対峙して退治
今日も今日とて俺とジェイカーさんは第三地区を探索していた。
「中々見付からないもんですね。」
「仕方ないでしょう。第三地区には千を超える家屋がある。それを一つ一つ虱潰しにしていくんです。どうしても時間は掛かってしまいます。」
二人で、しかも一緒に行動していれば更にだ。
W.W.Sの魔術師に手伝ってもらうのも有りと言えばそうなのだが、C.D.Cのメンバー以外に任せるのは危険だ。
相手は全員孤立狼。
名を冠す者と同化している奴らだ。
C.D.Cに入る条件は名を冠す者と同化している事。
こう言ってはなんだが、C.D.Cに与していないW.W.Sの魔術師には荷が勝ちすぎる。
五人一組で行動させても尚危険だろう。
それにそれは俺の望む事ではない。
「んー。此処らで一度休憩にしましょう。そろそろお昼ですし。」
「そうですね。この辺に飯屋ってあるんですか?」
「ふむ、少し待ってください。」
ベリネで調べているのであろう。
ジェイカーは目だけを動かして何かを見ている。
「……お、ありましたありました。此処から200m程先に想起庵という焼肉屋がありますよ。少々値は張りますが中々の物を出す店の様です。“マツザカウシ”という今は絶滅した美味しい牛肉を出してくれるとかなんとか。」
「マツザカウシ?今は絶滅しているのに出せるんですか?」
「何でも、今から100年前に絶滅した高級食材として食べていた牛みたいですね。店主の祖先が超瞬間急速冷凍した物で、品質は当時の物と同等らしい。マツザカウシの他にも“ヒダギュウ”や“タジマギュウ”、“ヨネザワウシ”も出してくれる珍しい店です。」
「ほー。」
感心した声を上げてはみたものの、全部知らない。
[私も名前しか知らぬな。感じで書くとそれぞれ松阪牛、飛騨牛、但馬牛、米沢牛。全て100年程前に絶滅した。]
へー。
何で絶滅したんだ?
[理由として挙げられるのは金持ちの独占、S.P.Pの実験用として使用されたから等だな。現在の牛肉は統一されて日本牛と呼ばれておるだろう?]
そうだな。
成る程、それがS.P.Pで作られたそれらの子孫って訳か。
[その通り。]
「さ、着きました。」
歩いた先に着いたのは、引き戸に暖簾という昔ながらのスタイルの店だった。
「ラッシャイマセー!」
引き戸を引くとラッシャイマセーという元気の良い声が聞こえてきた。
席はカウンターに4席のみ。
店自体はとても狭苦しいが、圧迫感は全く感じさせない。
「はーいらっしゃーい。お二人でよろし?」
「え、ええ。よろしです。」
おお……ジェイカーさんが圧倒されている。
それも仕方ない。
カウンターの向こう側の日系じゃないっぽい人のテンションが凄まじく高いからな。
「私この店の主のパーキンス・J・ケルビネーターねー。JはジェイコブのJねー。」
「……パーキンス?とはもしやイヴのですか?」
「おお!私の事知ってんの?そりゃ嬉し恥ずかし。」
「まさか焼肉屋を営んでいるとは。どうも、私W.W.Sで魔術師をやっているジェイカー・リットネスという者です。」
「ありゃま。貴方がジェイカー!有名ですねー。名前は知ってまっせ。」
どうもどうもという具合で名刺交換をしている。
名刺交換は良いんだが……。
「あのすみません。俺腹減ったんですけど。」
「ああそうだね。パーキンスさん、お勧めの肉は何ですか?」
「もちのろんで松阪牛や米沢牛ねー。高級だからうめー言うあれではないけど、実際んまい。是非食べてみるよろし。」
「成る程。お任せでお願いします。」
「ガッテン承知の助。ちょいお待ちしてくれよー。」
何と言うか、客によっては怒りそうな口調で話してパーキンスは店の奥に行った。
「彼、パーキンスさんってイヴなんですか?」
「ええそうですよ。彼はTASCの人間です。能力は氷系。かなり有能なイヴですね。」
「成る程。っと……。すみませんちょっとトイレに。」
断って立ち上がり手洗いに行く。
扉を開くとそこは……!
「な、何だこれは。」
[無駄に広いな。]
いや、広いというより広大と言った方がいい。
ぱっと見20畳くらいある。
個室が10、男子用が20設置してある。
あるけど必要無いだろどう考えても。
「……まあいいか。さっさと済ませて美味い肉を食そう。」
歩いて一番奥の便器まで行く。
そこで便器に向き合っていざ、と思った所でふと疑問が。
今個室の一つに鍵が掛かっていなかったか?
[掛かっていたな。]
……誰が使っている。
パーキンスさんは店の奥に行った。
ジェイカーさんはカウンター席に座っている。
他の客がいる形跡は無かった。
「となると……。」
「ツーマンセルで動く、か。は、中々良い考えだ。俺達サイドで二人一組で動く奴は糞ネフィリムと孝しかいねえ。流石の俺も、一人で更月涼治とジェイクを相手にしようとは思わねえからな。だがまあ、用心するなら便所でもするべきだったな。」
ジャーっという水が流れる音。
そして扉が開かれる。
「は。まあ安心したとも言えるがな。一緒に便所に来たらモーホーだったのかと思っちまうからな。」
「糸井草春……!」
「ああそうだ。……って、便器に向き合ったまま話してんじゃねえよ。」
「いや催してるから……。」
「は。じゃあさっさと済ませろ。」
お言葉に甘えてさっさと済ませる。
視線が気持ち悪い……。
「っと、済まなかったな。で、何の用だ?」
「はっはっは。馬鹿かてめえ。掠いに来たんだよ。」
「掠う?殺すの間違いじゃないのか。」
「殺しゃしねえよ。まだその時期じゃねえし。だが、俺の有利に運ぶにはてめえがいるんだよ。」
<ジェイカーさん。>
ベリネでジェイカーに話し掛ける。
<……ジェイカーさん?>
「は。邪魔者なら入らねえぜ?電波遮断してるからな。」
「ち。流石、無駄に金持ちなライノセンス勢だな。」
なら此処から出るまでだ。
「集約。結合。実現。影に形を。“影の王冠”。」
「ああ?なんだそりゃベレトの術式兵装じゃねえか。悪魔の術式兵装を出せよ。」
「お前ごときに見せる物じゃない。更月涼治、押し通る。」
何かされる前に突撃。
一気に間合いを詰めて左下から振り上げる斬撃。
「慌てんなよ更月。」
糸井は軽く避け、そのせいで俺は個室の扉を真っ二つにする事になった。
……いくらするんだこれ。
「解明。一重二重三重四重。対象“影の王冠”。“解除”。」
「ち……!」
シャックスの術式兵装か!
“影の王冠”に皹が生える。
砕けはしなかったが、これでは使えない。
[ベレトとシャックスの力量は殆ど同じ。破壊まではいかないが、がたつく事になる。“影の王冠”は仕舞え。]
分かった。
「解除。」
「“影の王冠”を仕舞ったか。は、中々良い判断だ。……っと、そろそろ時間だな。中間の裂け目。“灯に掛かる暗影の綻び”。」
[後ろだ!]
「え―――」
俺の呆けた声は最後まで続かなかった。
俺は、空間の裂け目に飲み込まれた。
「……遅いですね更月君。こんなに美味しい肉が焼き上がっているのに。」
「んまいねー。」
その頃ジェイカーはパーキンスと共に、松阪牛に舌鼓を打っていた。




