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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
君の笑顔を守るため side…
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ストロベリーキャンドル:胸に灯をともす



 ガイダンスの日、寝坊して大学についたのは始業ギリギリだった。っていっても、俺にしてみればギリギリじゃないことの方がめずらしいんだが。

 高校から何人か友人も同じ学科に進学していたが、探すのもめんどくさくて、空いてる席に座る。ってか、空いてる席は前しかない……

 俺はしかたなく、中央の女子が一人で座ってる席から一つあけて隣に座った。

 前方の席はかなりガラガラで、その子以外はヤローばかり。

 男の隣に座るよりは女子の隣のがいいと思うのは男として当然だろ?

 俺は席に荷物を置いて上着を脱ぐ。その間、配られるプリントを女子が俺の分を二人の間の席に控えめに置いていく。

 気づかいが出来る子なんだな、それでいてでしゃばりでもない――それが第一印象だった。

 やっと落ち着いて席に座りなおして、筆箱を出そうと鞄を探るが見つからない。教授達がすでにきているのに、いまさら後ろの方に座っている友人を探して席を移動するのは無理だし、だからといって筆記用具なしでガイダンスを聞くのは無謀ったもんだろう?

 俺は小さくため息をついてから、最終手段にでる。


「なあ……」


 俺は右隣の女子の肩をとんとんっと叩いて、小声で話しかける。


「筆箱忘れたからなんか書くもん貸してくれない?」

「あ、うん……」


 俺を見た女子は少し驚いた顔をしていたが、すぐに自分の筆箱を出してシャーペンを貸してくれた。


「はい、これ使っていいよ。消しゴムとか使いたかったら、ここにペンケース置くから使っていいからね」


 そう言って女子は筆箱を間の席に置いた。


「サンキュ、あんたイイ人だな」


 シャーペンを貸してくれただけでなく、消しゴムも使っていいと快く言う彼女を、単純にいい子だと思った。

 俺が笑うと、彼女も笑い返してくれた。


「どういたしまして」


 そう言って前を向いてしまったが、その笑顔が俺の脳裏から離れない。

 くりっとした奥二重の瞳と小振りの鼻と唇が可愛い。頭上で結わかれたポニーテールがよく似合っている。

 まあ、可愛い女子がいたらチェックするのは男として当然のことだろう?

 ガイダンスは教授の紹介から始まり、今後の日程や授業のとり方、オリエンテーションについてなど時間いっぱい使って話されて、チャイムが鳴り終わった頃にやっと教授が終わりを告げた。

 俺はそれを合図に、立ちあがりながら荷物を一気に鞄に突っ込み、講義室の後方を目指した。

 ガイダンス中に友人から一番後ろに座ってるというメールが来て。俺は友人達と合流するために一目散に後方を目指した。

 だから、家に帰ってきてから気がついたんだ。

 借りていたシャーペンをそのまま持ってきていたことに。



  ※



 翌日。この日もお決まりのようにチャイムギリギリで講義室に飛び込んだ。

 素早く黒板に張られた座席票を確認して、中央後方の席に座る。その時、昨日シャーペンを貸してくれた彼女が近くの席に座っているのを見つけて、なぜだか胸がはずんだ。

 ぼぉーっと見とれて、席に向かう足が止まっていることに気づいて、慌てて席につく。

 人目をひく美人ってわけでは決してない。だけど、俺の胸にぐっとくる。

 気になる――その一言につきる。

 試験監督の教授が来て試験が始まり、俺はとりあえず目の前の試験に集中する。クラス分けとか別にどうでもいいし、ガツガツ勉強するなんて俺のスタイルじゃない。

 まあ、分かるものは分かる。分からないものは分からないってことで。

 試験が終われば、すぐに荷物をまとめてポニーテールの彼女に声をかけようと思ったが、友人に話しかけられてタイミングを逃す。

 適当に相づちしながら、ちらちらと視線だけを教室の前方に向けて彼女を視界にとらえる。彼女は隣と前に座る女子と話しててまだ教室にいたが、荷物を片づけはじめたのを見て、こっちも話を切り上げて席を立つ。


「……あっでも、食堂で高校の友達と待ち合わせてるんだ。食堂寄ってから体育館に行くから、先に行ってて」


 階段を下りていくと、彼女の声が聞こえる。


「わかった」

「璃子ちゃん、後でね」


 友達らしき女子が手を振って階段状になっている通路を先に歩き出す。

 俺はゆっくりと彼女の背中に近づき、水色のシフォンブラウスを着た肩を叩く。

 瞬間、振り返った彼女は大きな栗色の瞳を見開き、俺を見上げた。


「あ……っ」


 やっぱり、くるな――

 特別可愛いわけでもないのに、まっすぐに見上げてくる色素の薄い瞳に吸い込まれそうになる。

 ドキドキと胸が高鳴って、それを誤魔化すようにわずかに目を細めて彼女を見て、それからシャーペンを持っていた手を差し出す。


「シャーペン、昨日返し忘れてたから」


 ぎこちない言い方になってしまったが、彼女が手のひらを広げたからその上にシャーペンを乗せてやる。

 瞬間、ぎゅっと大事そうにそれを胸元で握りしめて、彼女が切なくも甘い笑顔を浮かべたから。

 その笑顔が心をついて、つい(・・)手が動いていた。

 彼女の小さな肩を掴みよせ、振り仰いだ彼女の唇の上に唇を重ねていた。




8話と9話の翔視点です。

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