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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
君の笑顔を守るため side…
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ラベンダー:あなたを待っています



 いつもよりも少し早くバイトを上がって、駅に向かって街灯に照らされた道を歩いていた。

 今日は翔のバイト終了の時間の方が遅くて、翔のお迎えはなし。

 シフト合わせるのも大変だし、いつも迎えにきてもらって申し訳ないと思っていたから、今日は翔のバイトが終わるのを私が待つことになっている。

 見かけによらず心配性の翔は、夜に外で待たせるのは心配だからって、遅くまでやってるカフェで待ち合わせることにした。

 私のバイト先は大学の最寄駅の高架下にあるラーメン店。翔のバイト先は大学の最寄駅がある路線とは違った路線の駅前にある居酒屋なんだけど、二つの路線は並行して走っていて、大学の最寄駅と翔のバイト先の駅とは直線距離ではわりと近い。私と翔が一人暮らししているアパートもこの二つの沿線の間に位置してる。

 ただ、移動がちょっと不便。電車だと、距離的には一駅分なのに、乗換をして約四駅分を電車に揺られないといけない。バスはあるにはあるけど、これまた本数が少なくて不便。

 普段、徒歩で大学とアパートを行き来している私は、翔のバイト先まで電車で移動するしかなくて、仕方なく、駅の改札に向かって歩いてたんだけど。

 薄暗い駅前広場を危なげな足取りで歩く後ろ姿に目をとめる。

 拓斗……、どうしてこんなとこに……?

 私は辺りをきょろきょろと見回す。

 部活とかバイトならだれか友達が一緒にいそうなのに、拓斗の周りには人影もなくて、おまけに拓斗の足取りがふらついているから、慌てて駆け寄った。


「拓斗……?」


 ぱたぱたと足音を響かせて、千鳥足の拓斗の後姿に声をかける。

 私は早足で拓斗の前に回り込み、顔を覗き込む。

 街灯に照らされた拓斗の頬は上気していて、ふわっと強いお酒の香りが鼻を刺激した。


「お酒、飲んでたの……?」


 私の問いかけには答えず、まっすぐに前を見据えた拓斗の瞳は、ふらついた足取りとは対照的に凛としていて、その瞳の底に思いつめた光をきらめかせた。

 ただならない拓斗の様子に、私は焦って声をかける。


「ねえ、一人なの? 園城君は? 七瀬君は一緒じゃないの?」


 その問いかけに、それまで私を見ようともしなかった拓斗が視線を動かして私を見ると、ふっと微笑を浮かべた。その笑みは痛いくらい切なげで、瞳には皮肉気で自嘲気味な影があって、私の胸をついた。

 どうしてそんな顔するの……?

 言葉が喉にはりついて出てこない。

 投げやりな笑みにズキズキと胸が痛む。

 心配だけど、こんな拓斗は初めてでどう接したらいいかわからなくて、拓斗の横を歩く私の足は止まってしまう。

 拓斗――……

 声にならない声で、拓斗の名前を呼ぶ。


『璃子に頼んだ俺が間違いだった――』


 吐き捨てるような掠れた声で言った拓斗の言葉がよみがえる。

 その時の、鋭いナイフを突きつけられたような胸の痛みがよみがえって、涙が溢れそうになる。

 私になんか話しかけられるのも嫌かもしれないけど、こんな状態の拓斗をほうっておくなんてできない。

 私はぎゅっと強く目をつぶると、数歩先をおぼつかない足取りで歩く拓斗に駆け寄った。


「拓斗、だれも一緒にいないなら、家まで送るから」


 拓斗はちらっと視線を投げかけただけで、なにも言わなかった。

 私はそれを承諾だといい方にとらえることにして、拓斗を家まで送っていった。

 時々、盗み見るようにみた拓斗の横顔には濃い影が落ちていて、黒い瞳を切なげな色に染めていた。



  ※



 ちらっと店内の壁掛け時計に視線が向く。

 いつもなら璃子を迎えに行っている時間だけど、今日はこの時間帯に入っているヤツが急用でシフト代わってくれ言うから、仕方なく交代した。

 俺がバイト後に迎えに行くことに対して、璃子は一人でも平気っていうけど、好きな女に暗い夜道を一人で帰らせるようなこと、男としてできるかっていんだ。

 迎えに行けなくなったと伝えたら、璃子はふわりと薫るような甘い微笑みを浮かべて。


「今日は私が翔のバイトが終わるのを待ってるよ」


 と言い出した。

 バイトが終わるのは深夜零時で、そんな時間まで待たせるわけにはいかないと思ったけど、俺のバイト先の居酒屋の隣のビルに、深夜過ぎまでやってるカフェがあることを思い出した。そこなら駅ともコンコースでつながっていて人通りも多いし、待っててもらうには最適の場所だ。


「じゃ、隣のビルのカフェが遅くまでやってるから、そこで待ってて。絶対、店の中にいろよ」


 くぎをさした俺に、璃子は薄茶の瞳を細めて苦笑していた。

 もうこっちに向かって電車に乗ってる頃か――

 璃子に想いをはせて、俺は頭の中をバイトに切り替えた。




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