最高権利者
W.W.Sの理事長とは、言わばHAJACKの王。
詰まるところ、最高権利者である。
此処で、理事長の持つ権利をつらつらと並べていってみよう。
・税率の決定権
・休日の決定権
・HAJACKの全ての店を無料で利用可能権
・処刑権の行使並びに国設部隊への指令権
・電光社の優先的且つ私的使用権
・戦争権
・第四地区管轄権
などなど……。
俺が知っている物とジェイカーさんが知っている物を合わせるとこれくらい。
だが、実際は数えきれないくらいの、本にすると500ページに及ぶ権利を理事長は得ている。
「第四地区管轄権……?」
第四地区は確か立入禁止区域だよな?
「第四地区は立入禁止。それで合っているよ。」
俺の心の疑問に対してジェイカーさんが答えてくれた。
「一般人にとってはそれくらいの認識しかないでしょうが、実はあそこは我々魔術師やイヴにとってとても重要な地区なんです。」
「重要、ですか?」
「ええ。今の時代なら何処にでも、何処の国でも必要になる地区と言っていいでしょう。どの町にでも歓楽街がある様に、そしてスラムがある様に、第四地区もまた然りなんです。分かりますか?」
「うーん……。」
今の時代に必要。
そして魔術師やイヴに必要。
何処にでも必要。
ふむ……お?
「……殺人許可、ですか?」
「御名答。四だけに“死体処理”ですね。此処HAJACKで一年間に死ぬ人の平均人数は1000人。内8割がイヴや魔術師、2割が一般人なんだけど、とまあこれは関係ないですね。問題なのは死体の数ではなく、焼却場、つまり死体を焼く為の施設です。問題なのはその数。いくつあるか知っていますか?」
「いえ……。運良く、と言うと不謹慎ですけど、身内の死に立ち会った事はないですから。」
それにそんな事に興味は無い。
「答えは0です。」
「え?そうなんですか?」
「はい。最後の焼却場が潰れたのは確か2100年頃だったと何かで読みました。」
「0……。だから第四地区が必要な訳ですね。」
「その通りです。」
……いやだが待てよ。
死体処理場の権利を得たから何だと言うんだろうか。
死体はその辺に放置しておいても構わない筈だ。
だって許可されているんだし。
わざわざ片付けるなんて徒労に過ぎない。
「ハテナって感じの顔してんなあ涼治。そらそうだ。死体処理場の権利なんざその辺にほっぽって野良犬が食うのを待てばいい。そんな程度のクズ権利だ。お前が考える通り、いや至ってないかもしれないが、別の“お得”がそこにはあるのさ。」
「“ある”。どういう意味だそれは?」
コーヒーカップを傾けていた爽が会話に入ってきた。
「その“在る物”について話すには、まずもって先に説明しなきゃならん事がある。」
と言いながら、爽は手に出したホワイトボードを壁に掛けて、黒のマーカーと赤のマーカーと青のマーカーを右手に持った。
本気の説明を仕出すみたいだな。
「この四角がHAJACK。上が北な。この内西2割一帯が第一地区。そこから大通りを介して東の方に第二から第九、そして電光社とW.W.Sがある。そして第二地区から第九地区に囲まれる形で第四地区が存在している。」
ほいほいほいといった具合に、お世辞にも上手いとは言えない地図を書いていく爽。
「第四地区は高い壁に覆われて入れない様になっている訳だが、その理由は二つある。」
まず死体処理、と爽が赤いマーカーで第四地区の四角に書き込む。
「ま、殺人許可されているとはいえ一応のけじめとしてな。簡単に死体処理出来ない様にしてある訳だ。」
ぐるりと死体処理の赤字を囲んだ所で、爽はコーヒーカップに入ったオレンジジュースを口に含んだ。
「そして、ああ。俺はつくづく説明が苦手だと思うわ。」
……じゃあ何故説明仕出したんだこいつは。
「もう一つの理由を話す前に一つ聞こう。まあ全体設定には既に書いてある、とかそんな細かい事はどうでもいいか。HAJACKは魔術大国として、イギリスなんかを置いてけぼりにした訳だが、何故それが出来たと思う?」
「うーん分からん。」
「もうちょい考えてくれよ……。まあいいけどさ。“|渦に現存する恒久たる永遠”ってのを聞いたことは?」
「ない。」
本当に知らないので速答してあげた。
「だろうな。一般人が知り得る事じゃないからそれが当たり前だ。“スティグミ”ってのは魔力の源流。源だ。そこからは名前の通り恒久的に、永遠的に魔力を垂れ流す。渦の様に延々とな。」
「魔力の源ね。つまりそれだけ魔術師が育ちやすいって訳か。」
「その通り。通常の国で、魔力が50以上の一般人が産まれる確率は30%。100以上となると7%だ。対してHAJACKでは、50以上が60%。100以上がなんと40%だ。」
それは凄い。
そう考えると、悪魔の魔力を借りて1000オーバーにした俺はまごう事なき凡人だった訳だな。
[……なんだ。貴様はまだそんな考え方をしていたのか。]
はい?
[曲がりなりにも私を召喚したのだ。魔力がまるで無かった訳なかろう。]
そうだったの?!
卑屈になって損した。
「話を戻すが、いやまあここまで言えば分かると思うが、その“スティグミ”が第四地区の地下三百km程にある。“スティグミ”は術式兵装みたいな物でな、契約が出来る。つまり―――」
「永遠と魔術が使える。って事か。」
「取るなよ台詞を。ま、そういう訳なんだが、W.W.Sの理事長になれる奴だ。んなもん使わなくても一日中“攻撃”星千を使い続けても釣りがくるだろうぜ。」
「……はあ。つまり更に深い所がある訳かだなか。」
「その通り。だが、んな細かい事はいずれ分かるだろうぜ。」
何処と無く呆れた様子で爽は言う。
「いつか第四地区でドンパチやる事になるだろうしな。」
「でしょうね。あそこでならライノセンス、現理事長は存分に力を発揮出来ますからね。」
煙草を吸いつつ話に入りなおすジェイカーさん。
「……あれ?ジェイカーさんって煙草吸いましたっけ?」
「ん?ああこれね。ま、色々あるんだ。」
「色々ですか?」
「……あれだよ。爽君風に言うならこうかな。」
と、灰皿に煙草を押し付けた後、ニヤリとしながらジェイカーさんは言った。
「そんな細かい事はどうでもいい、ですよ。」




