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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
君の笑顔を守るため side…
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サネカズラ:きっと、いつかは



 懐かしい夢を見た――

 小学校の頃、毎日のように遊んだ仲良しメンバーで、拓斗のアパートの前の空き地でかくれんぼをする夢。

 私と拓斗は同じ垣根の後ろで、肩が触れ合う距離に並んで隠れていた。鬼に見つからないように小さな声でおしゃべりして、鬼が近くに来たら小さく体を寄せ合って、鬼が気づかずに遠ざかって行ったら、顔を見合わせてくすりと笑い合った。

 安心するぬくもりに包まれたような温かい気持ちが胸に広がって、ふっと目が覚めた。

 視界に見えるのは、来たときは薄暗くてよく見えなかった板張りの床。埃がすごくて、ところどころ足跡やなんかがある。

 窓からは明かりがさしこんで室内を見渡せるくらい明るいが、日差しがさしこんでいるわけではないようだった。窓の外は朝霧に包まれて、白の世界だった。

 そこまで状況を確認して、あれ? っと首を傾げる。

 確か、私が寝たのは扉の近くだったからから、窓はこんな近くじゃなかったような……

 もぞっと真横でなにかが動いた気配に、見たくない気持ちを押し込めて、ゆっくりと視線を動かし、息を飲んだ。

 だって、隣で拓斗が寝ているんだもの――!

 ビックリしすぎて、一瞬、体の機能が全部止まってしまったような気がする。

 なんで!? どうして、拓斗が隣で寝てるの!?

 ってか、私は扉の側で寝てたはずなのに、なんで拓斗の隣に移動してるのぉ!?

 激しく混乱して、頭を抱えたら、ぱらっと体の上から毛布がずり落ちた。

 あっ……

 自分にかけられた毛布を見て、私は悟る。

 意固地になって毛布を拒絶した私。こんな状況で眠られるわけないとか思ってたのにいつの間にか寝ちゃってた。そんな私に拓斗が毛布を貸してくれたのだろう。なんで移動しているかは分からないけど、きっとなにかしら理由があるんだろう。

 そんなふうに思えてしまったことに、ちょっとビックリ。

 昨日の私だったら、きっと余計なことしてとか、拓斗の行動にいちいち過敏に反応してた。だけど今はそんな風に心が波立つことはない。

 あれ?

 首を傾げる。

 もしかして、眠くてイライラしてただけなのかな……?

 目覚めたらすっきりしてるのは確かで。

 でもきっと、懐かしい夢を見たからかもしれない。

 意地を張ってた自分が馬鹿みたいで。

 逆切れして毛布投げつけた私を気づかって毛布を掛けてくれた拓斗の優しさが心にしみる。

 私は拓斗と昔みたいに他愛無い話しで笑い合ったり、一緒に鬼ごっこした頃に戻りたいんだ。まあ、さすがにもう鬼ごっこは無理だけど。つまり、気心知れた仲っていうか、あれこれ悩む前に自然に接していた頃に戻りたい。


『逃げるなよ』


 そう言った翔の言葉を思い出す。


『面と向かって言葉にするのは怖いだろうけどさ、言葉にしないと理解できることも理解できないだろ? 怖がってこのまま逃げ続けるつもりかよ?

 お前、世良のこと大事にしすぎて、直接触れるのを怖がってるだろ? 触れて、痛みを感じてこそわかることもあるんじゃないか? 大事なら、なおさら。

 難しく考えるなよ。お前は頭いいから、無駄に変に考えすぎるんだよ。お前は世良が好き、ただ気持ちを伝えろ。その後のことは、その後考えればいいだろ』


 ぐだぐだ悩んでいた私に、前に進めって力強く背中を押してくれた翔。

 どんな結果になろうと怖がらずに自分の気持ちを伝えようって決意したじゃない――

 予想外の再会にビックリしたとか、まだ心の準備が出来てないとか、拓斗が私を避けてるとか、そんなの全部いいわけで。

 逃げないって決めたんだから。

 拓斗とちゃんと話そうって。

 ギクシャクしてるなら、そんな空気は私からぐにゃぐにゃに壊してしまおう。

 もぞっと、隣で寝ていた拓斗が寝返りを打ち、伏せられていた長い睫毛が揺れる。

 ゆっくりと開かれた漆黒の瞳が、しっかりと私をみとめて見上げてくる。

 その眼差しがまっすぐ私に注がれて、どんどん鼓動が早くなる。

 普通に、自然に「おはよう」って言おうって思ったのに、いざ、拓斗が目を覚ましたら、体が強張る。緊張に心臓が飛び出しそうなほどドキドキとうるさくて、言葉が喉に張り付いて出てこない。

 でも。

 私はいま持てるだけの勇気を振り絞って、微笑んだ。


「おはよう、拓斗」


 拓斗は一瞬、大きく目を見開いてから、ふっと花がほころぶように微笑んだ。

 寝ぼけまなこであどけないその微笑みは綺麗すぎて眩しかった。

 こんな笑顔を見たのはいつぶりだろうか……

 きっと、いつか……

 拓斗に気持ちをちゃんと伝えようと思う。まずは自然に挨拶できただけでも進歩だよね。




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