誤算精算
「ふむ。やってしまったか。」
「殺ってはないと思うわ。ぎりぎりで逃げたから。」
理事長室に集まるライノセンス勢。
草春を除く5人が集まっている。
「良くやってくれたセナリア。俺はあいつが好かなかったから清々した。」
「それは良いことだが、やれやれこれはとんだ誤算だ。」
ライノセンスは顔を振りやれやれとする。
やれやれで済む問題ではないと思うが。
「誤算だ誤算。一体これをどうやって精算しようか。」
「あいつがいたこと自体が誤算だったのではないかライノセンス。俺達の目的に賛成でもない奴がいる時点で誤っていたんだ。」
「まあそうかもしれんが。どうやってC.D.Cと戦うかなー。」
思案顔のライノセンス。
特に悩んでいる様には見えないが。
「何もタイマンにする必要は無いんじゃない?あっちは基本ツーマンセルで動くんだから、下手をすれば一対二になるわ。ならこっちもツーマンセルで動けば良い。私と
毬。ネフィリムと孝。ライノセンスは一人で良いわよね?愛星芽部は一人なんだし。」
「ふむ。そうだなそれでいこう。いやそれが一等良い。」
それぞ正しく名案と言いたそうな顔でライノセンスは頷く。
「と言う訳だ。丁度良くその組毎に生活しているし、どうやらそれは運命だったらしい。各々よろしくやってくれ。」
「うっへっへー。よろしくやっちゃおうセニャリアー♪」
「はいはいそうね。」
「話は以上だ。解散。」
そう言われてネフィリム、孝、毬は廊下に出て行った。
何故かセナリアは残り、来客用のソファーに座る。
「何だセナリア。」
「ちゃんと話しておこうと思ったのよ。ああ、貴方じゃないわよライノセンス。……天井裏にいる芽部、貴女に言ってるの。」
その言葉と同時に、愛星芽部が天井をぶち破って現れた。
また大工が苦労する事になったな。
「あれまぁ。ばれてたのね。」
「鎌掛けてみたのよ。この場での会話は盗聴なりなんなりされているとは思ってはいた。元々貴女の部屋だったのだからそれくらい仕掛けてあっても驚かない。本人
が何処かに潜んでいてもまた然りよ。」
「なははぁ。引っ掛かっちゃったぁ。」
相も変わらず人を苛つかせる話し方である。
我は人ではないので苛々しないが。
「それで、あたしとお話しがしたいの?」
「ええ。それはもうお茶でも飲みながらゆっくりとね。」
そう言うとセナリアは紅茶を何処からか取り出し机に並べた。
「良いよ付き合ったげる。何を話そうかぁ。好きな食べ物について?それとも嫌いな食べ物について?ああそれとも、“七ツ子の光”の主、七十三柱についてかしらぁ?
」
「……やっぱり知っているのね。」
「勿論。あたしは愛の国にも行った事あるからぁ。」
七十三柱か。
ソロモンが封印した、所謂ソロモン七十二柱と呼ばれる悪魔は、七十二柱しか存在しない事になっている。
なっているという事は実際はそうではない事を示す。
どの悪魔より強力な力を持ち、どの天使より美しい姿を持つ。
神に等しい彼の名前は―――
「神悪魔……いえ、最早神と言った方が早いかもしれない悪魔の名前。それが『ベリアル』。」
「ピンポーン。」
「彼が愛の国、その昔“愛知県”と呼ばれていた場所に召喚されてしまったから、愛の国に立ち入る事は禁じられた。」
「その通り。」
ライノセンスがセナリアの後を継ぐ。
「ベリアルが何時、誰に召喚されたかは未だに不明。分かっているのは愛の国にベリアルがいるという事のみ。それも眉唾物と言えばそうなのだけど。何故なら、愛
の国が何時から立入禁止になったのかを示すデータは無く、また誰がベリアルの存在を知り、それを広めたのかも分かっていないからな。だが芽部はさっき愛の国に
行ったと言ったな?」
「ええ行ってきたわ。そして確かにいたと思う。ただ、如何せん広くてね。全部を調べ切れた訳じゃないから何処にいるかまでは分からなかったわぁ。」
紅茶を一口含んでから芽部は一気に話した。
「気になる?なるよね?ExtraMaxWay使うのににいるしねぇ。」
「やはり知っていたか。七柱の権化についても当然?」
「ええ当然。……うーん、紅茶美味しかったぁ。ご馳走様。」
「お粗末様。」
さてと、と言いながら愛星芽部はソファーから立ち上がる。
敵の親玉と裏切り者がいる部屋の中でも彼女は全く警戒心という物を持っていない。
敵として認識しているのかも怪しいレベルだ。
「痺れ薬とか毒とか睡眠薬が効かない体なのよあたしって。正確には効くけどそれによって不利益を被る事は無いって感じかなぁ。」
「いきなり何よ。」
「いやぁちょっと嬉しくてね。清廉で律儀なお嬢様だと思ってたけど、ちゃんと悪者悪者やってるんだなぁって。」
「ふん。」
あの紅茶には痺れ薬と毒と睡眠薬が入っていたのかライノセンス?
……ん、ああそうだ。
トリカブトの抽出液やシビレダケ、あとはクロロホルムを適当に混ぜておいた物だ。
あれはくそマズイな多分。
成る程。
人外である我から見ても愛星芽部はやはり化け物だな。
人の道を完全に逸脱した力を持っている。
「という訳でありがとうセナリア。美味しかったわぁ。あ、でもこれと同じ物をC.D.Cの子達にださないでね。強力な悪魔や天使と同化しているって言っても体は普通なん
だからぁ。普通に死んじゃうわぁ。」
と、思い付いたから取り敢えずといった具合に愛星芽部は言った。
「出さないわよ。彼等はお人よしが多いから、出されたら絶対に飲むでしょうしね。特に涼治はその気がありそうだから。」
出されたら喜んで飲むでしょうねと言ってセナリアも紅茶を飲み干した。
「これで話しは終わりで良い?あたしちょっとやりたい事があるのよ。」
「ああ構わない。……いや、最後に一つだけ聞きたい事がある。」
「ん?何かなぁ?」
「君は幾つなんだ。」
「うーん……。」
ライノセンスの、女性に問い掛ける物としてかなり失礼な物に、愛星芽部は唸る。
「一つだけ言えるのは、あたしがロストルケミスを“生み出した”のが大体150年前くらいって事ね。」
「……生み出した?どういう―――」
「ああ間違えた。一つだけ言えるじゃなくて言えるのは一つだけ、ね。“FADE-out”。」
「ちょっと待て。」
当然消えた愛星芽部は待つ訳もなく、扉は開かれ閉まることはなかった。
大学が始まったというのと、話が中々思いつかないというのがあり、次の更新は一週間後くらいになるかもしれません




