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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
八年間の片思い side璃子
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リシマキア:強気



 翌日の学力試験は学生番号順で講義室が分かれているから、まず学科の掲示板で講義室の部屋番を確認してから三階の教室に向かった。

 黒板には座席票が貼られてて、黒板の前に立って座席を確認するように室内に視線を向ける。室内にはまだあまり学生はいなかったけど、私の席の前には女の子が座っていた。

 今日こそ声かけようっ!

 私はそう意気込んで、席に向かって歩き出す。

 自分の席の前の女の子に近づいた時、ふっとその子が顔をあげた。

 ふわふわの砂糖菓子みたいな髪の毛、くりっとした瞳が印象的なかわいい女の子だった。


「おはよう」


 私は自然なカンジで挨拶する。


「おはよう……」


 声かけられるとは思わなかったのか、ちょっと驚いたように目を瞬いてから、はにかんだ笑顔は女の子らしくてとっても可愛い。

 私は彼女の後ろの自分の席に荷物を置いてから、もう一度話しかける。


「私、小鳥遊 璃子です。よろしくね」

「あっ、私は空見 琴羽(そらみ ことは)です」

「琴羽でいい? 私も璃子でいいから」

「うん、璃子ちゃん。よろしくね」


 にこっと笑った琴羽につられて、私も笑みがこぼれる。

 それから家はどこらへんかとか、今日の試験の勉強をしてきたかとか話していると、横から声をかけられた。


「すみません、席、奥なんだけど……」


 大学の講義室の机って椅子と一体型が多くて、この教室もそう。私が座ってるのは五人掛けの席の左端だから、中央に座るには私が一度どかなければならない。


「あっ、ごめんなさい。どぞ」

「ありがと」


 にかっと白い歯を見せて笑った彼女は、ショートカットの髪が快活な印象だった。


「二人って出身校同じなの?」


 私と琴羽が仲良く話してるのを見て勘違いしたみたい。


「ううん、さっき話したのがはじめて」

「私は立岡 綾(たておか あや)。仲良くしてね」

「こちらこそっ」


 私と琴羽の声が被さって、三人顔を見合わせて笑ってしまった。

 こうして席が前と隣になった琴羽と綾と私は仲良くなって、このメンバーで一緒に授業を受けるようになるんだけど、それはちょっと先の話。



  ※



 学力試験が終わると、張りつめていた講義室内が一気ににぎやかになる。


「できた~?」


 隣の席の綾に聞かれて私は苦笑する。振り返った琴羽も苦笑してる。

 試験は理科と英語の二教科。なんで入学してしょっぱなに試験? って思ったけど、これで講義のクラス分けをするみたい。

 一通り予習はしてきたけど、あまり自信ないなぁ……

 まあ、一番良いクラスじゃない方がいいのかな。きっと、ってか絶対、拓斗は一番良いクラスのはずだから。あいつってこういう時も満点とるくらい可愛げないからね。

 そんなことを考えて、はっとする。そういえば、琴羽達と話してて、すっかりシャーペンのこと忘れてた。

 今日こそシャーペンを貸した男子を探そうと思ったのに。でもよく考えてみたら、この講義室にいるとは限らないんだよね。

 薬学科の生徒は百二十人くらいいて、試験の講義室は二クラスに分かれている。

 ふっと、私が座っている列の一番前の席に視線を向ける。拓斗は私より三つ学番が早くて――まあ、十二年間隣の席になり続けた関係だけど、さすがに大学は人数が多いし男女一緒にあいうえお順だから、隣ってことはなくて――拓斗が座ってた席にはもういなかった。


「ねえ、健康診断いくよね?」


 考え込んでいた私は、綾の言葉に思考から現実に引き戻される。

 男子の健康診断は昨日で、今日は女子の日。時間はもう十二時を過ぎてるけど……


「うん。お昼時間だけど、健康診断いってからお昼かな」

「じゃあ、一緒に行こうよ」

「うん、あっでも、食堂で高校の友達と待ち合わせてるんだ。食堂に寄ってから体育館に行くから、先に行ってて」

「わかった」

「璃子ちゃん、後でね」


 綾と琴羽が席を立ち、私も荷物を持って席を立ち上がって綾が出られるようにどく。扉に向かって階段状になった通路を下りようとしたと時、がしっと肩を後ろから掴まれて振り返ると、シャーペンを貸した男子が後ろに立っていた。


「あ……っ」


 男子が階段状の上の段に立っているのもあって、私は首が痛くなるくらい顔をあげて男子を見た。そんな私をじぃーっと見下ろした彼はすっと片手を差し出す。


「シャーペン、昨日返し忘れてたから」


 そう言われて無意識に手のひらを広げたら、男子が拳をぱっと開いてコロンと星柄のシャーペンが私の手のひらに転がった。

 昨日はもう戻ってこないかもとまで思っていたシャーペンが無事に戻ってきて、私は手元に戻ってきたシャーペンを胸の前で握りしめて、ぎゅっと瞳を閉じる。

 よかった――

 戻ってきただけで泣きそうになるくらい大切なシャーペン。

 一人喜びをかみしめていると、ふいに肩を掴まれて振り仰いだ。瞬間。

 チュッ――と微かなリップ音と確かな感触に、私は大きく見開いた。




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