似非探偵
「ちょっといいかしら涼治。」
「ん?何だ?」
W.W.Sで授業を受けた後、同じ物を受けていたセナリアが声を掛けてきた。
「んー。此処じゃちょっと話しにくいから食堂に行かない?丁度お昼時だしね。好きな物奢ってあげるわよ。」
「へえ?お前がそんな事言うなんて珍しいな。」
セナリアは良いとこの、下世話な言い方をすれば金持ちのお嬢様だ。
しかし、いやまあしかしというのもおかしな話ではあるが、セナリアは倹約家なのだ。
その昔にジェイカーさんが俺に高級学食を奢ってくれたが、W.W.Sに通う奴皆が金持ちって訳じゃないし、俺だってその一員だ。
リーズナブルな飯は歓楽街に行けばある。
俺は勿論の事、セナリアも普段はそれを食べている。
だと言うのに、セナリアは食堂で奢ると言っているのだ。
「さあどれにする?」
「え?いやでも……。」
「いいのよ。ほら早く選びなさいな。」
「……じゃあお言葉に甘えて。」
俺はオムライス。
セナリアはコーヒーを頼んで席に着いた。
「うん、やっぱ旨いな此処のオムライスは。」
「あら、いつも繁華街で食べている貴方が此処の料理を試した事があるなんて驚きね。」
「俺がベレトと同化した時にジェイカーさんが奢ってくれたんだ。」
「そう。此処で頂ける物は全部凄く上質なのよ。家で普段食べている物とあまり変わらない。下手をすればこちらのが良い物を出しているわね。」
「そりゃ旨い訳だ。」
程よく固まった卵にスプーンを入れて掬う。
中身はオムライスらしくケチャップライス。
卵にはハヤシソースが掛かっている。
俺カレーはダメなんだけどハヤシは好きなんだ。
[おかしな奴だな。]
よく言われるよ。
「高ければ必ず美味しいという訳ではないけどね。……無駄話はこれくらいにして本題に入らせてもらうわ。」
「そうしてくれ。」
「……ベルサーチ・マリオネット。」
その一言に、進んでいたスプーンの動きは止まった。
「ベルサーチさんがどうしたんだ?」
「正確には彼を殺した犯人について。」
犯人……。
外部記録記憶映像外射機というやたら長い、そして適当なネーミングの機械で見たベルサーチの記憶を思い出す。
……そう、犯人は毬だ。
大城毬、ライノセンス勢の一人。
普通に接しているし、ベルサーチさんには悪いけどそこまで悪い奴だとは思っていない。
「……毬だよな。」
「そう。大城毬が犯人だという事になっている。」
「なっているなんて意味深な言い方をするな。まるで犯人が違う奴だとでも言いたい風だぜ。」
「彼女は犯行を否定したでしょ?」
「それはそうだけど。」
あいつは完全に否定していた。
そして、それを信じたいと思っている俺が此処にいる。
「記憶の中の彼女、“多角鋭式六頭霊影刃”を使っていたでしょ。」
「ああ。おかしいとは思ったけど、それについては解決しているよ。他人の術式兵装をコピーだかなんだか出来る奴がいるんだろ?」
「それガセよ。」
「そうなのか?!」
「他人の能力をコピー出来る人がいるのは本当よ。出宮って名前の人なんだけど、その人はイヴの力、つまりアダム。そしてワレラの特性をコピー出来るだけなのよ。
あの人は魔術師じゃないから術式兵装はコピー出来ない。更に言えば、今の所他人の術式兵装だけをコピー出来る術式兵装や呪文は確認されていないわ。」
「へえ。」
確かに俺も聞いた事がない。
毬はドルイトスが使っていた“睥睨する七万の瞳”を使ってはいるが、あれはドルイトスの“目”を利用してヘベルメスと再契約しただけだ。
愛星芽部はセンマイカから彼の魂と中にいたアルマロスを引き剥がして同化しただけ。
どちらもコピーではない。
[私も術式兵装の複写をする悪魔や天使がいるというのは知らない。更に言えばそれを行った魔術師は過去にいなかった。]
成る程。
それはもう少し早く言ってほしかった。
「ロストルケミスみたいに引き剥がす術式兵装を使う者はいる。けどその場合中の者ごと引き剥がすから、もし私以外の誰かが“多角鋭式六頭霊影刃”を使っていたら
私の中からサブナクは消えている。」
「だな。……ん?」
じゃあなんで犯人は“多角鋭式六頭霊影刃”を持ってベルサーチの記憶の中にいた?
“私以外の誰かが“多角鋭式六頭霊影刃”を使っていたら私の中からサブナクは消えている。”
「……おいまさか。」
「はあ。馬鹿な考えを口にするのはやめてね。コピーが出来る魔術師がいると都合良く勘違いしていた貴方に、わざわざそんな魔術師はいないと話し、剰えサブナク
が消える云々の説明を犯人がすると思う?私は思わないわね。」
「そりゃ確かに。」
大体、セナリアがベルサーチを殺す訳ないよな。
「記憶に写っていた大城毬が犯人という可能性は、貴方がそうでないと考えているのなら限りなく0に近い。だとするなら他に犯人がいる訳なのよ。」
「……普通に考えればライノセンス勢の誰かなんじゃないか?糸井がやった可能性もあるし、ドルイトスがやった可能性もある。もしかしたらネフィリムかセンマイカか、
ライノセンスが直接手を下した可能性だってある。もしかしたらウィールハートかもな。」
考え出したけど切りはあった。
犯人に挙げるとしたらこれくらいだろう。
「セナリア、なんで今更こんな話をするんだ?言っちゃなんだけど犯人はライノセンス勢で決まっているだろうし、犯人を突き止めた所でやる事は変わらないだろ。」
あいつらを全員叩くのがC.D.Cのやるべき事だ。
ベルサーチを殺したのが誰であろうと、ライノセンス勢を潰せば必然復讐にはなる。
「ライノセンス勢が犯人なら、だけどね。」
「違うって言いたいのか。」
「……こういう時はバイオコンピュータなんてえげつない物が役に立つわね。いい?今から映像を送るから見て頂戴。」
「それは構わないけど……。」
という訳で、ベリネに送られてきた動画を再生してみる。
これは……あの研究所か。
監視カメラの映像なのか、写っているのはベルサーチの後ろ姿だ。
ベルサーチが何か言っているが聞こえない。
どうやらこれは映像だけで音声は無いみたいだ。
ん、誰か来た……って。
「え……?」
思わず口に出したけど、仕方ないだろ。
だって……。
「そう。ベルサーチを殺した疑いがあるのは大城毬、他のライノセンス勢、そして……。」
「ジェイカー・リットネス……。」
ベルサーチの頭が宙を舞った所で、タイミングを見計らった様に映像は消えた。
「……そう。ジェイカーさんも容疑者の一人。」
「そんな馬鹿な事があるかよ!」
「声が大きいわ。落ち着きなさいな。」
「これが落ち着いて―――」
「黙りなさいな。」
「え、ちょ!おいおい……。」
落ち着くべきはお前じゃないかという言葉はギリギリで飲み込んだ。
そして周りからは悲鳴が上がった。
「ああ心配しないで周りの方々。別に刺したり斬ったり腐らせたりする訳じゃないから。」
「いや心配するだろってごめんなさいごめんなさい!」
刀の周りで頭を擡げる蛇がちろりと俺の顔を舐める。
いやこれ腐るんじゃないのか?!
「大丈夫よ。確かに腐らせる力は持っているけど制御は出来るから。」
「そ、そうかなら安心だなあ!落ち着いたから早く刃を収めてくれ!」
「分かったわ。“多角鋭式六頭霊影刃”解除。」
その言葉を発すると同時に“多角鋭式六頭霊影刃”は消えた。
「この映像は確かな物。創作だとかじゃないわ。」
「しかしジェイカーさんが犯人だなんて……。とてもじゃないが信じられない。」
「そうね。私だって信じたくない。でも何処からどう見ても、まあ正面しか見えていないのだけど、それはジェイカーさんなのよ。」
「……誰かが変装してるとか。」
「有り得ない話ではないわね。けれど、事実がはっきりしない以上、彼を完全に信じる事は難しい。」
だからと言って、疑う事なんて出来ない。
“ベルサーチは私の親友だ。彼を殺した者は許さない。必ず私が殺す。”
彼はそう言った。
これが推理小説なら、自分が犯人ではないとアピールしている様にも取れる。
でもこれは小説じゃない。
ジェイカーの言葉に込められた意思は本物だったと俺は思う。
「ジェイカーさんは私が行方不明になっている時に、同じ様に行方不明だった。」
「確かに何をやっていたか知らないし怪しいけど……ってセナリア、なんでそれを知っているんだ?」
あの時いなかったプラス帰ってきた時に気絶していたセナリアがなんで……。
「聞いたからに決まっているでしよ。」
「そりゃそうか。変な事聞いて悪かった。」
「いいわよ別に。それじゃ話を纏めるわ。今日、今これから私達は探偵、いえ似非探偵になるわよ。」
「……はい?」
全然、全く、まるで以て纏まっていない。
そう思いながら俺はオムライスを口にした。




