言葉を忘れる塔
「此処は……ビルだよな?」
誰もいない空間に質問する。
当然誰も答えてくれないが、俺は別に空間に質問した訳じゃない。
[“血塗りと血染めの螺旋階段”と言っていたな。]
「……えええ!もしかして知らないのか?」
[もしかしなくても知らん。奴が空間の術式兵装を持っているなど初耳だ。]
という事は……未解決ダンジョンかよ……。
[何を腑抜けている。敵の情報は基本的に入らぬ物だと言ったのは貴様だろう。]
そりゃそうだけどさ。
今はそんな事言ってる余裕が……と、そうだベレトと代わってくれないか。
[構わんが?]
よろしく。
[何でしょうか。]
さっきは血が上って冷静な判断が出来なかった。
そのせいで、“影の王冠”を危険な状態に置いてしまった事を謝る。
[何を言っておられるか貴方は。]
え?
[武器の本望とは、それ即ち戦う事。それをしない、出来なくなった武器などは死んだも当然。砕けた所でまた召喚出来るのが術式兵装の強み。主はそれを実行しただけです。なんら謝る必要は無い。]
そう、か。
ははは、何かベレトには諭されてばかりだな。
[儂は主よりも目下故、その使い方は間違っております。では主と代わります。]
はい。
「さて、止まっていても仕方ないし取りあえず探索してみるか。」
ま、見渡すだけで大体は分かったけど。
つまりはビルなんだ。
デスクがある。電話がある。ファイルを収めたラックがある。
何処からどう見ても普通の会社のビルだ。
おかしい事と言えば、何処を見ても同じ景色だという事くらいだな。
窓の外には、緑の空間が広がっている。
森、丘、そして草原。
凡そビルが建っている場所とは思えない。
「窓は……開かないか。」
どうやら空間は屋内に限定された物の様だ。
外は言わばついでみたいだな。
「さりとて、僕に此処を出る術は無い。大体俺は此処での生成物の様な物で、私に権限などそもそも無い。」
「あ……えっと……?」
突如響く声。
それは俺の真後ろから聞こえた。
……この支離滅裂な話し方。
俺は知っている。
知っているが、有り得ないだろ。
だって……。
「ドルイトス・ポーカー・レイヴァンは俺が殺した、か。さっきも言ったが僕はただの生成物だ。君は確かに俺を殺した。それは変えがたい真実。しかし、こうしてお前の前に僕がいるのは真実。そして私がヘベルメスを再び体に宿したのも真実。」
……やはりこいつはドルイトスだ。
「追う追われる。見る見られる。語る語られる。逃げる術は無く、堕ちる。“睥睨する七万の瞳”。」
俺が、最初に殺した人間だ。




