにもなりました。でも今は平気なの。取捨選択出来るくらいの力が備わったから。」


「そう、か。ごめんね会ってそうそうこんな話を。」


「いえいえ。じゃあそろそろ行きましょう。」


「ん?行くって?」


俺が聞くと、彼女は笑顔を浮かべて言った。


「当然W.W.Sにです。」


そして歩きだす。


「ほら、こっちですよ方向音痴の更月さん。」

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