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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第四章-赤い死と永遠の生-
35/84

その後

消えてしまったのでは仕方が無いと私は、第四地区を後にするべく出口へと向かった。


「君はあのウィールハートとどんな関係だったのだ?道を譲ってやったんだ、それくらい聞かせてもらう権利が私にはあると思うのだが。」


そこで私を待っていたのは、壁に背を預けて立つ轍醍醐だった。


「……語ってもいいのですが、大分長くなりますよ?」


「構わない。私にとっての時間は無限と同義だからな。」


何たって半不死者だからなと、笑いながら轍醍醐は言う。

半不死者か……。

ウィールハートも、死んだのだから不死者ではなく半不死者だったんですね。


「分かりました。立ち話で構わないと言うならこのまま話し始めますが、どうですか?」


「構わない。始めてくれ。」


「了解しました。」


私と彼が出会ったのは、私が18彼が16の時でした。

ええ、彼は私より2つ下なんですよ歳。

W.W.Sで会って話し始めた訳ですが、その理由は些細な事でした。

ま、颯太が私に話し掛けてきたからなんですけどね。

七年前の私は、既に“腐食”の星が十、つまり人間が会得出来るであろう最高点まで達していました。

それでそれなりにW.W.Sでも有名になってしまっていましてね、私の評判を聞いた、自身も“腐食”を得意とする身である颯太が興味本意で話し掛けてきた。

というのが負の連鎖の始まりでした。

尤もその当時はそんな事は考えておらず、ただ自分とタメを張れる奴が来たか?としか考えなかったですね。

その後もろもろを経て親交を深めました。

ベルサ達と一緒に住みはじめた時期は分かりません。

何時の間にか、本当に極自然にそこにいたらしいので。

……それが、颯太をウィールハートへと変化させてしまう切っ掛けになった訳です。

それは置いておいて、私は20の頃になると教鞭を執る様になりました。

その頃には颯太もかなりの実力で、私と大して変わらないレベルまで至っていましたが、彼が教職をやるという事は生涯無かった。

教えるのが上手く無いというのもありましたが、それ以前にやる気が無かったみたいですね。

ま、それはどうでもいい事なのですが。

因みにこの時点で既に“ネクローシス”と“アポトーシス”は完成しています。

どの時点で完成させたのかですが、すみませんこれについては記憶が曖昧なんです。

とにもかくにも、私達は忌まわしい術式を完成させてしまっていた。

そして、20歳という歳が示すもう一つの忌まわしき出来事。

糸井草春による同居人の殺害。

それが起きた年なんですよ。

草春の同居人という事で、当然その中には颯太も含まれていました。

ただ彼の場合、他の魔術師よりも実力が草春に近かったのでギリギリ逃げる事が出来た。

本当にギリギリでね。

なんせ片腕が取れ、脚は目茶苦茶に喰われの状態だったみたいですからね。

ギリギリ……それこそ切り札を使わなければ生存不可能という程に。

そして颯太は“アポトーシス”を使ってしまった。

そこまでは良かった。

私も“アポトーシス”の出来は確認していましたからね。

今の時代なら出来るでしょうが、しかしさすがに人間で試すのは倫理感……ま、人を殺した事がある私が言っても滑稽ですが、結局それから逃れる事は出来なかったのでマウスで実験しました。

これにしたって、過去の人間達がそうしてきたからといってマウスで実験する事が、果たして正しいのかどうか分かりませんが、今は倫理の話ではないので置いておきましょう。

負傷し、死に掛かっていたマウスに“アポトーシス”を掛けた所、傷は瞬時に治り、形が崩れたり腐ったりする事もなかった。

成功したんですよ。

成功はしたが、同時に致命的な失敗を犯してもいた。

マウスに半不死性が植え付けられた事に気付かなかった事だ。

アポトーシスとは制御された壊死を用いる細胞死です。

それは元々体内にのみ存在するプログラムだった。

それを外部からインプットした時、制御プログラムが無いせいで、そのアポトーシスは常に最善の状態に保つ壊死を施す物になってしまった。

一時的ではなかったんですよ。

外傷を受ける事を切っ掛けとし、即座にアポトーシスを起こして欠損部位の細胞を一旦殺し、すぐに再生させる。

そんな化け物染みた力。

余談ですが、その当時の魔術師はこの再生能力の事を『最上級の(ノウム)崩壊と再生(コルプス)』と呼んでいました。

ここから先は結構推察が含まれていますが御了承願います。

そんな物を颯太……いえ、ウィールハートは自らに使ってしまった。

最初の内は形も崩れず腐らずだったかもしれないが、少し経ってからウィールハートの崩壊は始まった。

そして、それにウィールハートは恐怖した。

形がどんどん崩れ、腐っていく事に。

彼は走った。

私を見つけるために。

……実は私も“アポトーシス”を使えるんです。

だから私なら、なんらかの対策を持っているのではないかと思ったのでしょう。

勿論持っていませんでしたがね。

走っている途中で既に脳が半分ほど消失していたのではないかと私は考えています。

恐らくは、論理的に考える力を持つ左脳が。

そして残った脳で考えず、ただ感情に任せるまま次の行動を取ってしまった。

ある女性が彼を見て悲鳴をあげた。

当然でしょうね。

半分しか人間の(てい)を成しておらず、更に腐敗臭がする物が学校の中を走っていれば誰だって悲鳴くらいあげる。

それだけで彼にとっては十分過ぎる怒りの元になった。

ウィールハートは初めての殺人をそこで犯し、私はそれを丁度目撃した。

彼が重傷を負い、更に“アポトーシス”を使ったと聞いて、私も探して走り回っていたんです。

そしたらあれだ。

人生というのは何時何処で何が起きるのかまるで見当が付かない。

“ジェェイカアアアアアアアアア!”

彼の、苦しんでいる様な怒声は今でも頭に残っている。

だが、怒声をあげたかったのは寧ろ私の方でしたよ。

有りがちですが殺された女性は、私の婚約者だったのでね。

咄嗟に“ネクローシス”を右手に出してウィールハートに向け突進した。

けれど、ウィールハートはそれを見るや否や、窓を割って逃げ出してしまった。

……これが私とウィールハートの関係の全てです。


「成る程。長い語りご苦労。や、何と言うか、申し訳ない。」


「はい?なんで謝るんですか?」


「それほどの思いを秘めての戦闘を行うとは露ほども思っていなかった。だからつい私の欲望と少しの怒りを収めるために、君を邪魔してしまった。本当に申し訳ない。」


「別に謝る事ではありませんよ。個人の思いなど、他人にとっては知らぬ存ぜぬの極地の様な物ですから。」


「そう言ってもらえると助かる。では、おもし……興味深い話を聞いた所で私は帰るとしよう。」


瞬きする間もなく轍醍醐は消えていた。


「そうだ聞き忘れていたことが。」


「うわ!?消えてすぐ出て来ないで下さい……。」


「悪い。街で会った時、君からは煙草の臭いが結構していたが今は無臭だな。腐敗臭で上書きされた、という訳ではない様だがどういう事なのだ?」


「ああその事ですか。」


……そういえば、もう吸いたくもない煙草を吸う必要も無くなったんだな。


「ウィールハートに傷を付けられた者にも“アポトーシス”が掛かって“最上級の崩壊と再生”が派生するんです。」


「……という事は君の婚約者は。」


ああ……そうだった。

彼女は、私が唯一“ネクローシス”を使った“物”だったんだ。


「推して知るべしです。……私が吸っていた煙草には細かい“腐食”が含まれていましてね、それを血中に溜めておく事で、ウィールハートの“アポトーシス”が体内に侵食して来た時に対抗させる事が出来るんです。」


「だから君は腐ってもいなければ、第二の渦の心臓になってもいないのだな。」


「その通りです。見事に働いてくれましたよ。」


と、血は止まっているが穴が空きっぱなしの左腕を見せた。


「そして役目が終わったので“腐食”を解いた。だから煙草臭さは消えたんですよ。」


「成る程。いや失敬、少しばかり気になったのでな。では次こそ私は行く。ではなジェイカー・リットネス。」


また瞬きする間もなく消え、次は本当に行ってしまった様だ。


「……私も帰ろう。ようやく、生きている内にやっておきたい事が終わったんだしな。……さようなら、ウィールハート。」


言いながら私は胸ポケットから煙草を取り出し、口に啣えるのだった。




帰ってから更月君達に同じ質問をされ同じ受け答えをしたという事は内緒だ。

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