今
「ただ今帰りました。」
「あー、更月君おかえり。」
「おはよう涼治。今日も良い天気ね。」
「おはようございます更月君。」
「……ん?よ。更月。」
「林檎食べる?」
「……。」
確かにね。
ベリネというとても便利な連絡手段があって、俺も初めの一ヶ月と終わりの二週間くらいは定期的に連絡を取っていたさ。
いやでもさ、だからって実際に会うのは久しぶりな訳じゃん?
[所謂リアルコンタクトというやつだな。]
……お前横文字好きになってきたの?
[リアルコンタクトを日本語に直すとすれば現実邂逅か?それでは意味が分かりにくいだろう。]
そりゃそうだが。
久しぶりにC.D.Cの会議室に入った。
そこでジェイカーさんはノートパソコンに何かを打ち込み、セナリアはアフタヌーンティーを楽しみ、紳は聖書を読み、爽は惰眠を貪り、金石は林檎を剥いていた。
ってまた林檎かよ……。
「どうしました更月君。早く座ってお茶でもいかがですか?」
「あ、はい。頂きます。」
緑茶でいいかな、というジェイカーの問いに頷きで返して席に着く。
改めて皆を見てみる。
特に変わった様子は無い。
此処ではあんな不可解な事は起きなかったんだろう。
……ま、今は別に話す必要はないか。
「はいどうぞ。外国にいたんだから久しぶりの緑茶だよね?セナリアさんがくれた上等の茶葉で淹れたからじっくり味わって下さい。」
……実際はちょくちょく飲んでたけどな俺。
「ありがとうございます。セナリアもありがとな。」
「別に良いわよ。私はあまり緑茶が好きではないし、家には貰い物の高級茶葉が腐る程あるから。」
「あははは……。」
やっぱ世界が違うな。
「それで更月君、どうだったかな世界は。」
「……はい。とても綺麗でしたよ。ヨーロッパを囲う水壁も、中国の山中にあった滝も、愛知県で見つけた鍾乳洞も。勿論、そこにいた生き物達も。」
「それは良かった。」
誰かが“にやり”と笑った気がした。
「……自然が満ちているからこそ世界は美しい。そして、それを知りながら破壊している人間はとても不自然で、だから、人間なんてこの世にはいらない。それがライノセンス勢の、“過去”の考え方だというのは分かったし、確かに一理あるとも思えます。」
[……。]
更に誰かの笑みが深まった気がする。
「でも……。」
その言葉を発した瞬間、笑みは消えた。
「人間だって自然から生まれた存在だ。自然の一部とは言わない。不自然な物になりすぎたんですからね。でもだからと言って自然の恩恵から出来た俺達人類を滅亡させるなんて、自然に対する反感だと思うんです。人間を消せる存在があるとすれば、それは自然だけで、不自然である俺達にはそれをする資格なんてない。以上が、俺が世界を見て出した結論です。」
「よく言いました更月君。我々人類の命とは則ち神が創りだした物。であるならば、命の所有権は神にあるのです。我々が勝手に根絶やしにしていい物ではありません。」
聖書を閉じて俺の話を聞いていた紳さんが同調してくれる。
……若干違う気もするけど。
[神が人間を創ったのではなく、人間が神を創ったと。そう考える訳だな貴様は。]
そう。
そしてだとするなら、神もまた不自然な存在なんだ。
こんな事口が裂けても言わないけど。
「……安心しましたよ更月君。私は少し不安だったんです。君が自然を感じる事で、そうだね、意味合いが若干違うかもしれませんがストックホルム症候群とでも言おうか。ライノセンス勢と同じ考え方になるんじゃないかと心配していたんです。」
「理解はしました。でも納得なんて出来やしない。そんなこと到底不可能な事でしたからね今度の場合。」
皿に乗せられた林檎を摘む。
うん、美味い。
やっぱ俺も不自然が好きなんだな。
[と言うと?]
自生していた林檎も美味かったけどさ、この管理された林檎も相当美味いって事。
「何にしても無事で良かったわ。W.W.Sで見かけないと思ったら、外国に行っていたなんてね。最初は貴方が高飛びでもしたかと思ったわよ。」
「いや別に悪い事は……。」
していないと言おうとして言葉が続かなかった。
[まだ気にしているのか?センマイカの事を。]
……気にしていないと言うと嘘になる。
でも、それを抑えなきゃ俺は前に進めないって事はちゃんと理解してるから安心してくれ。
[ならばいい。]
「よし。更月の歓迎会、いやお帰り会をしよう。」
林檎を剥くことに飽きたのか、次は柿を剥いていた金石がいきなり立ち上がった。
「そりゃ良い考えだ。美味いもん目一杯食うぜ。」
「爽。貴方のための会ではありませんよ。」
「ははは。良いじゃないですか紳。金石の奢りなんですから。」
……なにげにグサッといくよねジェイカーさんって。
ま、とにかく、俺は帰ってきたんだ。
HAJACKに、そして皆の下に。




