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ExtraMaxWay-NaturaProdesse-  作者: 凩夏明野
第三章-最高権利者-
20/84

やーやーやー

にしてもW.W.Sって変な学校だよな。

理事長の顔が知られていないなんて。

[それなりの力の持ち主なのだろう。大方、誰かに狙われるのを恐れて、若しくは面倒に思って身を隠しているのだろう。]

ふーん。

色々と大変そうだな、とか考えながら空を仰ぐ。

何でこんな事をこのタイミングでしたかは知らないが、いずれにしても俺はこの時点で捕まっていたんだろう。

俺の目に、空をふらふらと行く白い物体が映った。


「ん?なんだあれ、ってげ!」


[なんだ気色の悪い声を……ああ。]

やばい。やばいやばいやばい。

逃げよう。何処に?

隠れよう。何処に?

何しよう。分からない。

悩んでいる間に、どうやらやばい者は接近していたらしい。


「やーやーやー♪りょーうじ君♪」


「ぐ……。」


あたふたしている俺の肩に、掛けられる声と、ぽんと叩く手が一つ。

その手は女らしく白く、細く、それでいて白過ぎず細過ぎず。

つまり美しい手だった。


「美しい手だなんていやーん♪恥ずかしいよー。」


「え?俺口に出してた……?」


恥ずかし過ぎる……。

いや、いやいやいや。

こんな事してる場合じゃない。

さっさとこの場を抜け出さなければ。


「じゃ、俺急いでるんでこれでさよな―――」


「んっふっふー。“脳電”。」


ピリリと刺激。

……ふざけるなよこいつ。


「可愛く“脳電”なんて言ったって免罪符にはなんねえぞ!さっさと解除しろ!」


「可愛いだなんていやーん。」


「なんで棒読みになった……。」


「だって~当たり前の事に過剰に反応したって仕方ないじゃない。」


「そりゃ確かにそうだが。」


確かにそうだし、加えて言えば可愛いと発したのは俺だ。

あまり文句を言えない。


「……何しに来たんだ。」


だから代わりに、こちらも当然の問いを発した。


「散歩だよー。」


「散歩だあ?にっくきライノセンス勢の一員であるお前が、何でこんなW.W.Sの近くを我が物顔で散歩してんだよ。」


「そんな邪険にしないでよー。私泣いちゃうよ~。」


ヘラヘラしながら言われてもな……。


「目的は?」


「言わないよー。」


「ふん。つまり目的があるんだな。」


「……あー!嵌められた~!」


馬鹿め。

俺を相手にしたのが貴様の運の尽きだぜ。


「くー、年下の癖に生意気な!」


「生憎、俺の辞書に“年功序列”という言葉は無くてな。」


尊敬出来る人には当然敬意は払う。

しかし、まあなんだ、無能に払う敬意なんて売り切れてる。


「いいけどさ~別に。でも目的は言わないよ?言ったら1000割方怒っちゃうからねー君。」


「それもう怒ってんじゃねえのか俺……。そんな事聞いたら、ますます聞きたくなるんだが。」


「言ったでしょ。真実なんて霧の向こうに置いといた方がいいって~。」


「……驚いた。」


「ん?何がー?」


「いや、存外に記憶力あるんだなと思って。ともすれば、あんたが俺を記憶していない可能性があるとすら思ってたよ。」


「……君さ、私の事けっこー馬鹿にしてるよね~。」


実際さっき“馬鹿め”とか言っちゃったしな心の中で。

あんまりそういう事してると、とか言いながら、動けない俺に毬が近寄って来る。


「な、なんだよ……。」


「悪いガキにはお仕置きなんだよ~?」


……そこは普通悪い子じゃね。

悪いガキとか言われてもな。


「嬲られたい?焦らされたい?責められたい?縛られたい?切られたい?いっそ殺す?」


「いやいやいやいや!“けっこー”怖い!怖いから止めて毬さん!」


表情がまるで無い顔で迫られ身じろぎ(動けないから出来ないけど)してしまう。


「あれ?君こそ記憶力無いんじゃないかな~?」


「は?!何で何がどうしてそうなった!」


「私、これでもライノセンス勢なんだにょ?君を殺す理由はそれだけで十分だよ~♪」


噛んでるし。

にょって。可愛いじゃない。

[やはり貴様は大物の馬鹿だな。殺されるやも知れぬこの状態で、そんな事を考えるとは。]

……は!

そうだった。


「いや、お前面白い事以外興味ないだろ……?俺を殺したってプチプチを潰したって大差無いぜ?」


「私プチプチだーい好きだけど?」


「う……。」


「……なーんてね。冗談だよ涼治君。君を殺しても仕方ないよ。」


と言うや否や、俺にディープな口づけをしてから毬は離れた。


「なんだよお前は!キス魔か!アメリカンか!サキュバスかー!?」


「ぬっふっふー。ごちでした!」


「俺の純情を弄びやがって畜生……。」


「良いじゃなーいギャグパートだし。ギャグパートのちゅーは数えなくて良いってライノセンスも言ってたよー!」


「な……!お、お前!ライノセンスとか言う奴に、言ったのかよ!」


「うん。不通でしょーこれくらい。」


お前への俺の怒りがな!

と、そこでタイムリミットが来たのか、“脳電”の縛りが消えた。


「やっと動けるようになった……。くそ、これじゃ適当な話を書いてサボってるだけじゃねえか。」


何で未だにW.W.Sに着いてねえんだ俺は。


「にゃっはっは~。ごめんごめーん。じゃ、行こっか♪」


「は?行けば?何処に行くか知らんが、俺はお前とデートする程暇じゃない。」


「んー?違うよ涼治君。」


「はあ?」


意味不明な事を言われて同じ様な返事をしてしまった。

これじゃ俺が頭悪いみたいじゃん。


「涼治君が私に付いて来るんじゃなくてー、私が涼治君に付いてくんだよ~♪」


「はい?」


「涼治君が私とデートするんじゃなくてー、私が涼治君とデートするんだよ~♪」


「はう!?」


何この子やばいんですけどが。


「じゃない!は、はあ、はい、はうとか!俺は五十音揃える気とか無いから!大体、あんたは俺が何処に行くか知らねえだろ。」


「W.W.Sでしょー?」


「それは知ってたんじゃなくて推察だろうが。何時、何処へ、誰が、何を、何故、どの様に。5W1Hを完璧に述べられたならば付いて来る事を許可してやろう!」


「良いでしょーう。今日、W.W.S理事長室へ―――」


「待てーっ!」


「わー。なに~?」


「何で理事長室に行くなんて知ってやがる!」


「だって私もそこに行くんだもーん。」


「はえ?」


孤立狼がW.W.Sに入るなんて……いや、真っ向切って入っている人が二人もいたな。

いやでも、彼らは、爽は違うけど、紳さんはW.W.Sの人だしな。


「あれ?言ってなかったけー私。いちおーW.W.Sの人なんだよー?」


「……いやまあ予想はしてたから驚かないけど。」


「はおって言ってよそこはー。」


不満そうにぷくっと頬を膨らませる毬。

……だからやばいって。


「どんだけビックリしても、はお何て言う奴いないと思うけどな。言いにくいし。」


「そだねー。じゃあ改めて言うよ~5W1Hー」


ああ続けるんだねこの子……。


「今日、W.W.S理事長室へ、君とかC.D.Cの人達が、んー……何をは難しいからパスね。理事長に会うために、歩いて行くのー。」


「概ね、というか合ってるな。」


何をってのは確かに難しいからパスでいいだろう。


「……はあ。仕方ない、一緒に行こうぜ。」


「わーい!恋人繋ぎ~♪」


「暑苦しいわ……。」


と言いつつも手を離そうとはしない俺であった。

非常に冷たい毬の体温を手に感じながら、俺はW.W.Sに向け再び歩を進め始めた。

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