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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
君の笑顔を守るため side…
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ブーゲンビリア:情熱



 合宿も無事に終わり、夏休みも終わって二学期。

 私はジャージ姿で体育館のモップがけを終えてふぅーっと一息ついた。

 合宿にマネージャーが一人しかいないという緊急事態で臨時マネージャーをやることになって、無事合宿も終えて、もう私の役目も終わりだと思ってたんだけど。

 バスケ部が貸し切ったバスでの帰り道、キャプテンにスカウトされてしまった。

 夏休みが明けて九月になるとリーグ戦が始まり、いろいろと忙しくなる時期だから、マネージャーとして助っ人にきてほしいとキャプテンに頼まれた。リーグ戦中だけでいいからって頭を下げられたら、無下に断ることもできない。

 アウトドア部の活動自体は月に一、二度だし、講義やバイトのない時間なら大丈夫だろうと引き受けた。

 バスケは好きだし、大学生の男子が目の前でバスケしてる姿は迫力があって、見てるだけで興奮する。

 それに、拓斗の側にいることができる。

 あの日――

 山小屋で一晩過ごした朝、私と拓斗はこの一年間のギクシャクしていたのが嘘か幻のように、とても自然に会話して、和やかな雰囲気のまま合宿所に帰った。

 宮ちゃんには泣いて抱きつかれてしまい、迷子になった宮ちゃんを探しに行ったはずが逆に心配かけてしまって、自分の後さき考えずに突っ走った行動にすごく反省した。

 キャプテンやほかのメンバーにもさんざん心配かけちゃったみたいだし。でも。

 私はその日の出来事を奇跡のように感じていた。

 だって、飛び出して、後を追ってきた拓斗と崖から落ちて、土砂降りで山小屋に避難して。寝付くまでずっとギスギスした空気だったのに、朝起きたら、不思議なくらい気持ちがすっきりしてて。拓斗も私がよく知ってる、見た人がうっとりしてしまうような甘やかな笑みを口元に浮かべて微笑んで。

 まだ、気持ちは伝えられていない。でも、以前のような関係に戻れて一安心というか。

 講義では相変わらず一緒になることはないから、せめて部活では顔を会せたいっていうか。

 つまりは、拓斗に会いたいからバスケ部の臨時マネージャーを引き受けたんです。はい、正直に言います。

 だって、好きな人には会いたいって思うじゃない。

 その日一日嫌なことがあっても、好きな人の顔を見ただけで帳消しになっちゃうくらい、気持ちがふわっと浮き上がる。

 まあ、マネージャーの経験もいちおうはあるし、バスケをしている拓斗をそばで見られて幸せだし。


「小鳥遊先輩、いいことでもあったんですかぁ~?」


 後ろから覗き込むように宮ちゃんがにこにこ笑顔で尋ねてくる。

 つい、にやにやしてしまっていたらしい。


「あはは」


 拓斗のこと考えてたなんて言えないし、笑ってごまかす。


「モップがけ、こんなもんかな。私達も着替えて帰りの準備しよっ」


 宮ちゃんに声をかけて部室棟に向かった。

 着替え終わって部室を出ると、部室棟の前にバスケ部員が待っていた。

 バスケ部は学年関係なくすごくみんな仲が良くて、練習後はこうやって待っててくれて一緒に帰る。部室棟前から校内を突っ切って校門まで行き、駅までの道をみんなで歩いていく。宮ちゃんと並んで歩いたり、話しかけられた人と話したり、拓斗とも話したりする。

 一人暮らし組は駅前広場で電車組と別れる。


「じゃーな、また明日」

「お疲れ様です」

「おー、おつかれ」

「明日な」


 口々に挨拶して、改札の中に入っていく部員を見送ってから、私は自転車組と別れてアパートに向かって歩き出そうとして、ふっと違和感を覚える。

 そういえば、なんか拓斗の歩き方変だったような……?

 首を傾げて、もう一度改札に視線を向けた時には、もうみんなの姿は見えなかった。

 明日からはいよいよリーグ戦が始まる。



  ※



 リーグ戦は九月最初の土曜日から試合が始まり、毎週土日に一日五試合行われる。選手として試合に参加するのは一日一試合なんだけど、約二ヵ月間毎週行われるのは結構ハードな気がする。

 会場は大学の体育館だったり、大きい体育館を所有していない大学や近くに市営の総合体育館がある場合はそこが会場となる。

 最初の試合会場は夏合宿で練習試合をした大学だった。初めて行く場所だけど最寄駅で部員は集合して、駅から大学までは会場校の学生が迎えにきてくれた。

 いずれうちの大学も会場になるからマネージャーの仕事もしつつ、リーグ戦についていろいろ勉強する。

 試合会場には、一部リーグの十校が集まっていた。

 試合までは体育館の側に用意された控室で待機し、規定時間どおりに試合が開始する。

 マネージャーと補欠メンバーや今回メンバーに選ばれなかった部員はコートの外によういされたパイプ椅子や床に座って応援した。

 うちの大学のバスケブ部は強いらしいってことは知っていたけど、本当に強いんだってことを実感。

 関東地区にある大学のリーグ戦は五部制で、うちの大学のバスケ部は一部リーグに所属してる。一部リーグには十校が所属してて、つまり、およそ百校あるバスケ部のうちのトップテンの中の一校ってこと。

 総当たり戦で試合を行って順位を決める。入れ替え戦もあって、例えば一部の中で十位の大学と二部で一位になった大学が試合をして、勝った方が一部に所属できる。もし一部十位の大学が勝てば一部残留、負ければ二部降格で、二部一位の大学が一部昇格ってことになる。昇格のチャンスは滅多につかめないし、降格すればそれこそ一部に復活するのはすごく大変らしい。

 んだけど、うちの大学は順調に勝ち進んで、先週の試合で一試合落としてしまったが、ついに最終土曜日を迎えた。

 今日と明日の二試合の結果で一部リーグの大会結果がすべて出そろう。

 いまのところ黒星一つでうちの大学が一位、第二位の大学は黒星三つで、うちの大学は残りの二試合を落とさなければ他大学の結果は関係なく優勝が確定する。

 それに今日の試合はその二位のところとだし、絶対に負けられないよね。

 みんなの気合もすごくて、攻め合う会場内の熱気に、ギャラリーも満員だった。

 そんなことを考えながら試合を見ていた私は、ふっと拓斗の姿にひきつけられ目で追った。

 なんか、様子がおかしい……?

 首を傾げる。

 まだ第二ピリオドなのに息が荒く肩で呼吸してるし、表情も苦しそうなのが気にかかった。

 相手コースへドリブルで攻め上がっていく拓斗の後姿を不安な気持ちで見つめる。

 拓斗からパスを受け取った七瀬君がうまくディフェンスをかわして投げたシュートが決まり、ピッとホイッスルの音が体育館に響く。

 七瀬君は近くにいたチームメイトとハイタッチして、すぐに再開した試合にボールを追って走りだしたけど、私の視線は拓斗からそらせない。

 相手ゴール近くにいる拓斗は、荒い呼吸を整えるように膝に手をついて腰をかがめて、走り出そうと左足を踏み出した瞬間、痛みをこらえるようにぎゅっと顔をこわばらせた。




※ バスケの知識はぜんぜんなく想像で書いているので間違っている部分もあると思います。バスケ知識のある方、ここはこうだよって指摘していただけるとありがたいです。


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