CASE:如月薫
俺か。
って言ってもさ、俺はこの話、この世界ではあまり主要な立場にあるとは言えないんだけど。
いつか、俺の世界の話が語られる日が来るかもしれんが、その確率はこの話の人気度と、それ以上に作者のやる気に沿うからな。
ま、なんでもいいか。
じゃあ始める。
言っても前の続きみたいなもんだけど。
行くぜ。
掛け声は、ない。
噂、よりも酷くはっきりとした、言わば予感とでも言うか。
いや予感にしても噂並に胡散臭いといえばそうなのだが。
前々回の『権限者』の余韻が残っている俺にはそれが分かった。
世界が、俺が変えた後に、何かがあって、そしてまた変わったという事に。
最近学校での話題に於ける約2割を占める、『更月涼治』という生徒がそれに関わっている事にも。
どうやらそいつは『悪魔』とか呼ばれているらしい。
凜から女子……って20歳で女子とか馬鹿げてるな女性になれ。
とにかく、女ルートからの情報によれば、更月涼治はかなりいびられているらしい。
……それらから推察するに、そいつが今回の世界の権限者である事は殆ど確定だろう。
だとするなら、魔術が発達した世界か。
悪魔ってのもあながち間違いじゃないのかも、ん?
噂、言っても一人でだが。
何にしてもすればなんとやら、更月涼治が俺の目の前を駆けていった。
「……。」
やれやれ。
声を掛ける間も無かったな。
威勢の良い奴だ。
その割に泣いていたが。
「Quick“光よりは遅い。でも速い”。」
あんなものを見せられては気になって仕方がないじゃないか。
7倍速で走る俺は、それでも完全に更月に近付く事は出来なかった。
“攻撃”による移動か。
流石は悪魔の力だ。
「あ!薫さん!廊下をQuickを使って走っちゃダメですー!」
「悪い頼子ちゃん!今急いでるんだ!」
掛けられる声に返事をして先を急ぐ。
そのちょっとの間にも、俺と更月の間は2m程距離を足して開いていた。
早いな。
Quickで追いきれないなんて。
……この先にあるのは、階段だな屋上に続く。
そこまで考えが至れば、答えも自ずと出るか。
先に屋上に着いた更月が何かで南京錠と鎖を切り裂いた。
やるな。
取りあえず、中に入った、いや外に出た更月を扉の内側から眺めてみる。
ポーカーフェイスで感情が読めない奴だ。
飛び降りるかとも思ったが、どうやらそんな気はないようだ。
と、更月がぼそぼそと何かを呟く。
瞬間、右手に短刀が。
同化している悪魔の術式兵装か。
「……いやいやこれは不味い。Speed“時間を加速させろ”。」
時が止まる。
故に風景も止まる。
当然目の前の更月の動き……マジかよ。
じりじりとその腕が動き、胸に短刀を突き刺そうとしている。
「どんな力だ……。更に不味い。Light“原点の光”。」
時が元に戻る。
短刀は今までの7倍近くのスピードで持ち主の胸に突き刺さろうとしている。
だが、問題ない。
こっちは地球を、1秒間に7周半回るスピードを持っているんだからな。
「悪いな。」
意思を阻む事に一言詫びをいれ、“光の剣”で刃を遮った。




