得難いは全てに説き伏す烙印(真)
「っと。綺麗だなその花火。」
爽が鎌、“得難いは全てに説き伏す烙印”……長いな。
まあその鎌だ。
それを振るたび、きらきらと火の粉が舞っている。
とても綺麗だ。
「この状況で挑発出来るなんて結構やるな涼治。」
「いつでも余裕を持つのが大事だって思ってるからな!」
“影の王冠”を真正面に斬りつける。
左手の『凪』で軽く防がれる。
「う、くそっ!」
鎌で引っ掛けられて“影の王冠”が弾き飛ばされた。
「貰ったぜ。」
「どっちをだよ!」
解除、再召喚。
振るわれる鎌を再び右手に戻した“影の王冠”で防ぐ。
鉄と鉄ががっつりがっちりぶつかり合うと火花が散る訳だが。
鎌が散らせる火花も合わさりかなりド派手に散った。
「……成る程。命を貰うってのと剣を貰うってのを掛けた訳か。上手いな。」
「御名答だが、鍔ぜり合いっぽい事やってる最中に納得する事じゃないな。」
お互いに刃を振り抜き弾きで距離を取る。
手を抜いているのか、刃自体にまるで力を感じない。
それはお互い様な訳だが。
別に殺し合いに興じている訳じゃないからな。
「聞いていたよりやはり良い。頗ると言ってもいいくらいにな。センマイカを殺したってのは聞いてたから期待は当然していたが、斜め405゜くらい良い。」
「45゜って言ったらどうなんだ。」
「一周回って更に45゜格が上がってるって言ってんだぜ?素直に褒め言葉として受け取れよ。」
分かりにく過ぎる褒め言葉だぞそれ……。
「ほら、次も躱すなり避けるなり弾くなりしろよ。見えやすい様にはしてやるから。『鎌鼬』。」
左手の刀が振るわれる。
と、そこから斬撃波が生じ、俺に向かって飛んできた。
なんて、ゆっくりと考えているだけの時間はなかった。
俺が取った行動はシンプルなたった一つ。
躱して避ける事だった。
「得体の知れない物を真正直に受けることはしない。」
「良い判断だ。俺だってそうする。でも変な話だよな。」
「何が。」
「万人が思いつく策ってのは愚策だそうだ。つまり、さっき取った策は愚策な訳だ。けど実際は最良の結果を収めた。じゃあこの言葉は間違えって事になるのか?」
「おお。成る程。確かにそれは矛盾している。その言葉を最初に言った奴をとっちめられる。」
「それは良い権利を得た。『鎌鼬』三連。」
再び、いや三度と言うとなんかしっくりくるな。
見えにくい斬撃波である『鎌鼬』が三つ放たれた。
愚策も二度三度続けては面白くない。
一つ目、“影の王冠”で斬りつけてみる。
完全には消せていないのか、左肩と右脇腹を切られた。
なので二つ目は“影の手”で包み込んでみた。
よし、次は上手に出来ました。
三つ目は面倒なので避けて躱した。
「そう。最初にやった事こそ愚策だ。でもよく考えればそれも結構万人が思いつく事だよな。前言撤回だ。万人が思いつく策は愚策、とは限らない。これを最初に言った奴は合ってもいるし間違ってもいる。つまり俺はそいつを責められないし責める事も出来るって訳だ。」
「それは残念だったな。」
「本当にだ。“烙印”。」
「おお……更に綺麗。」
鎌の刃を中心に真っ赤な火が渦巻いている。
かなりの勢い、かなりの火力の様に感じるが、熱くもなんともないのはどういう訳だ?
[あの火、“烙印”というのだが、あれはこの世で使う火としては最も最悪な物だ。]
最悪な?
[あれは物理的に何かを燃やすという事は出来ない。精神的焼却能力のみを有する稀有な火だ。貴様は今“烙印”を綺麗だとしか認識していない。だから熱くないのだ。]
成る程納得。
なんかお前最近説明しかしてない気がするな。
[貴様とは話し飽きた、という事ではないか?]
なんで疑問文なんだ……。
「“烙印”はお前の体を焼く事は出来ない。出来るとしても中の者を焼く事くらいだ。」
「……それ十分凄いから。」
「俺が言いたいのは自慢じゃなくて警告だ。鎌に触れるなよ。触れれば下手すりゃ中の者が帰っちまうぞ。」
「それは困るな。振るわないでくれ。」
「無理だな。」
爽が正面に向かって突っ込んで来る。
“影の王冠”でまともに受けるのは危険そうだ。
「“影の手”!」
“影の手”で鎌の刃を捕え―――
「っ!?あっが……!うわああああああ!」
「……話はちゃんと聞いてろよ涼治。」
熱い……!
腕と脚に激痛が走る。
火が皮膚を舐めるように、また、体内に侵食するように。
走る走るよ痛みは走る。
何だよこの痛みは……!
[そんなに痛いか。]
痛いよ!
それこそ今すぐ切り落とした方が楽なくらいに痛い。
[それは貴様の思慮の無さに対する対価だ。甘んじて受けろ馬鹿者。]
はあ!?
[御剣爽は中の者を焼くと言っていただろう。それを“影の王冠”でまともに受けるなど愚者のやる行いだ。]
あ……そういえば。
[全く。取りあえず“影の王冠”を解除しろ。貴様は腕や脚を直接斬られた訳じゃない。大城毬の考えを肯定する様で若干面白いが、“影の王冠”を、武器を持つベレトは腕と脚に同化している。そのベレトの“影の王冠”を使って“烙印”を纏った“得難いは全てに説き伏す烙印”を受けたのだ。つまり、“影の王冠”を介して腕と脚に火が走った訳だ。だから、“影の王冠”を解除すれば痛みは消えるし、ベレトも燃やし尽くされる事は無い。]
……長い説明どうも。
絶対最初と最後だけで良かったと思うけどな。
愚痴を垂れつつも言われた通り“影の王冠”を解除する。
と、痛みは瞬時に消えてくれた。
ベレトは大丈夫なのか?
あれ程の痛みだ。
ベレトだって……。
[それは心配に及ばない。我々に痛覚などない。]
そうか。
そりゃ安心だ。
「涼治……戦いは数瞬が命に関わる。一瞬で判断出来なきゃ今の二の舞をいつまでも舞いつづけるぞ。」
「うん。相手がお前で助かったよ。」
「いや安心するのは早い。今から更に追い込むからな。」
そういうと、刀と鎌を左上に構えた。
そしてそれを同時に振るった。
すると『鎌鼬』に“烙印”が絡まった状態で飛んできた。
これを“影の王冠”で受ければさっきの二の舞だ。
速度はかなりの物だが、避けられない物ではない。
そしていい加減受けに回るのは面白くない。
いや別にラブ的なそれではないぜ?
無論俺はこれを『鎌鼬』が俺に到達する1秒足らずの間にモノローグとしている。
「“攻撃”星十。全て脚へ。」
『鎌鼬』をしゃがんで避けながら前に飛び出す。
次は俺から仕掛ける番だ。




