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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第七章-沈黙亀裂-
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沈黙亀裂


「う……眩し……くない。」


……こういう時は目が眩むのがお約束だろ。

[覚めたか。]

ああ、ばっちりな。

手を後ろで、足は真っすぐのまま縄で縛られている事もばっちり分かる。

ったく、しっかり割りまで入れてある。

これはマジシャンでも抜け出せないな。

続いてフローリングに横たわっている事を認識。

見渡してみると所々に乾いた血がこびりついているのが分かる。

……俺は想起庵のトイレで糸井と対峙して、“影の王冠”に皹を入れられて、その後……確か術式兵装を使われたんだったな。

[よく覚えているな。褒美に糸井が使ったシャックスの術式兵装について教えてやろう。“灯に掛かる暗影の綻び”は、端的に言えば空間の術式兵装。明かり有る所には影が出来る。この術式兵装はその明かりと影の境界に出来る空間の裂け目、綻びを空間として使用する。貴様はそこに入れられて此処まで運ばれた訳だ。]

成る程な。

纏めると結構ピンチって訳ですね。

[その通り。全く以て苛つかせる状況だ。]


「起きたか。」


足音も無く、糸井が俺の前に現れた。

爪先と俺の鼻先の距離約5cm。


「ああ。こんなに良い環境で目覚めたのは初めてだ。寝相の悪い俺の為に手と足を固定してくれて、更にベッドから落ちない様に床に寝かせてくれたなんてな。感謝感激だ。」


「は。それだけ話せるなら何の問題もねえな。ま、もうちょっとばかしそのまま寝てろや。作業を終えるまでな。」


そう言うと糸井はテーブルに向き直り何かをし始めた。

……ロープ。

[ん?]

これ“攻撃”使って無理矢理外せないかな。

[やめておけ。外れるのは貴様の間接だ。]

ですよね。


「此処をこうこうこう。」


部屋に響くのは糸井の声と、時折聞こえるグチュだのぶしゅっだのという不快な音だけだ。


「……おい。あんた一体何やってるんだ。」


「ん?……ああ。」


俺の問いにはっきりとは答えず、糸井はニヤニヤしながらこちらを向いた。


「何だよ。ニヤニヤしながらこっちを見るな気色悪い。」


「は。酷え言われようだな。何してるか気になんだろ?見せてやろうか?いや見ろ。」


背後に回った糸井が俺の脇の下に腕を入れて持ち上げる。


「いだっ!?いたたた!おい!後ろに手を回したままの状態で脇の下に腕を入れるな!」


「うるせえな。よっと。」


俺の文句を意に介さず、糸井は俺を持ち上げて椅子に座らせた。

当然そうする事で俺はテーブルの上を見られる様になった訳だが……。

訳だが……なんだあれは?

あれは、まさか脳か?

[いや。脳はあんな縄が塊になった様な外見ではない。]


「綺麗だろ?ほら、漫画とかに出てくる脳って皺だらけで、浮き出た部分がその目の前にある奴みたくロープみたいだろ?わざわざ延べ棒で紐状にしてその形に直したんだぜ。苦労したから褒めてほしいくらいだ。」


「黙れ気が違えた野郎が。」


「は。魔術師なんざ気が違えた野郎ばっかじゃねえか。まあいい。今は解剖してんだよ。見てろ。」


再び不快な音が響く。

内蔵を丁寧に体内から取り出したかと思えば、それを無造作に切り裂いたり。

毛細血管を肉から引き剥がしたり。

歯をペンチで抜いたり。


「……で、俺にこんな物を見せてどうしたいんだ?」


「吐くんじゃねえかと思って。」


意味が分からん……。

見ていても特に何も思わない。

思うにしても、あー、毛細血管って剥がせるんだ、とかそんな事くらい。


「んだよ詰まんねえ野郎だなてめえは。解体する前に、お前もこうやって解体されるんだって教える為にやってんのに。」


「え?俺解体されるのか。」


「てめえは特別だ。さっきも言ったが殺しゃしねえ。これは飯用にその辺で取ってきた魔術師を解体してるだけだ。」


「その辺で、ね。」


さて此処で質問です。

何故俺は解体されている人間が目の前にいるのに何の感慨も持たないのでしょうか。

他人に興味が無いから?

違う。

そもそも心が無いから?

違う。

正解は解体されている奴にある。

あれは孤立狼、何という名前かは失念したが、顔に見覚えがある。

確か低級の名を冠す悪魔と同化していて、その力を使って連続殺人を行っていた奴だ。

因果応報、誰かを殺しておいて生きていられる方がおかしいのだ。

だから俺は、何も思わない。


「あんた、そいつの事知っているのか?」


「あ?だったら何だよ。」


「……存外良い奴?」


「は。笑えねえ冗談だ。そんな風に思われるのは心外だ。悪は悪を貫く。そこに良心なんて入れる奴は死んだ方がいい。」


「あー。それにはどうか―――」


突然だった。

窓はぶち破られた。

ぶち破ったのは飛び込んできた影。

フード付きの黒いマントを纏った誰かだ。


「んだな俺も……。で、糸井。」


「なんだ。」


「この状況は何だ……というかあれは誰だ?」


「怨みは光の速さと同じくらい買ってるから分かんねえよ。」


誰かはマントに付いた埃やらガラスやらを払っている。

あの手は……女みたいだな。

[ふむ……。]


「おい、あんた誰なんだ?出来ればこの縄を解いてほし―――」


「あら。せっかく良い恰好してるのにそれを解くなんて勿体ない。」


「……え?」


聞き覚えのある声。

マントの人はゆっくり……いや結構速攻でこっちを向いて、これまた溜める事なく、躊躇なくフードを被る事を止めた。


「はーい涼治。私の事覚えてるかしら?」


「……当たり前だろセナリア。」


全く……探しても探しても探しても探しても見付からなかった奴が、どうして自分から出て来るんだ。

これぞ正に自分勝手。


「セナリア嬢ちゃんが何で此処に来るんだよ。決行日までは互いに不干渉ってのがライノセンスの決めた決定事項だろうが。」


「但し非常時、異常事態に陥った場合はその限りでないとも言ったわ。覚えていない?もしかして海馬を蟲さん達に食べさせたのかしら?」


「生言ってんじゃねえよ糞尼。とっとと帰れ。」


「そういう訳にはいかないわ。今は非常時であり異常事態。貴方が自分勝手な行動を取ったせいでね。」


糸井に話し掛けつつセナリアは俺を一瞥した。

どうやら俺を掠った事が原因らしい。


「ち……煩えな。手足が喰われる前に帰れ。最終警告だ。警告無しの発砲をされなかっただけ有り難いと思え。」


「お話しにならないわね糸井草春。切り裂こうか、腐る断絶。“多角鋭式(たかくえいしき)六頭(ろくとう)霊影刃(りょうえいじん)”。」


久しぶりに見た深紅の刃を持つ腐食の刀。

ベルサーチを殺した憎むべき刀。

そしてそれを手にしているのはセナリア・ベイグラント。

くそ……くそくそくそ!


「おいおいマジでやんのかよ。」


「マジよ。ちょっと待っててね涼治。草春を制裁、元い“始末”したらその縄解いてあげるから。」


「は。まあそれならそれで良い。中間の裂け目。“灯に掛かる暗影の綻び”。さあ来い蟲。」


空間に黒い裂け目が出来る。

そして段々と羽音が近付いて来て、それ、いやそれらは現れた。


「相変わらず大きいカブトムシね。」


「ヘラクレスオオカブトだからな。」


現れたヘラクレスオオカブトは全部で30匹。

数も数だが、セナリアが言った通り大きい。

角は鋭利に、鉤爪も鋭く鉄板にすら穴を空けてしまいそうだ。

黒光りするボディー……ってあれ。

確かヘラクレスオオカブトの背中って黄緑っぽい色だった気が……。

[恐らく形質変化で金属に近い構造になっているのだろう。あれは酸化してより強度になった状態だ。]

成る程。


「“強制”×十。速度。行け。」


カブトムシがセナリアに襲い掛かる。

結構速い。

俺が“攻撃”星二十を使って移動する時並、大体100mを11秒くらいで走る速さだ。


「ふん。」


しかしセナリアはそんな速さなど意に介さず、10匹のカブトムシを切り裂いていく。

切り裂かれたそれらの断面は全て腐っている。


「やっぱ切れ味良いな。“強制”×二十。硬度。」


糸井は残ったカブトムシ20匹に“強制”を掛け直した……んだと思う。



「はあ!っと……斬れない。」


金属が金属とぶつかり合う音。

それが刀とカブトムシがぶつかって発せられた。

いや、有り得ないだろ。

“強制”で硬度を上げたのは分かる。

が、金属レベルまで上げるなんて有り得るのか。

[それだけ奴の個呪文が強力だという事だ。]


「……斬れないなら斬れないで構わない。“多角鋭式六頭霊影刃”は元々切れ味の良い刀じゃないのよ。名刀と呼ばれる至上の一振りなんかと比べると鈍も同然というくらいにね。だってこれは―――」


1匹のカブトムシが激しい羽音を発てつつ、セナリアの背後から襲い掛かる。


「あらゆる物を腐らせる事しか出来ないんだから。」


綺麗に回転しつつ、セナリアは横薙ぎに“多角鋭式六頭霊影刃”を振るう。

刃が触れた途端、熱した鉄板の上に水滴を垂らした時に起こる様な音を発て、カブトムシはその体を腐らせた。

断面は先程より激しく腐っている。


「あらゆる物、か。……だったらこの世界も腐らせてくれりゃ良いのに。」


「何か言った?」


「いや何でも。そら、種類を増やすぞ。“灯に掛かる暗影の綻び”。」


巨大な蟷螂。

巨大な雀蜂。

巨大な……軍隊蟻?


「これは軍隊蟻じゃない。」


「え?」


「パラポネラという凶悪な蟻だ。刺されればこの世の痛みを全て集約させた苦しみを24時間味わう事になるから注意しろ。」


何だそれは物凄く恐ろしい。

雀蜂、鋭利な鎌を持った蟷螂だけでも怖いのに、そんな意味不明な蟻までとか。

戦うのは御免被りたい。


「それは怖いわね。今度は腱を切られるだけじゃ済まないみたい。」


「たりめーだろ。今は殺す気で掛かってんだからな。」


「そう。でも忘れたのかしら?着ようか、全てを阻む腐食の鎧。“千からなる(レックス)死因の共鳴(コロージオ)”。」


セナリアを赤黒い旋風が包んでいく。

風は一層強さを増して霧散。

するとそこには“多角鋭式六頭霊影刃”と同じ赤色をした鎧を纏うセナリアがいた。


「私の鎧。腐食の王たるサブナクの鎧。貴方の蟲程度では鎧に触れる事すら敵わないわ。」


「おいおい。あまり床を腐らせないでくれよ歩く破壊者め。」


「だったら早く死ぬ事ね。」


セナリアが動く。

同時に雀蜂が襲い掛かる。

が、セナリアまであと20cmといった所でその体は腐り地面に落ちていく。


「はあ!」


紫電一閃、セナリアが刀を振り抜く。

……早い。

あんなにも早く振るえたのか。

“攻撃”を使わずあれならかなりの物だ。

俺と同等かもしれない。

糸井はしっかり避けたが。


「っとお。相変わらず良い早さだな。」


「なら遠慮無く受けなさい。」


「そりゃ無理な相談だ。」


狭い部屋の中で繰り広げられる攻防。

糸井が蟲を放ち、それをセナリアが腐らせる。

セナリアが斬撃を放ち、それを糸井が躱す。


「うわ!?」


「あらごめんなさいね涼治。」


「どわ!?」


「すまんな更月。」


斬撃が俺の頭を掠め、鎌が俺の頬にうっすら赤い線を残す。

こんな狭い所で戦うからだ!


「あんたらやるなら外でやれ!」


「馬鹿ね。お尋ね者の私が大っぴらに戦える訳ないでしょ。」


「俺の住家がばれる。」


「あはは。それについては大丈夫でしょ。貴方は此処で死ぬんだし。」


「は。相変わらず詰まらねえジョークしか吐かねえな。」


お互いが相手の言葉に返す。

そして攻防が激しくなる。

前髪が軽く切られ、飛んできた雀蜂の針が俺の顔の1mm程横を通過した時点で我慢の限界だった。


「外に出られないなら此処でやれ!44の軍勢、無限であり夢幻の攻域。最高末路の生き地獄、解放にして開放の死路。準備は出来た。最上の待つ戦争を辿れ。“ロードデス・ウォーヘル”。」


火花が煌めく。

いつもながら美しいそれを眺めながら、俺は縄の柵から解放された。


「よっと。」


俺が座っていたからか、一緒にベレトの箱庭に入った椅子から立ち上がる。


「さあ、此処で思う存分やってくれ。」


「は。中々気が利いてるな。確かに此処なら思う存分やれる。“強制”星五十×百。速度、硬度。」


ヘラクレスオオカブトの体が鋼鉄化。

雀蜂の針と牙が鋼鉄化。

蟷螂の鎌が鋼鉄化。

パラポネラの牙が鋼鉄化。

最早刃物といえる硬さと切れ味、刺し味を持つ蟲総勢100匹が糸井の前に整列した。


「あらあら恐ろしいわね。本気、かしら?」


「お前相手に手を抜いて戦うのは少々難しいからな。」


「あらそう。嬉しい事言ってくれるわ。なら私も本気でいく。」


セナリアが頭上高くに“多角鋭式六頭霊影刃”を掲げる。

刃に纏わり付く六頭の蛇が三頭に。

三頭の蛇が一頭に。

そして最後には一頭が一刀へと同化した。


「“腐食の王(サブナク)”。」


「それが“多角鋭式六頭霊影刃”の、尤も見た目は蛇がいなくなっただけの様だが、真の姿か。」


「……その通り。草春、気合いを入れなさい。一瞬で決める。“攻撃”星……五百。」


「う……。」


瞬間、激しい吐き気に襲われる。

恐ろしいまでの威圧感、空気が腐る臭い。

それらが一斉に俺へと降り懸かり、胃の内容物を逆流させようとする。

[“影の王冠”を召喚させ、“回復”を体に掛け続けろ。そうすれば収まる。]

了解した……。

言われた通りに召喚し、“回復”を掛ける。

すると吐き気が収まって楽になった。

しかし、“攻撃”星五百って。

普通、一度に使える星は自分の物と同化した者の星プラスαまで。

それ以上に一気に掛ければ、体への負担は計り知れない。

セナリアは上限の十倍以上を掛けた。

本当に一瞬で決めるつもりの様だ。


「“攻撃”を、全て“腐食の王”に掛けた。貴方にこれが防げるかしら?」


「防いだ時点で俺の勝ちだな。そんな無理な使い方をすればお前の体はがたがたになるぞ。」


「……喜びなさいな。これくらいしないと貴方を殺せないと思っているのだから。」


セナリアの腕に力が篭る。

……振るうぞ。

“多角鋭式六頭霊影刃”改め“腐食の王”が―――


「っ!うわ!?」


俺に向けて振るわれた訳でもないのに俺を覆う激しい風圧。

吹き飛ばされない様にするだけで精一杯だ。

糸井は、どうなった。

[分からん。]

風圧で巻き上げられた砂埃が糸井の姿を隠す。

蟲もどうなったかは分からない。

だが、あれだけ“強制”掛けたりしてたんだし、まさかこのまま死ぬなんて事は……。

段々砂埃が晴れ、その向こうに立つ人影が見えてくる。


「……くそが。」


そこには左腕腕を無くし、左の脇腹を抉られ血を垂れ流す糸井がいた。


「死にはしなかったが、くそだマジで。ま、死ななかっただけでも運が良かった。」


「……良い人じゃないわよね草春って。」


「は?」


「2億5千万分の1。四捨五入して3億分の1。これって精子戦争の末一個の精子が勝ち抜く確率なのね。それを制してきたからこそ私も貴方も産まれてきた訳じゃない?つまり私達はとても運が良かったの。だから思うのだけれど、私達って産まれるために運を使い果たしたんじゃないかしら。」


「ほうほう。」


「だってー3億分の1を引き当てたくらいの超幸運なのに、究極の運ゲーであるじゃんけんにすら負けるじゃない?」


「言われてみればそうだな。」


「つまり、人には先天的な運って皆無なのよ。で、人はその後の行いによって運を貯めてくの。幸運だったら良いことを、悪運だったら悪いことを。それぞれやるのが筋ってもんよね。だとするなら貴方が運が良いのはかなり大分相当おかしいでしょ。それこそ呵呵大笑するくらいにね。」


「そう、だな。それより、決めるなら早く決めろ。……そろそろ話すのが辛くなってきた。」


あれだけ血を流せば辛いのは当然……いや、死んで当然だな。

まだ生きているのが不思議なくらいだ。


「殺したいのは山々なのだけれど、私もさっきので無理し過ぎちゃって体を動かすのも面倒なの。その出血ならあと1分も持たないだろうから待てば?」


「ドSが……。痛みは無いが、血が足りなくな……って……。」


そこまで言って糸井は倒れた。

いつかの芽部の様に血まみれで。

……もう此処にいる必要はないな。


「“ロードデス・ウォーヘル”解除。」


景色が一転、箱庭から室内へと。


「……あれ?」


「ち。逃げたわねあいつ。」


移ったのは俺とセナリアだけで、床にあるべき糸井の死体はそこに無かった。


「多分“灯に掛かる暗影の綻び”を使ったのね。草春は“修復”を使えない筈だから腕は無くしたまま、か。まあ十分ね。」


セナリアは鎧と刀を解除して突っ立っている。

捕まえるなら今だ。


「集約。結合。実現。影に形を。“影の王冠”。」


「あら。これはどういうつもりかしら涼治。」


彼女の首筋に刃を立てる。


「どうもこうもない。お前を連れて帰る。」


「個人の意見を尊重しない人は嫌われるわよ?」


「構わない。……俺は!お前を敵になんてしたくない。」


「あらそう。毬。」


「はいはーい。強くなりたい。」


「は?う、ぐ……!」


いきなり現れた毬に驚いたのもほどほどに、体の自由を奪われた。


「私が何の対策も立てないままあんな無謀な事をする訳ないでしょうが。」


「いてっ!」


でこに衝撃。

所謂デコピンをかまされた。


「ありがとう毬。助かったわ。」


「いやいやー。これくらい軽いよセニャリアー。」


「そのセニャリアーっていうのを止めてくれればもっと助かるわ。さてと涼治。私はもう行くわ。」


「ま……て!」


セニャリアー、じゃなくてセナリアと毬が俺に背を向け扉を開けようとする。


「ああそういえば忘れ物があったわ。」


ドアノブに手を掛けた所で俺に振り向く。

そしてそのまま俺の前に来て―――


「ん……。」


「むぐ!?」


唐突に唇を奪われる。

驚き目を見開く俺の目の前には、目を閉じて俺に口づけするセナリア。

とても綺麗だ……って違う!


「何するんだ!」


「何ってキスだけど?」


口を解放されてようやく話せる様になった。


「何なんだ一体!勝手な事ばかりして……!」


「人間は皆勝手よ。不自然。だから消す。そういう事よ。じゃあね。」


「待て!……待ってくれよ!」


そんな情けない声を上げる俺を残し、二人は家を出て行った。

何も出来ないままの、情けない俺を残して。

長ったらしい文章になって申し訳ないです

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