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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
君の笑顔を守るため side…
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リュウキンカ:君に会えて幸せ



 子供みたいにぽろぽろ涙を流して、嗚咽交じりに話す璃子の言葉を俺は静かに聞いた。

 夕方の道路の真ん中で話していた俺達はとりあえず場所を近くの公園にうつして話の続きをすることにした。

 土曜日の夕方だが小さな公園だからか、遊んでいる子供はいなくて、俺と璃子はジャングルジムに寄りかかる。

 璃子は小学生の時から俺を好きだったと言い、俺が恋をしないと言ったのを聞いて想いを口にしないと決め親友として側にいてくれたことを知って胸が痛む。

 俺の言葉が璃子を苦しめていたんだって初めて知って、罪悪感と、それでもずっと俺を好きでいてくれた璃子のひたむきさ、側にいてくれた優しさに胸がいっぱいになる。

 中学高校の時、周りから俺との仲を疑われて嫌がらせをされて、そんな時に男子から告白されてオーケーして付き合っていたらしい。それを知ってほっとしている自分がいた。


「だからね、私が好きなのはずっと拓斗だったんだよ。でもこの気持ちは拓斗には迷惑なものだから隠さなきゃって、気づかれたらダメだって思ってたから……」


 まだ涙を瞳のはしに溜めながら上目使いで、伺うように見上げてくる璃子が可愛くて、愛おしさが込み上げてくる。

 足を怪我していなければいますぐ璃子を抱きしめたい衝動にかられるが、松葉杖ついたままでは両手が使えないし、右足だけで立つことも出来ない。

 少し残念な気持ちを押し込めて、俺は璃子にふわりと微笑みかける。


「うん、わかった。わかってるから」


 きっと、俺は無意識に恋を遠ざけながら、璃子の気持ちには気づいていたんだ。気づいているのに気づかないふりをして、璃子の優しさに甘えていた。


「ほんとに、俺でいいの?」


 情けなさすぎて、そう聞いてしまったのだけど。

 璃子は必死に首を縦に動かしてコクコクと頷く。


「拓斗じゃなきゃだめ。拓斗が好きなの……」


 言うと同時にまたポロポロと泣き出した璃子の頭を優しく撫でてやる。

 なんだか子供みたいにあどけない泣き顔を見て、言い知れぬ熱が体の奥から湧き上がってくる。

 可愛くてしかたない。

 璃子の笑顔が好きだけど、璃子の泣き顔も俺のものだとか思ってしまう俺は、欲張りだろうか。

 十一歳の俺は、こんなふうに誰かを愛おしいと想う時が来るなんて思いもしなかった。

 これもそれも、全部、璃子がずっと俺の側にいてくれたから。

 璃子に出会えて、俺はすごく幸せだ――



  ※



「璃子――」


 ぽろぽろと後から後から溢れてくる涙を流して、嗚咽をこぼして泣いていたら、ふいに拓斗に名前を呼ばれる。その声は、慈しみに満ちていて、優しくて心にしみる声だった。

 手の甲で涙をぬぐって拓斗を振り仰ぐと、ジャングルジムに腰かけている拓斗がまっすぐに私を見ていた。その瞳は何かを決意したように強くきらめいてて、思わず見とれてしまう。


「俺は璃子のことが好きだよ。俺じゃ璃子を幸せにしてあげられない、だから昔した約束だけは果たそうと思っていたけど、俺は結構欲張りみたいだ。璃子の笑顔も泣き顔ももちろん怒った顔も全部俺だけのものであってほしい。璃子が悩んでることは俺が相談にのって、璃子の苦しみを俺が半分引き受ける。親友でいいなんて強がり言ったけど、親友よりももっともっと近い場所にいたい。俺じゃ璃子を幸せにはしてあげられないかもしれない、でも、一緒に幸せを分かち合いたい」


 女の子なら誰もがうっとりするような魅惑的な眼差しでくいいるように見つめられて、私の心臓がどんどん速くなっていく。


「俺と付き合ってください」


 あまりに美しい瞳を向けられて、私は頷くことしかできなかった。



  ※



 翌日のリーグ戦最終日は、実家に泊まった私は拓斗と最寄駅で待ち合わせて一緒に会場に向かった。拓斗は怪我で最終戦はコートには立たなかったけど、みんなの頑張りで最後の試合も勝って優勝することができた。

 経済学部には編入せず薬学部を卒業することを拓斗がお祖父さんに伝えると、意外とすんなり許可が下りたらしい。

 お祖父さんの体調が診断よりも回復し後継者を急いで立てる必要がなくなったことと、どうやら、拓斗のたびたびの進言でお祖父さんも拓斗のお父さんとお母さんのことを反省したらしい。お祖父さんとの仲も上手くいっているようで安心した。

 私は背後でザァーザァーと水音のする駅前広場の噴水のふちに腰を掛けて足をぶらんと揺らす。

 あれから一年が経っていた。


「璃子っ」


 呼ばれた方に視線を向けると、スポーツバックを斜めに肩にかけて拓斗が走ってくるところだった。


「遅ーい」

「ごめん、練習が長引いちゃって」

「拓斗が映画見たいって言ったんじゃない、早くいかないと上映はじまっちゃうよ」


 ぜんぜん悪いと思っていなさそうなふにゅっとした笑みを浮かべた拓斗。だけど、私も責めるような口調でいいながら、拓斗の笑みにつられて笑ってしまう。

 立ち上がった私にすっと拓斗が左手を差し出して、私は躊躇わずにその手を握り、二人で映画館の入ってるショッピングモールに向かって歩き出す。


「練習どう?」

「みんな調子いいよ、今年入った一年が結構カンのいいやつがいてさ」


 拓斗はとても嬉しそうにバスケの話をする。

 去年のリーグ戦の後、拓斗は捻挫が治るまで絶対安静をとって、私も拓斗が無茶しないように見張って、後遺症など残らず完治した。三年生になって拓斗はキャプテンとなり、これから夏合宿、九月からはリーグ戦が控えている。


「来週には夏合宿が始まるから、もうすこし練習量増やすつもり」

「夏合宿かぁ、そういう時期だね」

「璃子は? アウトドア部も合宿あるでしょ?」

「あるよ、でも残念ながら今年は場所も日程も被っていないよ」


 そう言ったのに、拓斗はぜんぜん残念そうな顔をしていないから、不思議に思って首を傾げる。

 付き合い始めてから、私と拓斗は高校時代のように一緒にいる時間が増えた。三年では選択講義も増えて、半分くらいが一緒の講義なのにお昼と帰りはほぼ毎日一緒にいる。

 大学になってからが極端に顔を合わせなかったから、お互いが親友と言っていた頃に戻っただけにも見えるけど、実際はそうじゃない。


『好きってそんなに大事なこと?』


 って怪訝そうに首を傾げていた人と同一人物だとは思えないほど、拓斗は付き合い出してから甘い。

 もともと言動は甘かったけど、それ以上っていうか、べったりなんだよね。甘いセリフもさらって言っちゃうし、スキンシップが多いっていうか。

 一緒にいる時間を大事にしてくれてるっていうのは伝わってくるし、嫌ではないんだけど。

 あんまり人前でべたべたするのは困るっていうか。

 とにかく、あまあまな拓斗が合宿の日程がかぶってないって聞いてがっかりしないのが不思議だったんだけど。


「じゃあ、臨時マネージャーとしてついておいでよ」


 爽やかな笑みで当り前のように言い放った拓斗の言葉に唖然としてしまう。


「ええっと……」

「なに?」


 きょとんと首を傾げて私を見る拓斗が、あまりにも綺麗な笑みを浮かべてるから、喉まで出かかった言葉が引っ込んでしまう。

 うー……、まっ、いいか。

 一緒にいたいって思ってもらえることが幸せで、口元が緩んでしまいそうで、私はわざと一つ息を吐く。


「もう、仕方ないなぁ」


 そう言った私の声はとても弾んでいた。




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