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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
君の笑顔を守るため side…
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ライラック:友情



 二泊三日の合宿を終えて帰っていくアウトドア部の人々を見送る余裕もなくむかえた、バスケ部合宿四日目。

 この日は、近くに合宿に来ている他大学のバスケ部との練習試合が組まれてて、朝から大忙しだった。

 試合場所がうちの大学の借りている体育館だったから、私と宮ちゃんの二人で普段のマネージャーの仕事をしつつ、控室の準備やなんかもやらなければならないから。まあ、レギュラーじゃない部員がパイプ椅子を運んでくれたり、対戦校のお迎えに行ってくれたりした。その間に私達はドリンク作りや応急セットの用意を済まし、ゼッケンとボールも準備した。

 慌ただしくあっという間に時間が過ぎ、試合も無事に終わり、私はほぅっと一息つきながら食堂の隅に置いたクーラーボックスの前に屈んで、中から冷えた缶チューハイを数本取り出して腕に抱える。

 試合は中盤、押された場面もあったけどうちのバスケ部が勝って、夕飯は練習試合お疲れ様会を兼ねた祝杯となっていた。

 もともとこの日の夜は飲み会になる予定だったらしく、いつもより練習を早めに切り上げて、買い出し班がお酒やおつまみを買いに行ってくれた。

 さっきまで自分の席に座って夕飯を食べていた部員達も、ほとんどが夕飯を食べ終え、席を移動してどんちゃん騒ぎになっていた。

 テーブルの上に出していたお酒がなくなっているのに気づいて補充しようとクーラーボックスのとこまで来たとこ。

 ほとんどの部員が酔って顔を赤くして上機嫌で談笑してる。

 私はいちおうまだ未成年だから今日はお酒は飲まずにソフトドリンクにしている。実際は二十歳になってなくても飲んでる子もいるんだけど、私はまだ飲んだことはない。素面だから、騒いでるみんなを客観的に見る形になってなんだか蚊帳の外みたいで寂しいけど、私までお酒を飲んだらお酒を飲めない宮ちゃんに悪い気がして。酔ったら、マネージャーとしての仕事もできなくなっちゃうもんね。

 部員のみんなは今日は試合で頑張ってたから、お酒飲んでちょっとくらいなら羽目を外して、酔いつぶれてしまってもいいと思うけど、マネージャーはそうはいかないでしょ。

 後片付けだってしまいといけないし、酔いつぶれた部員をどうにかしないといけないし。さすがに、食堂にそのまま寝かせとくわけにもいかないし。

 そんなことを考えながらも、お酒がなくなっているテーブルにお酒を補充し、空のグラスを見つけてはお酌をして回る。

 うん、まあ、明日はいちおう、練習はお休みってことになってるし。

 リーグ戦を控えているとはいっても、合宿中ずっと練習じゃ息も詰まっちゃうものね。


「七瀬君、グラス空だよ~、なにか入れようか?」

「小鳥遊さん」


 同じ二年の子と話していた七瀬君に声をかける。

 振り返った七瀬君はいつもの涼やかな表情で、浅く微笑んだ。

 おおっ、ほとんどが出来上がってる中で、七瀬君は酔ってない?

 酔ってる七瀬君って想像できなかったけど、やっぱお酒強いのかな~?

 まあ、他の部員も真っ赤になってる人は多いけど、そこまで酔ってる感じもしないかな。


「じゃあ、それちょうだい」


 七瀬君は私が手に持っていた缶チューハイを指す。


「これでいいの? 日本酒もあるよ?」


 強いお酒がご所望かと思って尋ねてみれば、なぜだか苦笑されてしまった。

 私はプルタブに指をひっかけて缶チューハイを開け、七瀬君のグラスに注いだ。


「小鳥遊さんも飲む?」

「あー、じゃ、お茶で」


 七瀬君は頷き、テーブルの中央に置いてある使ってないグラスとお茶の二リットルペットボトルを引き寄せた。


「お疲れ様」

「お疲れさま~」


 お茶の注がれたグラスを受け取り、乾杯のような仕草をして、お茶を一口ふくむ。


「お酌して回ったりしなくていいんだよ、小鳥遊さんは。ゆっくり夕飯食べれた?」

「大丈夫だよ、飲まないかわりにいっぱい食べちゃったから、お腹ぱんぱんだよ」

「そういえば、宮さんは?」


 思い出したように辺りを見回して首を傾げる七瀬君につられて、私も食堂の中を見回す。


「ほんとだ、いない……」


 言いながら、私はふっとあることを思い出す。

 少し前、クーラーボックスの前でお酒の残りを確認していた私のとこに宮ちゃんが来て。


「お酒足りないですか?」

「うーん、どうだろう。様子見て買い足した方がいいかな」

「じゃ、私、買い足しに行ってきますよ」


 一人じゃ危ないよ、それに重いし。一年生に声かけて一緒に行こう。そう言おうとした時。


「小鳥遊さーん、こっちにお酒持ってきて~」


 三年生に呼ばれて、私は慌ててお酒をもってテーブルに向かった。それから、他のテーブルでもお酌したり、お酒の補充したりして、すっかり宮ちゃんのことを忘れていた。

 さぁーっと、背中に冷たい汗が浮かんでくる。

 もしかして、宮ちゃん、一人で行っちゃったの……?

 コンビニまでは十分弱。いちおう街灯はあるけど、ほぼ真っ暗な山道。

 どうしよう……っ

 焦って、おろおろしていたら。


「おー、アイス買ってきたぞ~」


 少し酔った口調で三年生の先輩が二人、コンビニ袋を片手に食堂に入ってきたから、私は先輩に駆け寄った。


「あのっ、宮ちゃんは一緒ですか?」

「宮?」

「いや、一緒じゃないよな?」


 お互いに顔を見合わせて首を傾げる先輩をそのままに、私は踵を返して自分の席に駆け戻る。

 私の席の隣は宮ちゃんの席で、そこにはピンクの携帯が置きっぱなしになっていた。


「おい、どうしたんだ?」


 私の焦った様子に、キャプテンが心配した口調で話しかけてきた。


「宮ちゃんがいないんです……、お酒が足りないって話した後からいないので、たぶんコンビニに一人で行ってしまったんだと思います……」


 歯切れ悪く言う私に、キャプテンと副キャプテンが顔を見合わせて一言二言なにか相談する。


「それって、どのくらい前?」

「たぶん三十分くらい前からです」


 確信はないけど、たぶんそのくらい前だと思う。


「お前ら、コンビニ行ってたんだよな? 途中で宮と会わなかったか?」


 コンビニにアイスを買いに行っていた先輩はキャプテンに尋ねられて、困ったように顔をしかめる。


「いや、俺らけっこうだべりながらゆっくり歩いてたけど、宮には会わなかったよ」


 その言葉を聞いた瞬間、私は駆け出していた。




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