私は何なんでしょうかぁ?
「―――きて。」
「う……?」
背中が痛い。
[アスファルトに寝転べば当然痛いだろう。]
アスファルト?
……んん?
俺アスファルトで寝る習慣なんてあったか?
[さあな。私が知る限りでは無かった様な気がするが。]
いやまあ俺にもそんな習慣があるなんて記憶は無いな。
じゃあなんでアスファルトで寝てるんだ俺。
[ふむ……?そう言えば何故だろうな。ベレト、貴様は何か知っているか?……そうか知らないか。]
ベレトも知らないのか。
はてさて、一体全体何がどうなっているんだ?
「おーい起きろー。」
「ちょっと待ってくれ。今記憶の糸を手繰りよせて宛ら鶴の如くそれを織っている所だからって、あああ!」
「おお起きたぁ。」
がばっと体を起こす。
「いっつ……?」
腹に何やら鋭い痛みが走ったが今はそれどころではない。
「えー……ちょっと待ってくれよー。……そう、お前は愛星芽部。変な名前の女だ。」
「はぁい?変なぁなんてご挨拶ね。」
「それについては謝ろう。つい誤った選択をしてしまった。……いやそうじゃない!それはどうでもいい!」
思い出せー思い出せ思い出せ。
そうだ!俺にアスファルトで寝る習慣は無い!
やー良かった良かっ……て、それはさっきも言った。
[そうだ思い出したぞ。朝方、何やら気配を感じた私が貴様を起こして外に出たのだ。そして外に奴、愛星芽部がいたのだな。はっはっは思い出したぞ。]
なんかテンションおかしくないか?
[何を間抜けな事を言っておるのだ私は普通だ。]
さいですか。
「涼治が窓から飛び降りて、私の前に現れたぁ。」
「そうそうその通りだ!よーし思い出してきたぞー!そんでもってあれだ!俺が“影の王冠”を出して―――」
「ぶっぶーハズレ。」
「そうだハズレだハズレ!あんたが“慄然する十二の咆哮”とか言うすっげえ怖い名前の術式兵装を先に出したんだった!いやー失敬失敬!」
「別にそれくらい良いよ。さぁさぁ続けておくんなし。」
「そんで俺が“影の王冠”を出したんだ!それでなんかあんたが挑発する様な事言ったから俺が切り掛かったんだ!そしたらあんたは“私意たる粘性”……で……。」
……そう、だ。
こいつは“私意たる粘性”で俺の攻撃を止めた。
「そしてその後あたしはセンマイカに変わったぁ。思い出したかなぁ?」
「思い出した……。それから、あんたが何か使って……。」
「そうそう。」
「それから……。」
それからどうなった?
[私に聞くな知らん。]
悪魔が知らない事を俺が知る訳ないか。
「まぁまぁそんな事は置いといて。そろそろあたしの正体を教えようではないかぁ。」
「は?正体?」
「そうです。あたしはW.W.SことWorld.Witchcraft.School、通称世界立魔術学校の理事長なのだぁ。どうよ参ったぁ?」
世界立魔術学校は通称ではなく正式名称だと言う突っ込みは置いといてだ。
今何て言ったこいつ。
[そうです。あたしはW.W.SことWorld.Witchcraft.School、通称世界立魔術学校の理事長なのだぁ。どうよ参ったぁ?だな。]
いやいや俺は最後の部分にのみ重点を置いて聞いた訳なんだが。
[どうよ参ったぁ?]
違うわ!
理事長なのだぁだ!
「お、お前が理事長?ライノセンスじゃないのか?」
「あぁ。あれはあの糞馬鹿スカポンタンが勝手に言ってるんだよ。」
「そうなのか……。ん?あれ?って事はあんたもしかしてもしかすると何だが、俺達の味方?」
「もしかしてもしかするとしなくてもそうよ。」
「……ええええええええ!?じゃあ何でC.D.Cの皆を片っ端から襲ったんだ!?」
「まぁあれよ。今の実力を知るためってのが1厘。残りは面白いからかなぁ。」
9割9分9厘は面白いからかよ。
「なっはっはぁ。実際実際、面白い物が見られたしね。」
「面白い物?」
「血みどろで絶望感に浸るある人よ。」
「な……!てめえ、誰にやったそれを。返答次第じゃただじゃおかないぞ。」
「心配しなくてもセナリアじゃないよ?ジェイクでもないし紳でもないし爽でもないし勿論金石でもない。」
「……ん。てことは俺?」
「そ。妄想だよ妄想。」
「妄想ね……。ま、皆を殺しかけたとかじゃないならそれで良い。」
「んーオッケーオッケー万事休すー。」
それダメじゃねえか。
「んじゃまぁそういう事で。明日からはW.W.Sに顔出すからよろぴくねー。ばいならぁ。」
時代遅れの言葉を並べた後、愛星芽部は歩いて去って行った。
「なんだったんだあれは。」
[台風ではないのか。]
あながち間違えではないな。
っとそう言えば、結局何で俺はアスファルトで寝てたんだ?
[攻撃を受けて気絶した、というのでは辻褄が合わないな。それなら私の記憶には残っている筈だ。]
だよな。
記憶に無いあいつの術式兵装に何か関係があるっぽいが……。
思い出せないな。
[分からぬ事をぐだぐだと考えていても埒は明かぬ。二度寝でもしたらどうだ?まだ5時15分だ。]
お……本当だ。
うん……寝ますか。
どうにも腑に落ちないがまあいいか。
「“攻撃”星七。」
“攻撃”を使って飛び上がり窓にしがみつく。
「いって……。何だってんださっきから。」
腹が痛む。
別に便意がある訳じゃない。
窓の桟に座り服を捲ってみる。
「お?傷がある。」
左脇腹から右の肋骨の辺りに掛けて綺麗な切り傷……いやこれは斬り傷と言った方がいいかな。
がある。
あるが……こんなものが付いた覚えも無い。
「ふ、ふぁあああ。まいっか寝よ。」
こうして俺の長い朝は終わった。
……たかだか15分くらいの事だったのになんで長いなんて言ったんだろうか。
それすらも俺には分からず、そのまま睡魔の深淵に落ちていくのであった。




