祢々切丸
「轍さん。」
「なんだ。」
「刃を私に向けるのは止めてください。戦う気など、私にはありません。」
「そうだろうな。」
「……。」
「……。」
無言の、睨み合いと言うにはあまり目に力が入っていない状態で、火花を散らす。
……轍醍醐が私に刃を向ける理由。
私と彼に接点などない。
とすれば、私が関わろうとする事に関係があると考えるのが普通でしょう。
つまりウィールハート関係。
確か更月君は、奴に襲われた時に轍醍醐に助けられたと言っていた。
「知っているかジェイカー・リットネス。不死身の怪物を倒す時にあると便利な力を。」
「さあ?私はそんな物を持っていないので分かりかねます。」
「正解は不死身か、それに相当する数の命だ。」
成る程。
目には目を、刃には刃を、不死身には不死身を。
[不死身を倒すには……必然時間が掛かる。だとすればこちらも不死身に……。当然の考え方だね。]
それはそうですが。
……はあ。やはり轍醍醐の狙いはウィールハートで間違いなさそうです。
「不死身ですか。一体誰と戦う気何ですか貴方は。私は不死身でも何でもありませんが。」
「そんなことは知っている。君がワレラでない事もな。分かるだろう?私が誰と戦うなど。だからさっさとそこを退け小僧が。」
「……そういう訳にはいきませんね。」
殺気とも違う。怒気とも違う。
あるとすれば、有り得ない事ですがこれは……。
いや、あの顔を見れば一目瞭然か。
彼は眉を潜める訳でもなく、こちらを睨む訳でもなく。
ただただ“笑って”いる。
つまり彼は“歓喜”している。
「嬉しそうですね轍さん。何が、そんなに面白いんでしょうか。」
「ウィールハート。」
「……!」
さすがに驚いた。
その呼び名を知っているのは三人だけだった筈。
私、ベルサ、そして赤沢颯太。
それだけの筈だ。
「渦の心臓。永遠の命。実に良い。面白過ぎるぞジェイカー・リットネス。あれだけの物は此処二世紀程見ていない。なれば、奴と戦わずにはいられないだろう?……
さてジェイカー・リットネス。君が奴とどんな関係かは知らんが、私と奴の果たし合いを邪魔する事は許しがたい所業だぞ。」
やはり歓喜、か。
「……私からも言わせてもらいましょう轍醍醐。あれは面白い物でも何でもない。醜悪醜怪醜態醜聞。それら全てを集めた醜い存在です。なれば、奴を生かしておく訳
にはいかないでしょう?さて轍醍醐、貴方がウィールハートとどんな関係かは知りません。しかし、私が奴を制裁する事を邪魔するのは許しがたい所業ですよ?」
私が言い終えると同時に、轍醍醐は堪えていた笑いを解放した。
「あははははははは!なんだなんだ、礼儀正しい奴かと思ったが、中々どうして無礼千万!面白いじゃないか。」
「それはどうも。では私の勝ちという事で失礼。」
「はははは。“千刃の谷-祢々切丸”。」
私の右腕と両足、そして腹の一部が削がれた。
……やれやれ、戦闘開始ですね。




