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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
八年間の片思い side璃子
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キブシ:出会い



 大学二日目は学科ガイダンス。

 なのに、寝坊ってどういうことぉ……!?

 私、朝は強いし、寝坊なんて一年に一度あるかないかってカンジなのに、よりによって今日だなんて……

 ベッドから飛び起きて、とにかく急いで支度する。クローゼットを開けて適当に選んだ服を着て、一階の洗面台に行って顔を洗ってハブラシして髪の毛をとかす。この癖っ毛、ほんと毎朝絡まってとかすのが一苦労なんだよぉ……

 なんとか寝ぐせ直しスプレーで髪のからまりをといて、高めの位置で黒ゴムでポニーテールに結わき、白地に黒のドット柄のシュシュを仕上げにつける。

 私が歩くのに合わせて、毛先がくるんっとはねて肩のあたりで揺れる。

 そのままリビングに顔を出して、寝坊したから朝食は食べないで学校に行くことをお母さんに告げて、玄関を出た。

 さすがに今日は拓斗も家の前で待ち伏せはしてなくて――ってか、この時間じゃもういないよね。

 私は内心がっかりしながら、ぐっと顔をあげて気合いを入れて駅に向かって自転車を漕ぎ始めた。

 急いで支度したから、ギリギリ遅刻は免れるかな……

 そんなことを考えながら、いまさら慌ててもしょうがないからかなり落ち着いて電車に乗って学校に向かう。

 駅を出て学校に向かう歩道にはちらほら学生らしき人が歩いていて、その群れに交じって校門をくぐって大学の敷地に入る。

 ガイダンスが行われる講義室の後ろの扉から中に入ると、集合時間の十分前をきっているのもあって、席はほとんどが埋まっていた。同じ高校からうちの大学に進学した人は何人かいるけど、同じ薬学科に進んだ人の中で仲良い人はいないんだよね。夏帆は大学は同じでも学部も学科も違うし。

 これから六年間を過ごすこの中で、新しい友達を作っていかなきゃいけないんだ。

 こういう時、知り合いがいたら席を取っててくれて合流してあまり心細い思いはしないんだろうなぁ。

 そんなことを考えながら階段状になっている左の通路を進んで黒板のある講義室の前へと歩いて行く。

 途中、右側の通路の奥、窓側の席にいる拓斗と目があったけど、無視っ!

 だって今日も拓斗と一緒なんてありえない。どうせなら、女の子と仲良くしたいし、頑張って話しかけてみよう!

 そう決意したんだけど、空いてる席ってなかなかない。だいたいみんな前の方の席を避けるから、往々にして前方はガラガラで。

 そんでもって、こういう前の方に座ってるのってやるき満々なガリ勉タイプで、女子っていないんだなぁ……

 お友達作ろう計画が、寝坊のせいで出鼻くじいちゃったよ。

 講義室の前方にはすでに教授――というより院生かな――の男性が配布物の準備をしたり、スライドの準備をしていた。

 私は諦めて、前方の席に座る。スライドなら一番前は見にくそうだったから、誰も座っていない前から三列目の真ん中の席に座った。

 チャイムが鳴り、前方の扉からぞろぞろと教授が入ってくる。ほとんどは厳ついオジサンだけど、中には若めの男性と女性の教授もいた。

 院生がプリントを配り始めた時、ガタッと隣で音がして横を見ると、がっちりとした体格の短髪の男子が私と一つ空けた隣の席に座った。

 こんなにガラガラなんだから――まあ、前方限定だけど――、一つといわずもっと空けて座ればいいのに。

 そんなことを考えながら、次々に配られるプリントを自分の分と隣の男子の分を取って後ろに回していく。

 だって、隣の男子は上着脱いだりガサガサと荷物をあさってるから、彼の分も取って間の空いてる席に置く。

 私は配られるプリントに目を通しながら、前から渡されるプリントを受け取って後ろに渡していたんだけど、とんとんって肩を叩かれて横を向くと、隣の男子がこっちを見ていた。


「なあ、筆箱忘れたからなんか書くもん貸してくれない?」

「あ、うん……」


 突然話かけられてビックリしたけど、ガイダンスで筆記用具なしって辛いよね。

 私は鞄の中から布地で出来た袋型のペンケースを取り出して、チャックを開けてシャーペンを出す。

 ペンケースの中には三色ボールペンとカラーペン数本、それからシャーペンが二本。

 一本は持ち手の部分が透明で星柄が描かれている。もう一本は細身のシャーペン。貸すならこっちだけど……

 ちらっと横を見てがっちりした体格の男子を確認して、星柄のシャーペンを隣に差し出した。


「はい、これ使っていいよ。消しゴムとか使いたかったら、ここにペンケース置くから使っていいからね」


 そう言って、私は細身のシャーペンを抜いたペンケースを二人の間の席に置く。


「サンキュ、あんたイイ人だな」


 にかっと白い歯を見せて男子は笑う。その笑顔は男らしくて、精悍な彼らしく思えた。


「どういたしまして」


 まあ、これから六年間同じ学科で学ぶ人なんだし、仲良くしてて悪いことはないよね。

 そんなふうに考えたのは間違いだっと気づくのは、翌日――……




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