vsドルイトス・P・レイヴァン
「出力マックス。俺はヘベルメスと同化しているがあいつはいない。故に気にする事は無いだろう。」
「何言ってやがる。相変わらず支離滅裂な奴だ。」
中の者がいないから、負担を考えずに術式兵装を使えるって事なんだろうが。
[分かっているではないか。]
まあな。
しかし出力マックスか……。
目を合わせていないのにどうだこれは。
とてつもなく不安な気持ちにさせられる。
何と言うか、方々から俺の名前を呼ばれているとか、そんな感じだ。
人なんて俺とドルイトスしかいないのに。
「召喚されたと同じだからか、体の調子は頗る良い。」
「そうみたいだな。喋り方がもうまともになっている。キャラ変えるのか?」
「それもいい。いい加減集団ストーカーにも飽きた……。だから、俺はお前に殴る!」
「結局変わってないじゃないか……!」
迫る右掌底を左腕を使い受け流す。1秒
が、右の膝蹴りには反応出来なかった。1.3秒
左脇腹に思い切りそれをくらってえずく。1.4秒
腹を押さえるその一瞬を取られ、俺は右上段回し蹴りを顔面にもろに受けて、1.8秒、体が180゜回転し、更に地面で顔面を強打した。2秒
ぶっ倒れた所に、腹をサッカーボールキック。2.3秒
再びえずく。2.4秒
ネリョチャギを極めるべくドルイトスは右脚を上げるが、そこを見逃す程俺も馬鹿じゃないし、この程度のダメージで反撃出来ない程やわじゃない。2.7秒
両手を地面に付き、体を回転させ足払い。2.8秒
「な……!」
足払いしたが、なんだこれは!
屋久杉でも蹴ったかの様だぞ。
びくともせず、ドルイトスはネリョチャギを俺の腹、さっき膝蹴りを入れられた左脇腹に極めた。
「がっ!おえっ……!」
限界だ。
俺は吐いた。
続けざまに足を取られ、いや持たれた。
右腕だけ使って持ち上げられる。
「ぐ……。」
「久しぶりだ。こうやって人を逆さまに持ち上げるのは。」
「悪趣味、な野郎だ。……人を、げほっごほ!人を逆さまに持ち上げるなんざ、普通やらない。」
「仕方ないだろ。貴様は僕が持ち上げたいと思ったから持ち上がった。問題は無い。」
「問題しかねえよ!大体、“攻撃”も使わず人間を片手で持ち上げるとかお前は化け物か!」
「化け物だとしても人間だ。」
「うおああああ!?」
右へ左へ振られた後、俺はラックに投げ付けられた。
「あ、が……は……。」
これは痛い。
床に倒れる俺の上にファイルがぼとぼと落下してくる。
これも痛い。
綺麗に綴じられていた資料も床にぶちまけられてしまった。
誰が片付けるんだろうなこれと思いながら、一枚の資料を眺める。
「……これは。」
“ドルイトス・ポーカーレイヴァン”
“男、29歳(享年)”
“身長185,0cm”
“体重74,0kg”
“魔術師15年”
“適正審査850”
“得意とする系統、操脳、魅惑、水”
“不得意とする系統、攻撃、強化”
“備考、悪魔同化(鹵悪魔『ヘベルメス』)”
これはどう見てもドルイトスについての資料だ。
横たわったまま、他の資料も見てみる。
ヤーチル、タスター、ハリル、デルト、ディート、ディオス、サナイ……。
……知らない名前ばかりだな。
それに、全部が全部魔術師という訳でもない。
最後の三人はワレラみたいだ。
と、何故か追撃してこないドルイトスに用心しながらもう一枚、ダメージが回復していなくて震える手で取り見る。
「……薫の資料だ。」
“如月薫”
“男、23歳”
“アダム発動時の瞳の色は銀色”
“身長167,6cm”
“体重53,7kg”
“Lv1Quick“光よりは遅い。でも速い”常人の約7倍のスピードで動く事が出来る”
“Lv2Speed“時間を加速させろ”自分の時間を早める”
“Lv3測定不能”
何なんだ一体……。
何でこんなもんがある。
「それは自分で考えれば答えは知れない。お前は真実に辿り着く。」
「げ。うわ!?」
しまった完全に油断していた。
再び足を持たれて逆さまに持ち上げられる。
「油断大敵。これは座右の銘がした方があまり悪くはない。」
「くそ……。いい加減にしろや!」
「ふん……。」
“攻撃”星五十を右腕に掛けてから、体を前後に揺らしてドルイトスの腹へと一撃与えた。
が、ダメだ。
こいつの華麗な“防御”の前では、ただの打撃は役に立たない。
「殴られようが私は動かない。てめえは動け!」
「な、うわあ!」
そして投げられる。
次はデスクの上を滑る様に俺は投げ飛ばされた。
筆記具やら紙やらが俺の背中に押されて床に落ちていく。
「あでっ!」
デスクの終着駅に着けば、当然俺は床に落ちる訳で。
さっきのラック衝突に比べれば大した事はないが、それでも痛いもんは痛い。
「畜生……め。人をそんなにホイホイ投げるもんじゃ……?」
何かおかしい。
何だ。
……悪魔。
はっとする。
これだけの失態を演じているのに、あいつから文句の一つも出ないなんておかしい。
悪魔、おい悪魔!
……反応無し。
ベレト……も反応は無い。
「まさか……。いや、だけど有り得ない。」
俺の腕や脚に不愉快な感覚、かつてドルイトスと戦った時に“操脳”を流し込まれたような感覚は、無い。
あの時、“操脳”を体内に流し込まれ、体から抜けない事で悪魔は奥に引っ込んでしまった。
そしてベレトが代わりに出てきた。
しかし今回は誰もいない。
「言った筈だ。僕は体の調子が悪くない。最盛期の力が今はあって昔は無い。」
「最盛期、だと。」
「“操脳”を気付かれないで流し込むなんて難くない。」
「……成る程。」
最悪の展開だ……。
あいつと目を合わせないで戦うのも、反撃に移るならこのままでは厳しい。
悪魔かベレトにまた目の代わりをしてもらおうと思っていたのに。
……いや、この程度の逆境はあの旅の中で何回もあった。
これも試練だと思って、甘んじて受けるべきなんだろう。
「……集約、結合、実現。影に形を。“影の王冠”。」
術式兵装自体はなんら問題無く使える。
つまり問題ナッシングだ。
「問題ならある。君は“影の王冠”で俺に一撃すら与えられなかった。考えてみれば、M92Fの発砲でしかお前は僕にまともな攻撃が出来ていない。だが、今あの玩具は持ってない様だ。」
「だったらどうした。あれからどれだけ経っていると思ってんだ。あんたの時間は止まったままだが、生きている俺の時間はその針を止める事は無かったんだ。」
……時間を止めた原因は俺なんだけどな。
「何時までもあの時の俺じゃない。それを、今見せてやる。」
「良いだろう。」
ドルイトスが構える。
徒手空拳の相手に刃を以てして対峙するとか、この時点で既に俺は甘えていると言えるだろう。
しかし、あいつはそれでも強い。
術式兵装にばかり目を向けてしまうが、“攻撃”を殆ど使えないのにあの身のこなし。
そっちこそ、真に注目しなきゃならない事なのかも。
「……何時までも俺はあの時のままじゃない。刮目しろドルイトス・ポーカー・レイヴァン。そして愛星芽部。これが、悪魔の力だ。」
『単純なる破壊の力。“武器”』




