ライノセンス
一同、いや、俺だけだった。
唖然とした。
いやこの場合唖然とするのが至極当然だろう。
だって、敵の親玉が理事長として目の前に居るんだぜ?
[何となく想像していたから私は驚いていないがな。]
はあ?
[大城毬、だ。]
あ。
言われてみりゃ確かに……。
「有り体な入り方であったのは否定しない。だがなんだ?更月涼治以外まるで驚いてないな。面白みが欠片も無い奴らだ。」
やれやれといった具合に手を挙げるライノセンス。
特に強いとかそんな感じは全くしない。
「毬が来た時点で覚悟はしていましたからね。初めまして理事長、ライノセンス。私はジェイカー・リットネス。25歳。メタトロンと同化しています。」
「へー。メタトロンか。そりゃ素晴らしい。」
「セナリア・ベイグラント。サブナクと同化しています。」
「ふーん。」
「神杉紳。カマエルと同化しています。」
「そりゃいい。」
「金の亡者だ。」
「一等いい。」
何故か誰と同化しているか言いはじめた皆。
言っていないのは俺と爽と毬だけだ。
「残り二人は教えてくれないのか?」
「じゃあ二つだけ教えてやろう。」
と、爽が切り出す。
「一つ、知らない奴に話す事何て何も無い。ましてそれが孤立狼なら尚更な。二つ、俺はお前が嫌いだ。」
「は。嫌いね。よろしいよろしい。本音で語り合うのは好きだぞ。更月涼治はどうなんだ?」
「……お前を殺してやりたい。ただそれだけだ。」
「は。あはははははははは。テーゼスタとかいう女の子の事をまだ根に持ってるか。いやーあはははははははは。そりゃそうだよなあはははははははは。」
心底愉快そうに、心底不快にさせられる笑いが場を支配する。
「てめえ……。」
「ふむ。失礼。一等いい笑い話だったが故に大笑いしてしまった。やれやれ、復讐を誓った相手を前にして熱くなるのは分かるが、後先考えないのはあまり褒められた行為じゃない。分からないか?俺は今ライノセンスでありW.W.Sの理事長でもある。お前を退学にするくらい訳ないんだぜ?」
……ちっちぇええええ!
何その嫌がらせ!
ラスボスがやる事じゃない!
[奴がラスボスなのか?]
え?
「時に更月涼治。先程の退学云々の話を冗談にしてやる代わりに、俺の質問に答えろ。」
「マジだったのか……。答えるくらいなら別に構わない。殺す対象だとして、だがそれくらいの余裕くらい俺は持ち合わせているからな。」
「宜しい。では質問だ。お前は俺に復讐しようとするな。当たり前だ。至極当然だ。そこでだが、お前はその復讐を見ていろと、その死んだお嬢さんに言ったのか?」
「は……?」
何だその質問は。
意味が分からな……くはないけど。
質問の意図は分からない。
しかしそう思いながら
「いや、そんな独善的な事は言わない。」
「は。一等いいなそれは。復讐を見ていてくれなんて凄まじく愚かな考え方だからな。死んだ奴はお前に復讐して欲しいなんて思っていない!ってのは熱い熱い青春物だったりでよく聞く台詞だが、敢えて言いたい。なんで第三者、他人、非当事者であるお前にそんな事が分かる?勝手に死者の考えを理解したつもりでいるそいつは凄まじく滑稽じゃないか?おかしいだろ?お前はイタコかって話だ。」
言いながらはははと笑うライノセンスは、確かにどうして、おかしいと思っている様だ。
「いやいやははは。大体根本からおかしいよなこれは。死者が何かを考えるとかおかしい。死者は次の人生に忙しい筈だからな。まさか生き返らせられる訳でもあるまい。そんな物はかなり珍しいケースだからな。」
「……おほん。」
と、そこでライノセンスの無駄話を切ったのはジェイカーさんだった。
「無駄話、元い与太話はそれくらいにして頂きましょう。我々は貴方が求める情報を開示した。ならば次は貴方の番でしょう?それとも、それ程の男気は持ち合わせておりませんか?」
「言ってくれるなージェイカー。毬、お前は何にも教えてないのか?」
「教える訳ないじゃーん。めんどくさーい。」
「そうか。そりゃそうだよな。一等いい。よろしい。教えてやろう。俺はライノセンス。25歳。178,6cm。67,8kg。魔術師二十年目。適正審査1000オーバー。神悪魔『ネビロス』。神天使『サリエル』と同化している。」
神悪魔と神天使……。
二つの相反する、双極に於て対ではない、それら二つと同化している。
異常、異端、畏怖を覚える存在と、そうに違いない。
おかしすぎるだろ。
“神”と頭に冠する者と同化するだけでもおかしいというのに、悪魔と天使、その二つと同化するだけでもおかしいというのに、それを二つ同時にやってのけた存在が今目の前にいる。
それはつまり畏怖するに相応しいという事だ。
[やれやれ、だ。サリエルと同化していた事は、先の出来事で把握していたが、まさかネビロスとまで同化していたとはな。これは、我々……いや“貴様等”だけでは対処不能やもしれん。]
んな事には言われなくても考えが至っているさ。
やばい、どう考えても、どう見積もっても、それ以外に感想が浮かぶ筈がない。
「成る程。よく分かりました。貴方がいかに大仰で、脅威かという事がね。」
「それは一等いい。恐るべきは君の思慮深さ、といった所か。」
「何、大した事はありませんよ。この程度は常に行っている事ですので。」
「ジェイカー・リットネス、神天使『メタトロン』と同化せし者。お前は中々どうして、ただのモブと同等かと思っていたが、いやはや、これは一等いい計算外だ。楽しみだよお前と戦う事が。」
「“お前を殺す事が”、とか言わない辺り中々どうして殊勝ですね。これは“一等いい”、と言った所ですか?」
わざわざ敵を挑発しなくてもいいのに……。
[これを挑発と受け取るなら小物。受け取らぬなら無粋。受け取り且つ怒らぬならそれは大物と言ってもいいだろう。]
……多分ライノセンスは受け取るし怒らないだろうな。
「は。だろうだろう。俺は殊勝の塊なんだ。さて、俺は結構忙しいんだ。呼び出しておいてなんだがそろそろ邪魔だから帰ってくれ。お前達も俺達に対抗すべく策を巡らすべきだろうからな。」
「理事長とはそういう者です。中々様になっていますよライノセンス。では我々は帰りますが、誰か捨て台詞を吐きたい人はいますか?」
……なんで俺達を挑発する!
この人の事も大概理解出来ない。
「いませんか?そこが日本人の血を引く者達の悪い所ですよ。頭に思い浮かんだのなら言葉にしてみましょう。後の事なんて気にしなくていいです。」
此処で言う日本人の血を引く者って、俺、爽、紳さん、金石、それに毬だな。
セナリアは除外なのかよ。
「ま、いいでしょう。私が代表する事にします。」
そこでジェイカーさんはスーッと酸素を吸い込む。
そして一言。
「さようなら。」
そう言って俺達C.D.C一行と毬は理事長室を後にした。




