CASE:セナリア・ベイグラント
そうね。
たまには過去を顧みるのも悪くないわ。
あれは私が10歳の頃、父さんからサブナクを受け継いだ日。
それ自体に別段語るべき事はない。
今まで何回も繰り返されてきた事が、私にも回ってきたというだけだから。
サブナクと同化して、話して、終わり。
問題なのは、語るべきなのは、その3年後、つまり私が13歳の頃。
2222年、フォーカードじゃないけど綺麗な並びの年の、これまたツーペアじゃないけど2月2日の事。
仕方ないから話しましょう。
貴方の■■■を腐らせる様に。
今更だけど、貴方って不満はないの?
[む?何に対してだ?]
この同化についてよ。
何年前からか知らないけど、連続してこの世にいて、同じ家系の者と同化している。
詰まらなくない?
[セナリアは知らないかもしれないが、俺達悪魔や天使がいる世界には何もない。俺にとってはだが、あんな所人間が定義する所の地獄だ。“退屈地獄”。無駄に意識があるだけに時間の経過を肌で感じてしまう。だから、俺にとってはこの世の方が心地好い。]
そう。
貴方達も結構大変なのね。
それで、後者の質問への答えは?
[意識があると、やはりと言うか何と言うか、長年付き添っていたり見ていたりする物に愛着が沸く。それは俺達の様な者でも同じ、だと俺は思っている。]
へー。
それはなんだか悪くない気分にさせてくれるわね。
愛って良いわよね。
五十音の最初の二文字しか使ってない。
つまり“あい”ってこの世に於ける初めてなのよ。
もう超愛したい。
[そして横着な訳だな。]
合縁奇縁。
[何にしても、これこそ3年も経って今更だが、これからよろしく頼むぞお嬢さん。セナリア、これから君が何をしようと、死ぬまでは近くで見守り愛着を持つ。嬉しい時も哀しい時も楽しい時も怒れる時も、如何わしい事をする時も。]
……変態。
私はジトッとした目で見えないサブナクを睨んだ。
[はっは。変態だと?如何わしいで何を連想しているんだ。]
殺すわよ。腐らせて。
[はっはっは。与えた力で殺されては俺も敵わんな。時にセナリア、俺は先程まで寝ていたので知らなんだが、一体何処に向かっているんだ?今日は休日でW.W.Sに行く必要はないのだろう?]
ええ、そうよ。
W.W.Sに行くわけじゃない。
今からW.W.Sの脇の未成年女子寮に行くのよ。
[……ほう。]
殺、す、わ、よ?
[話を続けてくれ。]
もう。
えっとね、私の親戚、と言ってもかなり遠いのだけれど、テーゼスタって子がいるの。
その子のご両親が亡くなられて家が養女にする事になったのね。
……養女を言い直したら消すから。
[……続けてくれ。]
それで普通学校に通わせる話だったんだけど、一応適正審査を受けさせたの。
そしたら何と100超えててね。
と言う訳で急遽W.W.Sに入学させる事になったの。
[ほう。それは分かったが、何故寮に入れるのだ?]
話を先取りしてくれて助かるわ。
何で寮に入れるかって言うと、遺言なのよ。
テーゼスタのご両親のね。
『拝啓スミス・ベイグラント様。我々の命がもう長く無いことは御存じかと思われます。そこでお頼みしたい事があります。それは一人娘のテーゼスタ・ストルクムの事でございます。まだ5歳、施設に入れて育てるのは、誠に私事ながら忍びない限りです。どうか、我々の亡き後、御迷惑とは存じ上げますがどうか、テーゼスタの面倒を見ていただきたい所存にございます。また、普通学校に通う場合も、万が一W.W.Sに通う事になった場合も、テーゼスタは未成年女子寮に住ませたいと思っており、既に先十年の家賃は支払い済みでございます。どうか、我が愛しの娘の事をお願い致します。敬具。』
と、父さんの所に手紙がね。
その後1年経たない内にテーゼスタのご両親は亡くなられた。
[何故死んだ?手紙の内容から察するに、余命を悟っていた様だが、病か。]
いいえ。
それについて“お父様”は何も答えてはくれなかったわ。
ただ、ご両親は魔術師だった。
そこから推して知るべしといった具合ね。
[ふむ。しかし、結局その者達は何故寮に入れたがったのだろうか。]
さあ……。
話を最初に戻すとね、私は今から彼女の部屋の下見と必要な物の買い物をしに来たのよ。
[君は変わっているな。]
ん?
何が?
[大金持ちの息女とは思えない。こんな七面倒な事は召し使いにでも任せておけばよかろう。]
良いのよ別に。
どうせ暇だし、それにこういう体験も後に役立つかもしれないし。
[そんな物か。]
そんな物よ。
と、話している内に未成年女子寮に着いた。
やっぱり二“人”だと違うわね。
その後、部屋の掃除をしたり、必要最低限の物を注文したりで時間は過ぎて早17時。
日は傾き、赤い光がカーテンの無い窓から差し込んで来る。
「うん。割れながら良くやったわね。ピッカピカよ。」
[確かに。何故か至る所に置いてあった皿達が“割れながら”もよくやったと思う。]
“我ながら”。
とにかく、これで基本的な準備は完了。
今日はこの辺で帰りましょう。
[……早く帰った方がいい。何やら不穏な空気を感じる。迎えを呼ぶのもいいかもしれん。]
不穏な空気?
[ああ。俺の杞憂かもしれんがな。]
……まあ信じてみましょう。
「<芹沢さん。すまないんだけど迎えを寄越してもらえないかしら。>」
「<承知しましたお嬢様。>」
一種デジャヴュ、一種正夢の様な会話をしながら寮の外に出る。
「……誰。」
「知らないのは当然だ。俺は君に名乗った覚えはないし、俺の情報がそう簡単に漏れるとは思えない。つまり、君が俺の名前を知らないのは当然だ。」
長ったらしい。
でもどうしよう。
この人絶対強い。
[逃げるのが最良の方策だが、それは難しそうだな。]
「……何か用ですか。」
「用だ。わざわざ目の前に出るくらいだからな。用がある以外に他ない。」
「では簡潔におっしゃって下さい。私ももう暇じゃないんです。」
「は。よく言われるんだよ。“お前、間が悪すぎる。”って。」
やれやれといった具合に手を上げる男。
……どうすればいいのよこれ。
「まあいい。用件は一つだけだよお嬢様。サブナクを渡してもらおう。」
「嫌ですバイバイ変人さん。」
すたこらさっさと、男の隣をとっとと通りすぎて門へ急ぐ。
男はどうやら、こちらを見ている様ではあるが、だがしかし、こちらを追う気はないらしい。
[こちらをニヤリともせず見ている。不気味な奴だ。]
……何にしても、迎えを呼んでおいて良かったわ。
あんな変な奴に追われたら嫌だものね。
門の前に到着すると、既に車が来ていた。
「ごめんなさいね芹沢さん。」
後部座席のドアを開けつつ、運転手に詫びを入れる。
「いいえお嬢様。この程度おちゃのこさいさい。」
「!」
運転席にいたのはさっきの男だった。
そして後部座席に運転手である芹沢さんがいた。
気絶している。
「さて、それで何処までドライブすればいいのかな?海まで?それとも山まで?若しくは地の果て、デッドエンドまでかい?」
「何すかした事言ってるのよ変人さん。私が望むのは芹沢を起こす事。そして貴方が此処から出ていく事だけよ。」
「ふむ。それは出来ない。だってサブナク欲しいし。」
「ち……。」
思わず舌打ちしてしまった。
「もういい。貴方、鬱陶しいのよ。切り裂こうか、腐る断絶。“多角鋭式六頭霊影刃”。」
「お、すげえ。」
上等の腐食の剣を前にして、感想はそれだけだった。
「……何よ。もっと驚きなさいな。詰まらない人ね。」
「驚いている。君がそれを使えている事にね。本来サブナクは君の様な青二才が使える様な悪魔じゃない。」
そうなの?
[さあどうだかな。]
「しかしまあなんだ。剣を構えての話し合いなんて俺は好きじゃない。■■■■■■■■■。“■■■■”。」
「え?」
そう。
この出会いは私にとって、それこそ■■の■■であり、それと同時に、■■■の■■でもあった。
……私は。




