vs更月涼治
[起きろ。]
「……あ?」
[起きろと言っている。]
「起きろって、今何時……はあ?」
おいおい、まだ5時じゃねえか。
俺は今日重役出勤の予定だからこんなに早く起きる必要はない。
と言う訳で寝る。
[敵やもしれぬ者が貴様の家の前に立っていてもか?]
……。
「はあ!?今なんつった!?」
[見た訳ではないのでなんとも言えないが、恐らく神悪魔か神天使クラスと同化している者が外にいる。]
神……。
その両方だとしたらライノセンスだろそれ。
自宅が割れてるのか……。
[まだ彼奴だと決まった訳ではないが、別に有り得ない話ではないだろう。一応W.W.Sの理事長なのだからな。]
確かに。
……オーライ仕方ない。
取りあえず支度をして外に出よう。
いざとなったらベレトの箱庭を使わなきゃな。
こんな所でドンパチやって家が壊れたら堪らん。
トイレに行き服を着替え、歯を磨いて二階に戻る。
親にばれない様玄関から出るなんて事はしない。
“防御”を使えば二階からくらいなら無事に飛び降りられるからな。
と、今更ながらに窓から外の様子を眺めてみる。
……誰もいないな。
[姿を潜めているに決まっておろう。だが、その存在感は隠しきれていない。]
俺は何にも感じないが……。
「まあいいか。“防御”星一。」
開け放した窓から勢いよく飛び出す。
そしてそのまま道路に着地した所で気付いた。
「……靴持って来るの忘れた。」
「なはははぁ。マヌケさんね。」
「ぬおわ!?」
着地して顔を上げると、そこには女の子がいた。
[……ロストルケミスだと。]
はい?ロスト?
「ロストルケミス。神悪魔よ神悪魔ぁ。」
「……何で心の中を。」
「良い女になったからじゃないかなぁ。」
ニヒヒと笑う女の子。
無邪気に見えない事もないが、テーゼスタに比べるとそうは見えない。
こいつは有邪気だ。
「成ぁる程成ぁる程。涼治の家は第九地区にあるのね。流石電光社の専務の家だと言いたいけど、他の連中に比べればインパクト無いね。」
「他の……。」
C.D.Cのメンバーの事か。
「確かにあの人達と比べられたら敵わない。しかしそんな事はほっとけ。」
「いやいやぁ良いのよ。あたしはこれくらいの家のが好きだからぁ。」
「お前の好みなんざ聞いていない。俺が聞きたいのは、お前は誰かという事、何をしに来たのかという事、そして何故C.D.Cのメンバーの事を知っているのかだ。」
「一気に三つも質問するなんて中々めんどくさい事するね。良いよ。いい加減自己紹介してあげる。あたしの名前は愛星芽部。変な名前とか言わないでよ?」
「愛星……。」
いつだったか聞いた事がある。
……誰に聞いたんだったかな。
ジェイカーさんに聞いたのか、それともあの旅の中で耳にしたのか、それは確かではないけどまあいいか。
愛星芽部、この世で最も強いと言われる魔術師の一人。
年齢不詳、一体何時から魔術師になったのかも不明。
当然適正審査は1000オーバーで、苦手な系統は無し。
神悪魔『ロストルケミス』と同化している。
「はい、よく出来ましたぁ。」
「ち……。心を読むな。」
「あたしもね、実際幾つで、何時から魔術師やってるかって分かんないんだよ。」
話が噛み合っていない!
「まぁそんな事どうでもいいんだけどね。絶叫。“慄然する十二の咆哮”。」
「……っ。」
なんだこの威圧感は。
[“慄然する十二の咆哮”。使用者に十二の力を……と。この説明は既にしてある様だ。]
俺はそんな話知らないんだけど。
ま、十二の力を与えるとかそんな所だろどうせ。
「さぁさぁさぁ。早くスキア・ステマとか出さないと死んじゃうかもよ。」
「……言われなくてもそうする。刃を持つ奴を前にして、無防備でいられる程肝は据わってないんでな。集約、結合、実現。影に形を。“影の王冠”。」
[……主よ。]
ん?ベレトか珍しいな。
[大変申し上げにくいのですが、“影の王冠”では“慄然する十二の咆哮”には敵わないかと。]
え?
そうなの?
[はい。あれは次元が違う。御剣爽の“愛すべき未来の焔業”や“得難いは全てに説き伏す烙印”、セナリア嬢の“多角鋭式六頭霊影刃”。また、以前に出会ったネフィリムの“煉獄に咲く晩年華”。そして儂の“影の王冠”。これらも当然の如く強力な術式兵装に違いはありませんが、あれは不味い。今上げた物達とは一線も二線も画する存在です。“煉獄に咲く晩年華”は恐らく持つでしょうが、他は切り合った瞬間に……。]
瞬間に?
「砕けるよ。シェミハザって熾天使のくせに目茶苦茶強くて、個人の重力まで持ってるからなぁ。グラウィタスを砕くのはちょいと無理っぽー。」
「砕ける?術式兵装が?そんなもん見た事がない。」
「センマイカと戦ったでしょ?あいつのトリックスターはどうだった?」
「どうだったって……切れたな。って!」
センマイカと戦った事まで知っているのかこいつ……。
「正確には戦ったじゃなくて殺したかぁ。」
「っ!」
[馬鹿者止めろ!]
悪魔の制止なんて聞こえやしない。
芽部の不用意な一言が俺の怒りに火を付けた。
“攻撃”星五十を脚に掛けて奴の前まで一気に詰める。
「はああ!……く!?」
「はぁ。話は終わりなのかぁ残念ねー。」
片手で、止められた……!
いや正確には“左の掌”でだ。
動かない。
動かせない。
俺は、これと同じ事態に一度出くわした事がある。
「これは……“私意たる粘性”……!」
「日本語名称言うのめんどくないの?チーモで良いじゃない。」
「何で、お前がこれを!」
「んふふ。ついでに貰ったから見せたげる。」
「な……?!」
目の前にいた女の子が、あっという間に男に変わる。
それもただの男じゃない……。
「センマイカ……。」
「……ふう。やあ。久しぶりだな更月涼治。尤も、これは真の俺という訳ではないのだが。もう少しすれば会えるけどな。多分2階かな。ま、話せないかもしれないが。」
「何を言って……。な、何を言っている!おい悪魔!ロストルケミスの力かこれは!」
[頭に血が上りすぎだぞ。全く、既に癒えた傷と思っていたが、かさぶたが付いていただけの様だな。]
そんな事はどうだっていいから答えろ!
[“異質なる交霊の先覚”。対象の中の者を引き剥がして己の物とする交霊術の術式兵装だ。]
交霊術の術式兵装?
本とかそういう形は無いのか。
[ああ。概念的兵装とでも言った所か。とにかく形が無い。そしてその力は中の者だけではなく、その対象自らにも影響を及ぼす事がある。]
「そういう事だ。尤も、俺もこのお嬢さんに引き剥がされて知ったんだけどな。」
「……あんたは生きているのか。」
「そんな訳ないだろう。君は今俺がリアルタイムで話していると思っているかもしれないが、実際は違う。確かに姿形やその記憶を引き剥がす事は出来るが、精神は不可能。だから今の俺は、愛星芽部が俺の過去を見ながら、どんな話し方の奴かと考えながら話している状態だ。分かるか?」
「あ、ああ……。」
俺が聞きたかったのどうやって話しているか、ではなくセンマイカが生きているか否かという事だけだったんだが。
「とにかく、私の姿と記憶、そしてアルマロスは愛星芽部が受け継いだ。……いけね、俺だった。」
「……不愉快だ。さっさと元に戻れ愛星芽部。」
「はぁいはぁい。戻りましたぁ。」
「ち……。」
毬の話し方も間延びしてイラッとするが、どこか可愛らしい。
だがこいつはなんだ。
物凄くムカつく。
「まぁ、人をムカつかせる事は結構得意ねあたし。じゃぁ、そろそろ本番行こうかぁ。」
「……何だと?」
「言葉は死んだ。血溜まりに佇む愚者。螺旋の運命は渦の様に回り、そして生きる。“血塗りと血染めの螺旋階段”。」
……こいつ、人の話を聞かなすぎだろ。
因みに俺の家は、さっきも言ったし随分前にも言ったから知っているかもしれないが、第九地区にある。
そして俺は今、螺旋階段が支配するビルにいる。




