第四地区-人間-
「気づいたのは、さい近だ。」
ウィールハートが語りだす。
今気付いたが、段々と人間らしい姿に変わっている。
「そうだな、わだちだいごとか言うワレラにぼこぼこにされた時だ。おれの体はお前も知っている通りつうかくがない。さい初の内はとくに何もなかったんだ。でもたたかい始めて少し経ってから、わだちだいごの出した“千じんの谷”に体を切りさかれた時、おれはひさしぶりにいたみを感じた。」
「気のせい、ではないのですか?」
「は。気のせいだったらどれだけいいか。体のしゅうふくはできるが、いたみを感じる。それじゃ中とはんぱだろ?いたいのはきらいだ。」
「……まあ何でもいいです。貴方を殺す事に変わりはない。」
「あはははは。まあ落ちついてきけよ。おれの体がなぜこうなったか、気になるだろ?」
……忘れていた。
まともな人間だった頃のこいつはお喋りだったという事を。
「ま、ショックりょう法みたいなもんだ。死ぬ様なダメージをくらい続けたショック。い前の体の時は、そこまでのダメージをあたえるやつはいなかった。だから人間にもどることはかなわなかった。だが今回はちがう。わだちだいごと言うさい強と言ってもか言ではないやつとたたかったんだ。何度もバラバラにされ、死ぬほどのダメージを何回も負った。そのけっかおれの体のさいぼうは、一つ一つがみつなかんけいになった。そして人だったころのさいぼうへと変化をとげた。これが人間にもどったいきさつだ。」
「そうですか。」
至極どうでもいい事だ。
ウィールハートが人間に戻ろうと、殺す事に変わりはない。
[……君達は、いや、どちらかと言えば正義の味方は、と言った方がいいね。それらはそういう事をよく口にするけど、最終的に真逆の行動を取るよね。]
今度の場合、それは有り得ません。
……ま、死の間際に望みを叶えてやるくらいの度量はありますがね。
「人間に戻ったという事は痛みも感じるのですね?」
「ああ。ひさしぶりに感じる感覚で、変な感じだが新せんだ。」
「そうですか。可哀相に。光の矢。」
天使達がウィールハートに向け光の矢を幾千も放つ。
砂埃が舞ってウィールハートの姿が認識出来なくなったが、まあ大丈夫でしょう。
悲鳴が上がらないのは少々物足りませんが。
[……悲鳴が上がらないって、当たってないんじゃない?]
有り得ませんね。
光の矢の速度は光速より5km/秒遅いだけ。
相手がワレラであろうと魔術師であろうと避けるに難い速度だ。
ウィールハートに速さなんて無い。
[……確かに速さは無いみたいだ。けど、特異な力をお持ちの様だよ彼は。]
どういう意味です。
[此処は元々薄暗かったからね。気付かないのも仕方ないと言えばそうだけど、戦闘中は如何に機微な変化でも捉えなきゃ。]
それは尤もですが、残念ながら今の私には何が変化したのか理解できません。
[此処一帯だけ夜になってるよ。]
……本当ですね。
ついでに、砂埃もいつの間にやら治まっている。
「とくていはんいを夜にすることで外部とのかんけいをたつ。これがおれの“夜に降りる最悪の一”。」
「“降りる”、“最悪”なんて難しい漢字よく言えましたね。」
外部との関係を断つ、か。
“契約の天使”はまだ攻撃を続けている。
しかしそれが目の前に降り注がない理由はそれだったか。
「ちょうはつか?あまり向きじゃないだろ。」
「そうかもしれない。」
ベリネは……オフライン。
完全に外界と此処との繋がりを切断している。
自分でする以外に初めて見ましたよベリネのオフライン状態。
「く、ふぅー。あははははははは!行くぜえええぇぇぇええ!」
「人間に戻ってもその間延びした掛け声は無くならないんですね。天高く炎立つ。天蓋を焦がす灼熱の天国“炎の柱”。」
“神の代理人”を着ているので、実際は剣なんて出す必要は無い。
私が鎧を纏い続ける限り、奴は私の体に傷一つ付けられないのだから。
しかしそれでは殺せない。
「うるせえええええええぇぇぇええ!な……!?」
「煩いのは貴様だウィールハート。」
人の形となったウィールハートは、両の手を剣に変え切り掛かってきたが、そんなものなんでもない。
逆に“炎の柱”でその腕をぶった切った。
「く……は……!いてええええぇぇぇえええ……ひっひっひっひ。あははははははは!痛い!痛みを感じているんだおれはあああああ!あははあははははははは!わだちだいごとやった時は完全にはもどらなかった。だがぁ!ジェイカー……お前がおれを人間にもどしてくれた。」
「……っ。」
「ぐあ……っくっ!」
続け様にウィールハートに向けて斬撃を放つ。
左腕を肩口で切り落とす。
……血は出ないか。
人間に戻りつつあるとは言っても……人間に戻れる訳じゃない。
「斬られても、直る!そして切りかかるぅあああああああ!」
「……颯太。」
“攻撃”星五十を掛け、目にも留まらぬ早さで“炎の柱”を振るいウィールハートを五等分にする。
「が……ぁぁぁ!」
「残念ですが、貴方じゃ私には勝てません。魔術師であった頃の颯太だったならいざ知らず、“アポトーシス”を使いウィールハートになった貴方では、私には一生掛かっても勝てない。」
「ぐ……ふ……。そうかもしれない。」
五等分にした体のうち、話すのに支障がないレベルまでを直し、私を見上げながら言う。
「だが、殺すしかないだろ。俺に勝った奴を、俺を……俺を殺そうとした奴をよおぉぉおおお!」
「……お前はやはりダメだ。」
「……何だと?」
「人に戻りかかっているが、元のお前の記憶は完全に失われている。」
だからお前はダメだ。
ダメなんだよ、颯太。
「うるせえ……!お前を殺す。」
「無理だ。」
お前を殺すのは、私だからな。




