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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
この涙は誰のもの? side璃子
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ユズ:恋のため息



 一人暮らしをしてから大学の近くでバイトも始めて、だいぶこの生活リズムにも慣れてきた。実家の時に比べて通学時間が大幅に減ったのはなによりも楽になった部分だった。

 講義では少しずつ課題が出されるが、分からないところがあればアウトドア部の先輩が教えてくれるし、部室には卒業生や先輩の課題のコピーや実験ノートなんかがたくさん置いてあるから、それを参考にするだけでもかなり課題がはかどった。

 蕨先輩とは……

 告白を断ってからも普通に先輩後輩として接してる。蕨さんが普通にしててくれるから、私もあのことはなかったことにして普通に接することができた。

 それに、バイト先も蕨先輩や乾先輩がいるラーメン屋さんに決まった。乾先輩はバイトだけどほとんど店長みたいな仕事をしてて、先輩の口利きで履歴書だけ出して面接なしで雇ってもらえた。

 他のバイトの仲間も学生がほとんどで、学校の延長みたいな和気あいあいとした雰囲気でバイトにもすっかり慣れた。

 料理はもともと好きだったし、洗濯や掃除も慣れてしまえば楽だった。

 お父さんとは長期休みのときは実家に帰るって約束だったけど、月に一度は休みの日に帰っているし、お母さんも時々様子見に来てくれるから、そんなに離れてるって気はしないし。

 課題が多い日は綾や琴羽が泊まりに来たり、グループ課題の時は自動的に大学の近くで一人暮らししている人の家に集まることが多かったから、あまり寂しくはなかった。

 でも。一つだけ。

 拓斗とほとんど顔を会せない日々が続くのは、すごく寂しかった――

 小学校入学以来、十二年間同じクラス隣の席になり続けて、家も近所で、二日以上顔を会せない日なんてほとんどなかったから、環境の変化に戸惑っているだけなんだって自分に言い聞かせてみるけど、本心はもう誤魔化せそうもない。

 私は拓斗が好き。

 数日会えないだけど寂しくて、顔を見られないだけで恋しくて、声を聞けないだけで切なくて。

 離れてみてやっと気づいた、自分の気持ち。

 親友だって言い聞かせて、拓斗への恋心を閉じ込めてきた。他の人に恋しようって頑張ってみたりもした。

 でも、拓斗じゃなきゃダメなんだって気づいてしまった。

 拓斗に隣にいてほしい。

 話すでもなく、お互いに視線が交わらなくても、その存在を感じれる距離にいたい。

 まあ、いまだって、同じ講義室内にはいるのかもしれないけど……

 高校の時とは違って広すぎて、人が多すぎて、拓斗の存在が遠いのが寂しい。

 自分から突き放したのに、拓斗と前みたいに話したいと思う。

 それなのに、あの日以来。オリエンテーションの以来、拓斗とはまともに顔も合わせていないし、会話らしい会話もしていない。私が一人暮らしを始めたのもあって、通学路で偶然会うこともなくなってしまった。

 今までだったらちょっとギクシャクしても、次の日には拓斗が何事もなかったような無邪気な笑顔で話しかけてくれるから、すぐいつも通りの関係に戻れたのに。

 隣の席じゃなくなっただけで、拓斗と話すこともなくなってしまった。

 もう自分の気持ちを誤魔化せないって気づいたのに、これからどうすればいいのか分からなくて、ため息がこぼれた。



  ※



 六月の初め頃、ちょうど課題が重なってばたばたしていて、お母さんに連絡を取らないでいたらお母さんから安否確認のメールが届いた。


『璃子、最近連絡ないけど、元気にやってますか? ごはんは食べてる? 忙しいとは思うけど、元気なら返信だけしてね』


 最後に可愛い絵文字がついたメールに、私は課題の手を止めて携帯を両手で持って操作する。


『ごめんー、課題がたくさん出てて……。ちゃんとご飯食べてるから安心して。お母さんはとお父さんは変わりない?』


 送信から間をおかずに、すぐに着信音が鳴る。


『それなら安心。お母さん達は元気だけど、拓斗君のお家が火事にあってね、今、うちにいるのよ』


 メールを読んだ瞬間、背筋にゾワリと鳥肌が立つ。

 拓斗の家が火事――!?

 私はもう十時過ぎだっていうのも気にしないで、すぐにお母さんの携帯に電話かけた。


「もしもし、お母さん!? 拓斗の家が火事ってどういうこと!?」

『そうよ~。一昨日の金曜日にアパートの一階が火事になって、拓斗君家は直接被害はないけどアパートは建て替えることになって、引っ越し先が決まるまでうちに来てもらってるの』


 そんなこと聞いてない――

 って言っても、拓斗とはそんなにメールしないし。大学に入ってからは余計にメールしてない。

 だから拓斗の身に振りかかった災難を自分が知らないことへの腹立たしさと、拓斗の身を案じる心がごちゃまぜになる。


『璃子? 聞いてる?』

「うっ、うん……」

『しばらくは拓斗君も大変だと思うから、璃子がなにかと気にかけてあげなさいね』


 私の心配なんていらないだろうけど……


「はーい……」


 通話を終えてから、手に持った携帯を見つめて深いため息をついた。




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