CASE:更月涼治
注意……って程の事でもないか。
この章の時間軸はその話によって大きく前後します。
主に過去に。
注意終わり。
日常って言ってもな。
俺の日常をぐだぐだと話した所で特に得になる事は無いと思われる。
今の俺ならいざ知らず、過去の俺の日々に然ほど面白みがあるとは思えないからだ。
他の奴がどうかは分からんけど。
でもま、あれだ。箸休めじゃないが話休めとして聞いてもらうのも、俺にとっちゃ悪くない話ではある。
という訳で少し語ってみよう。
あれは、そう、俺が前の学校の……えー……あれだ、取りあえず15歳の頃の話だ。
そして彼、如月薫が20歳の頃の話。
さあ遡ろう。
「……。」
よくある話ではあった。
ガキ程勘が良い。
下手に、いや、下手な知識や了見を持つ大人より、何も知らない純粋かつ、言ってしまえば無知な子供の方が鋭い。
俺が悪魔と同化してから約……どれくらいか忘れたが、それなりに時間を重ねているという事は分かる。
先に挙げた無知なガキ共の中には本当に鋭く、また、見つけた遊びの種を完全に掌握したいと思っている奴らが少なからずいた。
奴らは俺が悪魔と同化している事に薄々ながらも、それこそ今は魔術師にすら隠している事に気付いたのだ。
当然、俺も幼かった分そういう物に対するガードが甘かった。
しかしそれを抜きにしても、いやはやガキの勘は怖いね。
それを俺に責められても困る。
だって、根本の原因は悪魔にある訳だし。
切っ掛けはいつも本の些細な出来事だ。
あれは確か12歳、昔で言えば小学校とやらの6年生の頃だな。
ある日、ガキ大将を気取っている奴と俺はぶつかってしまった。
その糞ガキは何処で覚えたのか知らないが“いってえ!骨折れた!てめえ金出せよ!”とほざきながら胸倉を掴みやがった。
しかもぶつかった右腕を使って。
さっき無知なと言ったが、本当にガキは無知で馬鹿で喧しくて鬱陶しい。
ま、俺はそこまで無知でも馬鹿でも喧しくもなく鬱陶しくもない優等生なのでこう言ってやったさ。
“まさかとは思うんだけど、あんたの自己治癒能力は凄まじいのかな?折れている筈の右腕で僕の胸倉を掴むなんて正気の沙汰じゃないよ?どんだけマゾなんだ。”
……前言撤回しよう。
超ウザいなこの糞ガキも。
そう思ったのは目の前の糞ガキも一緒だったようで。
奴はニヤリともせず殴り掛かってきた。
全く、ちょっとしたジョークくらい軽く流せよ、とか思いながらも俺、いや僕は振るわれる左ストレートを眺めていた。
そして俺は思う。
例えばこの時使った……使えた、使わされたのが“攻撃”だったら。
俺はあんな事をする必要もなく、そしてまた、あいつと出会うという事もなかっただろう。
しかしどうだろうか。
これから肉体的には全くだが、精神的にかなり来るいびりを三年程受けつづけた果てにあんな結末になった事が、果してあいつとの出会いによる釣り合いで±0になっただろうか。
答えは否。断じて。
確実にこれら一連の、片方は詰まらない、もう一方はありがたい出来事では、決して釣り合いの取れる物ではない。
プラスになったのだから。
話を戻そう。
左ストレートが僕の左頬に当たる寸前、発揮された僕の魔術師としての力は“防御”。
悪魔の純粋な力が表出した物だ。
それは大地程の堅さを誇っていた。
そして糞ガキの左拳は砕け、僕は奴の悲鳴を聞きながら乱れた衣服を整えた。
その後即座に逃走。
やっぱり、怖かったんだろうな怒られるのが。
逃げちまった。
人の通りの少ない廊下で良かったとその時は思ったさ。
だが違う。
実際はもう少しガキの前にいるべきだったんだ。
脅すために。そしてそれにより口止めするために。
思慮が足りなかった。
色々省くがその後三年程、俺はクラスで浮いた存在だった。
何を言われようとも、何をされようとも心は俺はまるで動じなかった。
悪魔がいたおかげで、僕は同じ年代の奴に比べて冷静に物事が考えられるガキになっていたからだ。
ま、冷めた奴に成り下がったとも言えるけど。
何にしてもいつまでも、俺は悲しみを感じる事など一瞬たりとも無い生活を送っていた。
15歳、あの言葉を聞くまでは。
“イヴっているだろ。あれは人間の持ってる力を際限なく引き出した結果だって言う。けどお前の場合違うよな。お前は■■■■■■■■。”
それを言われたら、流石の俺も傷付いた。
そして意思とは関係なく、走り出した俺の足は屋上へと向かっていた。
久しぶりに頬に湿り気を感じながら。
屋上に続く扉は鎖やら南京錠やらで厳重に閉鎖されていたがそんな事は関係ない。
僕は悪魔の『術式兵装』である“■■”を使って鎖と南京錠による柵から扉を解放し開け放った。
瞬間的に風が屋内に舞い込む。
8階建ての屋上の風はこんなもんかと思いつつ外に出る。
屋上は閑散としたもので、鳥なんかいないし、低いフェンスが設置してあるだけだった。
最後に見る景色がこれではあまりにも忍びないと思い僕は、屋上というおよそこの校舎に於て最も高いと言えるだろうその場所から見える俯瞰景色を、当然のように眺めて心に刻んでいく。
そして考える。
今からするべき事を。
いや、何をしようと一つの結果のみしか生じない。
しかし、よく考えてみよう。
例えば、こんな高い所に来たのなら、当然飛び降り自殺に走るべきだろう。
それが屋上なのだから。
ただ、オリハルコン並の堅牢さを誇る“防御”を使うこの体が、果してこんな程度の高さから飛び降りた所で死ねるのだろうか。
死ねなかったにしても、もう一度もう二度と繰り返せば、いつかは魔力も果て死ぬかもしれない。
いやでも、そんな回りくどい方法面倒過ぎる。
だったら、取るべき行動は一つか。
“防御”だろうと、強固な『術式兵装』だろうが、貫き、破壊し、その身を砕く悪魔の術式兵装である“■■”を使えば、結果に辿り着ける筈だ。
ならばと、僕は迷う事なく“■■”を召喚する。
そして当然のようにその刃を自らの胸に向け構える。
今は短刀の形をしているこれは、まるで僕の結果を望んでいるかのごとくだ。
そこまで望むなら、うん。
[……お前が諦めるというなら仕方あるまい。]
うん。
ごめんな。
勢いよく、胸へと刃を突き付けた。
瞬間、僕が見たのは眩いまでの“光”だった。




