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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第六章-マリオネット-
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理事長争奪戦

更月涼治が学校に来なかった期間は4日。

2日目にそれは起きていた。

此処は理事長室。

現在、愛星芽部を殺したと虚偽の報告をして、その座に君臨しているライノセンスがいる部屋だ。

彼は今机の上で眠っている。

無作法というか我が物顔というか、とにかく失礼な態度には違いない。

確かに現時点では理事長として存在しているが、実際はそうではなく、他人の部屋の机の上で寝ている事に同等だからな。

彼の特技は何処ででも眠れるという有り触れた物ではなく、何時でも気絶出来るという稀有……というより異常な物だ。


「おーい起きてよライノセンス。」


理事長室に女の子の声が響く。

いや、声だけ聞くと女の子の様に思えるが、実際はそうではないのかもしれない。

もしかしたら30過ぎかも。

もしかしたら男なのかも。

姿を見ないことには分からない。


「分かるでしょうがぁ。あんまりふざけた事言ってると消すわよ。」


……ま、少なくとも男なのかもしれないという疑いは晴れた。

何故なら、その女“愛星芽部”は理事長室の中でその姿をしっかりと晒しているからだ。

チェックのミニスカートを履き、上はカッターシャツ。

そして長い黒髪を二つ結んでツインテールにしている。

まるで学生だ。

とてもラスボスとは思えない。


「学校なんだから制服でいいでしょうがぁ。コスプレとか言ったら殺す。ついでに、そのモノローグを今すぐ止めさせないと殺す。」


「……おお怖い。あまり女の子が殺すとか言わない方がいいぜ芽部。」


「ふん。」


そっぽを向く愛星芽部。

長いツインテールが頭の動きに釣られて揺れ動く様は実に面白い。

蛇が頭に噛み付いている様だ。


「生意気な事言うわね。ぶち殺すわよ?」


「は。そうしに来たんだろう?」


大方理事長の座に居座っているライノセンスをボコボコにしに来たのだろう。

いや、ボコボコで済めばいいが。

ライノセンスと愛星芽部が戦闘を行うのは2度目だ。

1度目は3年前だか4年前だか……忘れた。

月日の事などどうでもいい事だ。

重要なのはその結果だ。

端的に言えばライノセンスの惨敗。

手足をもがれ、腸を腹から出した状態で地面に仰向けになったライノセンスは、それでも笑っていたっけな。

狂人みたいだった。


「また前みたいに手足をもいで腹から腸をぶちまけさせる算段なんだろうが、今回はそうはいかない。」


「はぁー?なんだか自信まんまんね。うっざぁー。」


「何とでも言うがいい。大体、あの時の俺は悪魔とも天使とも同化していなかったんだ。負けて当然と言える。」


そう、同化していなかった。

“我”は客観的に見ていただけだった。

まさか当事者になるとは、やれやれ人生どうなるか分かったもんじゃない。


「そう言えばそうだったね。馬鹿なライノセンス。自分の力があたし程と思っていたなんてホント馬鹿ぁ。」


「煩い。十月九日完全殺人。“最上たる所以の鎌(ハルパー)”。」


ライノセンスの左手に鎌、長さ約2.5m、刃渡り1m、他には特筆すべき所は無い物、が発現した。

神天使である我、サリエルの持つ鎌。

しかしその名は知っての通りギリシャ神話に出てくるメドゥーサ殺しの鎌だ。

それを縁も所縁も無い我が何故持っているか。

それは……単純に別物の鎌にその名を冠しただけという理由ですすみません。


「1と7。2と6。3と5。残る数字は一つにして絶対なる死の蜜。私はそれを愛し尽くす。“栄光の手(カウェア)”。」


次いでライノセンスの右手に発現するは剣の術式兵装である“栄光の手”。

神悪魔であるネビロスの剣。

刃には禍禍しく黒い刻印、炎を彷彿とさせるそれが刻まれている。

悪魔らしい術式兵装だ。

“最上たる所以の鎌”、“栄光の手”。

どちらも中の者を殺す事に長けた術式兵装だ。


「ふーん。ホントにサリエルとネビロスと同化してるんだぁ。お子ちゃまだったライノセンスも成長したもんだぁ。これなら結構良い線いきそうね。」


「あれから結構経っているからな。さあ来いよ。それとも俺からいこうか。」


「生意気言うわね。遊び九割九分九厘、ちゃんばら一厘ってとこかなぁこれだと。絶叫。“慄然する十二の咆哮(メルトロス)”。」


愛星芽部が出したのはロストルケミスの持つ剣。

説明は前に誰かがしてくれたんじゃないかな。


「さあさあ掛かってきなさいなぁ坊や。」


「いくぞ。第二項絶対損傷。」


「いっつ……?」


ライノセンスは愛星芽部に近付いてもなければ剣を振るってもいない。

だと言うのに、愛星芽部の左脚に突如として切り傷が生じた。

それなりに深く、それなりに出血しているが、致命傷ではない。

一度だけ対象に致命傷にならない傷を負わせる。

それが“栄光の手”の力である第二項絶対損傷。

致命傷にはならないが、脚を斬ればそれだけでこちらのアドバンテージにはなる。


「卑怯くさい事するわね。」


「これくらいのハンデはあって当然だ。それだけ俺と君の力の差は大きい。」


「よく分かってるじゃない。どうせこの傷“回復”で塞いだり、“超回復”で治したり、“修復”で直したりなんて出来ないんでしょ。」


「その通り。俺が“栄光の手”を消すまでその傷は癒えない。“攻撃”星九十。第一項七苦。」


ライノセンスが“攻撃”星九十を脚に掛ける。

そして駆ける。

と言っても室内だ、ライノセンスは直ぐに愛星芽部の目の前まで移動して彼女に切り掛かった。

しかし、やはり強者……いや王者とでも言うべきか。

愛星芽部は軽くその斬撃を受け止めた。


「中々良い一撃ね。」


「普通に止められると中々凹む。」


せっかく使った第一項七苦も不発。

ライノセンス無念。

バックステップをして後ろに下がるライノセンス。

どちらも互いの間合いに入っているが動けない。

……いや違うな。

ライノセンスは動けず、愛星芽部は動かないだけ、か。

やはり愛星芽部は強い。

多めに見積もっても、ライノセンスが勝てる確率は30%と言った所だろう。


「ほら来るんじゃなかったのライノセンスちゃーん?」


「喧しい。第四項天刃。」


ライノセンスが英雄よろしく剣を天井へと掲げる。

第四項天刃。

天から剣を降らせる技な訳だが。

基本的にこれは外で使う物だ。

屋内で使うと……。


「わわぁっ!」


天井を突き破って剣が降り注ぐ。

愛星芽部は慌てている様子だが、それは剣が自分の頭上から降ってきたからという理由ではないだろう。

何故なら彼女は全ての剣を弾いているからだ。


「ちょっと!私の部屋を壊さないでよ!」


と言いながら軽く弾いている。

やはり凄まじく強い。


「……天刃固定。第五項地炎。」


掲げていた剣を次は床に突き刺すライノセンス。

第五項地炎。

大地より炎を噴出させる有り勝ちな技な訳だが。

これも基本的に屋内で使うものではない。

先に述べた通り、大地より炎を噴出させる技だからだ。

天井が壊れた次は床が焦げる訳だ。

ライノセンスの目の前に炎の柱、炎柱が出現する。

それを切っ掛けとし、愛星芽部に向けて炎柱が次々に出現していく。


「天井の次は床って。全く直す大工さんの身にもなってよ。絶対的最高防ぎ―――」


愛星芽部の言葉は彼女の足元、それと周囲から現れた炎柱に飲み込まれる事によって掻き消された。


「“規律に纏いし(オリ)堅牢なる装甲(ハルコン)”を使った様みたいだな。……一等良い。そうこなくっちゃ張り合いが無い。」


恐らく防がれたであろう一撃を前にしてそんな事を呟く。

ライノセンスも数年前とはやはりレベルが違う。

そして恐らくだが、愛星芽部のレベルは数年前と然程変わりが無い。

その時点で彼女という存在は出来上がっていたのだから。

段々と弱まってきた炎の中には、やはり無傷の愛星芽部が立っていた。


「なんだ“規律に纏いし堅牢なる装甲”は見せてくれないのか?見せてくれたら一等良かったんだが。」


「“オリハルコン”は神聖な物なのよ。そう簡単には見せられないわね。」


“慄然する十二の咆哮”を担ぎながら愛星芽部は言う。

諸刃なのだから下手をすれば肩が切れそうだが、そこには突っ込まないでおこう。

相変わらず彼女は攻めて来ようとはしない。

強者故の余裕なのか、それとも面倒なだけなのか。

心が読める筈の彼女だが、我の問いには答えてくれない。


「それで、次はどんな手品を見せてくれるのかしらぁ?」


「手品呼ばわりとは、ネビロスも嘗められたものだ。」


……“最たる元始の欲たる瞳(マガン)”と“未来は(フトゥールム)我が体の中にあり(リーベルタース)”を同時に使うとどれくらい疲れるか分かるか?

おっと、此処に来て初めてライノセンスのモノローグだ。

そういうのは良いから。

君も他の奴みたいに[]で区切ってくれれば一等良いんだがな。

癖の様な物だ仕方ない。

魔眼の同時使用ともなれば、一週間程目が見えなくなる覚悟で行った方が良い。

術式兵装使用時の対価が中の者に依存するとは言え、実際に使うのはライノセンスだ。

激しい疲れ目になるのは致し方ない。

……その程度なら良い。


「魔眼って?」


「おや、森羅万象知らぬ事など無いと思っていた君にも知らない事が有ったか。」


「あたしはあたしの知っている事以外に興味なんてないの。そんな事は存在しないのと同義。」


えらく独善的で唯我独尊な考え方だ。

それが彼女の最強たる所以なんだろうが。


「中々良い考え方だ。参考にさせてもらう。……四の欲望。精神の浸蝕。瞳に映る元始の世界。“最たる元始の欲たる瞳”。先は私の五寸先。“未来は我が体の中にあり”。」


「うわお。目がかっきーね。」


右目に“最たる元始の欲たる瞳”。

黒目が銀色に変色し、猫の様に縦に鋭く変化している。

左目に“未来は我が体の中にあり”。

こちらは黒目が白に、白目が黒に変化し、形は変化していない。


「……少しくらくらするが、仕方ない。左右で見る景色が全く違うんだからな。」


1、2、3、4……5。


「あつ!?あっちっち!」


突如として、愛星芽部の左足を白い火……我、サリエルの持つ“魂の火”が覆う。

“最たる元始の欲たる瞳”第二の力。

連続して5秒見続けたあらゆるモノに“魂の火”を着火する。

8、9……10。


「あっちっち、って熱くない?けど……痛い?」


愛星芽部の体が後ろによろめき壁にぶつかる。

よろめいた理由は、左足の消滅。

第三の力、連続して10秒見続けた部位の破壊。

愛星芽部の左足は一瞬にしてあちらに飛ばされた。


「卑怯とは言うなよ。“攻撃”星九十×2。」


九十を脚へ、九十を二つの腕に四十五ずつ掛けてライノセンスが愛星芽部に瞬時に近付く。


「うっざぁ。」


ライノセンスは大きく体を捻り、“栄光の手”と“最上たる所以の鎌”を左へと横薙ぎに振るう。

愛星芽部は“慄然する十二の咆哮”を構えて防御を図ろうとするが……。


「へ?あぐ……。」


「……未来は読んだ。君がそうやって防ぐ事も、な。」


“慄然する十二の咆哮”の力は凄まじい。

持ち主の力量に関係なく、それは降り懸かる全ての火の粉、炎を遮る。

“攻撃”星九十の移動の勢い、また四十五ずつ掛けた腕を使っての斬撃。

それすらも、今の愛星芽部の状態でも防げる程の力を持つ術式兵装、それが“慄然する十二の咆哮”である。

“未来は我が体の中にあり”が読んだ未来は、簡単に防がれる斬撃。

本来ならそのままライノセンスの二つの術式兵装が弾かれて終わりの筈だった。

だったのだが、ライノセンスは自らの術式兵装が“慄然する十二の咆哮”に当たった瞬間手を離した。

二つの術式兵装は弾かれず、床に落ちて音を発てた。

その時点で未来は変わってしまった。

ライノセンスの望みの通りに。


「そして……こほ。懐に潜ませておいたナイフであたしを刺した訳、ね。やる……じゃない。」


「その通り。」


「あ……いた、いたた……。ちょっと止めてよ。」


ライノセンスが脇腹に突き刺したナイフを横に動かしていく。

肉を裂く不快な音が部屋に流れる。

大量の血がパタパタと音を発てて床に落ち、愛星芽部とライノセンスの下に血の湖を形成していく。


「ち……化け物か。これだけして何で死なない。」


「いやぁ……ちょっと、流石のあたしも無理……ぽい。」


確かに、愛星芽部の顔からはどんどん血の気が引いている様だ。

腕からは力が抜けて“慄然する十二の咆哮”を床に落としている。


「紳士的振る舞いを心掛ける俺ではあるが……君からされた仕打ちは許せない。屈辱を味わいながら死ね。」


「ふ……くくく。情けないライノセンス。女に屈辱を掛けら―――」


ぐしゃ、と。

凡そ百人の衆人に聞けば百人が不快になったと言うであろう音が響く。

……詳しい説明は省くが、ライノセンスは“最上たる所以の鎌”を使って愛星芽部の頭を、以下省略。


「……全く、これを掃除する掃除係のおばちゃんがかわいそうだ。」


確かに同情したくなるレベルの“汚さ”だ。


「君は一応天使の癖して言うことが相変わらず辛辣だなサリエル。」


これが素なのでね。

いやはや、まさかライノセンスが愛星芽部に……ってライノセンス。


「なんだ……ちっ。やっぱり化け物だ。」


血や肉片はそのままに、愛星芽部の本体は姿を消していた。

展開が早すぎる。


「ロストルケミスの術式兵装なりを使って離脱したんだろうな。……ま、俺は最後に“最上たる所以の鎌”を使ってやったから、あと9回か。」


そうだな。

……取りあえずライノセンスVS愛星芽部の戦闘結果、1勝1敗。

一矢報いたライノセンスであったとさ。


「……次はどうなるか分からんがな。」


ライノセンスが最後に呟き、この話は終わり。

理事長争奪戦、勝者ライノセンス!

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