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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
かけがえのない存在 side拓斗
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ホオズキ:偽り



「そんなの……拓斗には関係ないでしょ。もう子供じゃないんだし、いつまでもベタベタ一緒にいたくないの。だからこれからは、同じ学科だからってあまり話しかけてこないで」


 拒絶するような冷たい口調で言った璃子の背中を、俺は瞳を切なく揺らして見つめることしか出来ない。

 璃子が“俺には関係ない”というのなら、俺に引き止める理由はない。

 璃子が東海林と一緒にいようと、誰と付き合おうと――俺には関係ないんだ。

 まるで自分に言い聞かすように、心の中で何度もそのことを考えていた俺は、女の子の声にはっとする。


「世良君はなに味にする?」


 璃子に断られた俺は何事もなかったようにソフトクリームを食べようと誘ってくれた女の子と友人の男数人と、バーベギュー場から十分ほど山を登ったところにある売店に来ていた。

 声のした方に視線を向け、売店のメニュー表を見る。そこには、牛乳ソフト、チョコソフト、いちごソフトのメニューが書かれている。

 バニラじゃなくて牛乳ってとこに惹かれるけど、季節限定あまおういちごソフトってのも気になるなぁ……

 こういう時、璃子がいれば一個ずつ買って両方味見できたけど――

 そんなことを考えてしまった自分に苦笑する。

 んー、これじゃ璃子に「いつまでもベタベタ」って言われても仕方ないかって苦笑がもれる。

 ここは無難に牛乳かな……

 考え込んでようやくどれを買うか決めた頃には、周りはすでに買い終わり、俺が最後だった。


「世良、まだ迷ってるのかよ」


 学番が前後で大学入って知り合った園城(そのしろ)に呆れた口調で言われ、俺は苦笑いを浮かべてレジへ向かう。

 甘いものは好きだけど一人で二つは食べられないし、結局、牛乳ソフトを買う。

 女の子達は売店の前の椅子や花壇のベンチに座ったりして美味しそうに食べている。俺もその側に立って牛乳ソフトを食べていたんだが、ふっと動かした視線の先に東海林と璃子がいるのを見て胸が苦しくなる。

 やっぱり、一緒なんだな……

 そんなことを思ってしまった自分にため息をついて、話しかけてきた女の子の方を向く。

 璃子達は俺達がいる売店よりも少し離れていて、二人の会話は聞こえなかったけど、やっぱり璃子のことが気になってもう一度だけ視線を向けた時、確かに璃子と視線があった。

 その表情は不安そうで、何か言いたそうにしているのが伝わってきた。

 だけど俺は――

 ぎゅっと唇をかみしめて、視線を横にそらす。


「……って言うんだけど、どう思う? 酷くない?」

「うん、そうだね。そんな言い方しなくてもいいのにね」


 俺は璃子の視線に気づかなかったように女の子に相づちを打って微笑む。

 視界の端に、東海林に腕を引かれて歩いて行く璃子の後ろ姿が見えたけど、俺はなんでもないように会話を続ける。

 璃子が俺に助けを求めるような視線を送ってきたような気がするのは、きっと俺の気のせいだ。

 璃子はさっきはっきりと、俺に関係ないって言ったんだ。だから俺に口出しする権利はない。俺と璃子はただの親友だから、こういうことには口を挟まない。

 俺には関係ないことだ――

 何度も自分に言い聞かすように言って、璃子のことを思考から追い出した。



  ※



「あっ……」


 オリエンテーションも無事終了して帰って来たけど、家の最寄り駅で電車を降りた時、同じ電車から降りてきた璃子と視線があってしまった。

 一瞬止まっていた足をゆっくりと動かして歩き出して俺はへらっと笑って璃子に話しかける。


「璃子も帰り?」


 その俺の質問に対して、璃子は瞠目してから小さな声でぼそっと答える。


「そうでしょ、さっきまで一緒だったじゃない……」


 璃子のぎこちない口調に、俺の胸が締めつけられる。


「あっ、そっか」


 バスが学校に着いたら自由解散で、乗っていたバスは違ったけど学校に着いた時間はほとんど一緒だった。帰り道が一緒なんだから、璃子がここにいることは別におかしい事じゃない。

 自分の質問が間抜けすぎることに気づいて、黙りこむ。璃子も黙ったままだったが、帰る方向は一緒だから自然と並んで自転車をこぐことになり、二人の間に重い沈黙が広がる。

 あの後――璃子が楽しそうに東海林と話している姿を見て、少し複雑だった。

 助けを求めるような視線は俺の気のせいだったんだ、よかったって思う反面、仲良さそうにしている二人を見て胸がぎゅっと痛んだ。

 大学は同じ学科といっても高校とは違い人数が多いから一緒にいることは少なくなるだろうし、同じ学科だからって講義もすべて同じとは限らない。

 これからは本当に、璃子といる時間は少なくなるんだと思ったら、胸にぽっかり穴があいたように寂しい気持ちになる。

 でも、元々は就職希望だったし、就職してたらそれこそ、今こうして璃子の隣を歩いていることはなかったんだ。

 こうやって少しずつ、璃子と離れていくんだ――

 そう思ったら、これが自然な流れだと思えた。

 璃子が言ったように、子供みたいに一緒にいることはこれからはできない。璃子には璃子の人間関係があって、俺には俺の――

 考え込んでいた俺は、ふっと上げた視線の先で璃子の澄んだ瞳とぶつかって、大きく胸が跳ねる。

 じぃーっと俺を見ていた璃子ははっとしたように視線を横にずらして俯いた。

 俺は鼻から大きく息を吸い込んで、吐き出しながら空を仰ぐ。

 少し気まずい空気も、璃子とだったら心地いい。

 だけど、きっと、このままじゃいけないんだろうなぁ――

 俺は暮れはじめた空に浮かぶ星を見て浅く笑む。


「璃子、じゃあね」




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