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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
君の笑顔を守るため side…
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シュウカイドウ:片思い



「――それでね、啓子ちゃん先輩がもってきたポテトチップスをみんなで食べようってなった時に乾先輩が割り箸を取り出すから何かなって思ったら、お箸でポテトチップスを食べ始めるからビックリしちゃった! TVとかでそういう人がいるっていうのは知ってたけど、実際に周りにはいなかったから」


 俺の隣を歩きながら、楽しそうにサークルでの出来事を話す璃子を横目に見やる。

 いつもふわふわの笑顔の璃子。

 高い位置で結わかれたポニーテールが活発な印象で、人目をひく美人ってわけではないけど、屈託なくくるくる変わる表情が俺の胸にぐっとくる。

 一目惚れだった。

 気づいたらキスしてて、璃子に彼氏がいるって言われても簡単にあきらめようなんて思わないほど強く惹かれてて。

 璃子が世良に惹かれながら、誰にも、友達にすら気づかれないように必死にそれを隠しているのに気づいて、俺は璃子を開放してやりたいって思った。

 それが俺の独りよがりでエゴかもしれなくても、璃子が胸がちぎれそうなほど辛そうな顔してるのが痛くて、見てられなくて。

 いま、隣で笑顔で歩いている璃子の表情に、切なげな表情がちらついて、胸がやりきれないほど苦しくなって、ぎゅっと奥歯を噛みしめた。



  ※



「最近、拓斗君と一緒にいるとこ見かけないねぇー」


 学部が違くてなかなか会わない夏帆との週一度のランチで、食堂の長テーブルに向かい合わせで座っている夏帆が、唐突にそんなことをぼんやりと呟いた。


「そーう? あー、二年になってから講義のクラス分けが分かれてあまり同じ講義がないから」


 ランチをぱくぱく口に運びながら、私もどこか上の空で返事する。


「クラス分けなんてあるんだ?」

「うん、学番でね。拓斗とは学番近くだけどちょうど間で区切られたから」

「ふ~ん、そうなんだ~」


 私も夏帆もランチを食べる手を止めずに会話をし、二人の視線を食堂の奥の方に向けられていた。

 そこには、大勢の女子に囲まれた拓斗と拓斗の男友達たちがいた。


「相変わらず、すごい人気ねぇ~」


 呆れたように吐息まじりにつぶやいた夏帆に、苦笑するしかない。


「まあ、高校の時に比べたらそうでもないと思うよ?」


 そうなんだ、高校の時は拓斗のファンクラブなんてあって、一緒に登校したりするとすごい目で睨まれたっけなぁ……

 ちょっと遠い目をして、昔を思い出す。

 まあ、今となってはほんと、過去の事だけど。

 大学入学当初こそ、とくにオリエンテーションで拓斗と翔の二人にやたら話しかけられて、女子にすごい視線で睨まれたりもしたけど、大学は高校とは違って一日ずっと同じ教室同じメンバーで講義を受けるわけじゃないから、必然的に私と拓斗も一緒にいる時間が少なくなるし、よって拓斗の取り巻き達とも一緒にいる時間が減るというわけで。

 それでも高校までは、お互いに親友宣言してたから、睨まれる程度で、実害はほとんどなかったけど。

 大学では、親友宣言すら必要ないってカンジ?


「そうかもしれないけど……」


 さっきまでのどうでもよさそうな口調から、少し歯切れ悪く言った夏帆は、拓斗に向けていた視線を私へと向けると、手に持っていた箸をぱちんとトレーに置いた。


「それで璃子は平気なの――?」

「ん? なにが?」


 私は夏帆の質問に、間髪入れず、完璧なえ笑顔で首を傾げて答えた。

 夏帆は不服そうに眉根に皺を刻んで、瞳に剣呑さを含む。


「ねー、何度もしつこいかもしれないけど、璃子は本当は拓斗君のことを好きなんじゃないの?」


 真剣さを帯びた瞳でまっすぐに見据えてくる夏帆。

 私は顔中の筋肉に命令して、表情をぴくりとも動かさないようにする。

 絶対に、気づかれちゃいけない――


「まさか、拓斗と私の間に恋愛感情なんてないんだよ? ただの親友だって」

「でも、去年のいまくらいかな? すごく一緒にいる時期があったじゃない? 私はてっきり二人はようやく付き合い出したんだと思ってたのに」


 夏帆の言葉に、去年の今頃を思い返して、夏帆が言っていた一緒にいることが多かった理由を思い出す。

 ああ、拓斗の偽の婚約者をお願いされて、パーティーまでにいろいろ情報を摺合せしてたから。


「あれはー、ちょっとした事情があって。ぜーんぜん、付き合ってなんかいないから。だって私と拓斗は親友だよ、恋愛対象外! 付き合うとかありえないから」


 息継ぎもしないで一息に言い切った私に夏帆は不満そう。


「璃子、決まってそう答えるけど、私には無理しているように見える……」


 その言葉が、胸にささる。


「ほんとうに、違うよ……」


 きっと、そう言った時の私は泣きそうに情けない顔だったに違いない。

 夏帆が困ったように眉尻を下げて、私の頭をぽんっと撫でた。


「璃子がそういうなら分かったけど、なにかあったら、相談くらいは乗るからね?」


 優しい声、頭に触れる手が温かくて、瞳から涙が溢れてきそうで、それを誤魔化すために俯いて、私は手の甲で涙をごしごしとぬぐった。




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