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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
君の笑顔を守るため side…
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トリトマ:あなたを想う



 俺が毛布を使わないなら小屋の外にいると言いだし、本当に出ていきそうな勢いの璃子を慌てて引き留めた。

 毛布が一枚しかないなら、俺が見つけたとかそんなの関係なく、璃子が使うべきなんだ。

 璃子が風邪でもひいたら――

 そう考えただけでやるせなくて、言葉は苦々しくなる。

 外に出てまで璃子が毛布を拒絶する理由が分からなくて。

 毛布じゃなくて俺自身を拒絶されているように感じて、俺は璃子から離れるように小屋の奥へと向かい、腰を下ろした。

 壁越しに先ほどよりは弱くなった雨音が聞こえる。室内は重い沈黙が広がり、胃がギシっと痛む。

 寝るしかないか……

 そう思って、立てていた膝に毛布を掛けるが、全く眠れそうにもなかった。

 薄闇の中、璃子の姿は見えないけど、部屋の隅からガサガサと寝返りを打つような音が聞こえる。

 璃子も眠れないのだろうか……

 璃子のことを考えた瞬間、胸の奥がきゅっと震えた。

 あんなきつい言い方をしなければよかった。璃子は傷ついたよな……

 すぐ近くで璃子が笑ってくれていた頃を思い出す。

 昔のようなに他愛無い話をする仲に戻りたい、そう思う反面、我が儘な俺を許してほしくないとも思う。

 俺を嫌いになって、俺から逃げてくれればいいと思う。

 でも、やっぱり、璃子に嫌われるのは嫌だなぁ……

 矛盾した気持ちに、自分に呆れてため息がもれる。

 ぐだぐだ考えていてもなにも解決しなくて、ただ時間だけが過ぎていく。

 いつの間にか、すぅーすぅーと規則正しい寝息が聞こえてきていた。璃子が眠ったことに安心するのに、手を伸ばせば触れられる空間にいるのがなんだか心臓に悪くて、いつもより時間の経つのが早く感じるのがありがたかった。

 外はすっかり雨が上がり、雲間から月明かりがこぼれて、室内はうっすらと明るくなった。

 だんだん薄闇になれてきた瞳を部屋の隅に向けると、璃子が膝を抱えるような恰好で床にまるまって寝ているのが見えた。

 俺は膝をついたまま四つん這いで璃子に近づいていく。

 近づいても璃子が起きる気配はなく、すやすやと心地よさそうに眠っている。

 璃子が寝ている位置は、鍵が壊れて立てつけも悪く、中途半端に閉まらない扉のほぼ前で、雨の後で冷えた夜風が隙間から舞い込んでくる。

 さすがに冷えるなと思ったら、くしゅんっと小さなくしゃみを璃子がして、体をぶるっと震わせた。

 毛布をとってきてかけようかとも思ったが、やめることにした。

 俺は璃子のすぐそばに膝をついて、璃子の両膝の裏と首の後ろに腕を差し入れ、そのままゆっくりと抱き上げ、自分が座っていた小屋の奥へと璃子を抱いたまま連れて行った。

 璃子がいた場所は扉からの隙間風が直接あたっていた。

 奥ならそんなに冷えないだろうと思って連れて行き、ゆっくりと床におろして毛布を掛けてやる。

 窓から差し込む月明かりに照らされた璃子の寝顔を見て、ふっと口元が緩む。

 閉ざされた瞼を縁どる睫毛は長く、雪のように白く透き通る肌、形のよいふっくらとした唇が艶っぽくて、思わず頬に手の甲で触れていた。

 寝顔があまりに綺麗で、たまらないほど惹かれる。

 俺は璃子の顔のすぐ横に片手をつき、覆いかぶさるように璃子の顔を覗き込む。

 息が触れるほどの距離に近づいた時、くしゅんっと再び璃子がくしゃみをしてもぞっと寝返りを打つ。

 俺は慌てて璃子から離れ、バクバク煩い心臓を抑えた。

 キスしたい衝動に駆られ、考えるよりも先に体が動いていた。

 こんな自分で自分の行動が制御できない出来事が起こったことに、くっと苦笑いがもれる。

 ありえない……

 俺ってこんな性格だったっけ?

 つい、キスしそうになるとか、なんなんだ。衝動的に体が動いたりしたこと今まであったかな……

 くしゃっと前髪をかきあげて、苦笑が消えない顔ではぁーっと大きなため息をついた。

 そんなの、理由は分かってる。

 璃子の事だから。

 璃子が好きだから――

 今まで俺は、誰も好きにならないし、誰の好きにも応えられないと思ってた。無意識に心にブレーキをかけて、恋とかそういう感情を遠ざけて鈍感になるようにした。

 父が母さんを捨てたと誤解してた時は理解できなかった気持ちが、今は切ないくらいに分かったしまった。気づいたらどんどん加速していく気持ちに、どうすることもできなくて困惑していた。

 俺と璃子は親友であって、恋愛対象外で、璃子には彼氏がいて、俺の気持ちは気づかれちゃいけなくて。酷い言葉で璃子を傷つけた自分が許せなくて、許してほしくなくて、でも本心は許してほしいと思ってる。

 わざと璃子を遠ざけるようなきつい言葉を言いながら、心は璃子に嫌われたくないと思っている。

 璃子に会えなくて寂しくて、会いたくて、声が聞きたくて。

 こんな気持ちは初めてで――

 厄介だな……

 でも、悪くないかもしれない。

 これがきっと人を好きになるって気持ちなんだ。

 自分でもどうしようもなくて、勝手に気持ちが加速していく。

 俺は、璃子が好きだ――

 傷つきたくないとか、傷つけたくないとか、頭でぐだぐだ考えるのはやめにしよう。

 璃子が目覚めたら、まず謝ろう。後継者お披露目パーティーの時のことと昨日のこと。許してもらえるまで謝って、その後のことは、その時に考えよう――




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