赤い死と永遠の生
「うおおああぁあぁあぁあああ!」
「ち……。」
「死ね死ね死ね死ね死ねえええぇぇぇええ!」
体をただの刃ではなく、鞭状の刃にし振り回しまくるウィールハート。
しかも二本ではなく数十本……いや十本でした。
指の一つ一つがその形状を成している。
しかも、っ!
「う……!」
「そら死ね死んじまえやあぁぁぁぁああ!」
“神の代理人”に鞭の一つが当たる。
そして傷付く。
[……何て奴だ。僕の鎧に傷を付けるなんて。]
……威力、強度が異様なまでに上がっている。
振るう速度も、鞭状のせいか凄まじく早い。
ベリネでの動体視力上昇をしなければ追いつかない程に。
これでは反撃に転じられない。
況して“ネクローシス”を当てるなんて不可能だ。
大体!一つ前の話では私が完全に有利だった筈なのに、どうしてこうなっているんだ!
「どうしたあああ!動きが止まってるぞジェイカーアアァァァアアアァアアア!」
「止まりたくて止まっている訳じゃない!」
直撃コースの鞭を剣で払う。
切り払えないとは……一体どれだけの強度だ!
こうなったら、若干浅はかだが仕方ない。
「“攻撃”星五十全て脚へ。」
「お!?」
ウィールハートの視界から私が一瞬で消えた筈だ。
何故なら既に後ろに回っているのだから。
いける……“ネクローシス”!
左手に黒い“物質化された”光が灯る。
腐食、破壊を司り、死へと導く負の魔術。
これを作ったのは私ですが、正直あまり使いたくはない。
“腐食”と違ってこれは、医療に使ったり出来ない。
ただ破壊するだけだから。
私は呪いますよ。
“ネクローシス”を生み出した事、そしてウィールハートが“アポトーシス”を生み出した事を。
だから此処で……!
「此処でその連鎖を絶つ!」
左手の光をウィールハートの体に叩きこ―――
「手を抜き過ぎだぞジェイカー。」
「ぐ!?あああああ!」
左腕に激痛が走る。
左腕は動かせない。
「これ、は……!」
地面から出ているウィールハートの体。
それは鋭い針となり、鎧が包んだ私の腕を突き刺していた。
[……有り得ないでしょホント。傷付けるだけじゃなく、貫通させるなんて……。]
「地面に体の一部を入れておいたんだ。こういう場合、後ろに回って来るのが定石だと思ってなぁぁぁ!あひゃぁああはははははぁぁぁぁあああ!見事に引っ掛かりやがったあああああ!」
「く……そが!」
“炎の柱”で腕の下の針を斬る……!
糞!斬れないじゃないか!
「いっつ……。」
不味い。
これは恐れていた事態だ。
ウィールハートの体は腐っている。
いや、今は腐敗臭もしないし体自体は腐っていないのかもしれない。
だが腐らせる力は健在の筈。
これは、針から抜け出した所で回復出来ないかもしれません。
[“神の代理人”の回復力を以てしてもかい?]
確証はありませんがその可能性は高いかと。
「あはははははぁぁぁ……。ま、覚悟の違いってやつだな。我が身の痛みすら厭わず戦った俺の勝ちって訳だ。」
「く……。」
右手から“炎の柱”が滑り落ち、音を発て地面に落ちる。
そして私は、地面に両膝をつける。
当然私の体が沈むのに合わせて、左腕に刺さった針も一層深く刺さっていく。
[……ジェイカー。]
……ふ、なに弱気な声を出しているんですかメタトロン。
良いんですよこれで。
奴は言った、我が身の痛みすら厭わず戦った俺の勝ちだと。
それを覆さなければならないのだから、私も相応の痛みを感じるべきなんだ。
それに、これだけ深く刺さっていれば奴からは見えにくい。
……尤も、今の奴は見ようともしないだろうがな。
戦いに於て最も重要な事は、相手が参ったと言おうが、自分が完全に勝ったと思おうが、相手が生きている限りは油断してはならないという事です。
奴は完全に油断している。
既に私に戦意は無く、完全に自分が勝ったと勘違いしているんだ。
本当に勘違いも甚だしい。
今その勘違いを正してやる。
ウィールハートに気付かれないようゆっくりと右手を動かし、針に触れる。
[成る程ね……。君がやりたい事は分かった。だが、凄まじく痛いんじゃない?]
ええ……大泣きするかもしれませんね。
その時は適当に慰めてやって下さい。
……“ネクローシス”。
「っ!ぐ……が……あ!」
針に“ネクローシス”を流した瞬間、左腕に今まで感じた事が無い強烈な痛みが走った。
さながら、パラポネラ100匹に同時に噛まれた様な激しい痛みだ。
噛まれた事無いですけどね……!
「あはははははははぁぁぁああ!痛えだろ!もっと喚き散らせぇぇえええ!」
「ち……喧しい、野郎だな本当に……。」
ちんたらやっていても埒が明かない。
“ネクローシス”の威力を上げて一気に……!
「ぐ……!うああああああ!」
左腕の細胞がまだもっているのが不思議だ。
“神の代理人”がしっかり作用しているのか……。
何にしても助かるが。
……気合いのおかげで“ネクローシス”は全ての針に行き渡った。
これで本当に終わらせてやる。
「ひゃははははぁぁぁあ!あはははははははぁぁぁああ……な!?」
「死ね。」
“炎の柱”で“傷付けた”箇所から“ネクローシス”を流す事で内部を腐食。
更に他の針にも派生させる事でその強度は地に落ちた。
後は簡単、膝を地につける事を止めて前に走り出すだけだ。
“攻撃”なんて油断しきった相手には必要無い。
ただ、“ネクローシス”が溜まりに溜まった針が突き刺さった左腕を、ウィールハートに届かせればそれでいい。
「うおおおおおお!」
「……ちぇ。」
気合一閃、全てを左腕に込めた私。
それをウィールハートは、まるで詰まらないミスで母親に叱られる子供の様な表情で待つ。
「う……あ……」
「……。」
拳がウィールハートの腹を貫いた。
それと同時に、傷口がどんどん黒くなっている。
そしてそこから更に派生し、体中が一気に黒に染まった。
「く……ふ、くくく。ははははは。……これ、だよこれ……。俺が、待っていたのは。」
それだけ言い残し、ウィールハートの体は砕け散った。
さよならの一言すら置かずに。




