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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
かけがえのない存在 side拓斗
24/71

イムタデ:あなたのために



「どうせまたすぐ別れるんだろ……」


 璃子が誰と付き合おうと関係ないと思いながら、よく分からないもやもやする気持ちのせいで、気がついたらそんなことを言ってしまっていた。

 璃子の方は見れなくて、でも、見なくても璃子が傷ついているのが分かって、余計に胸のもやもやが広がっていく。


「そんなの……拓斗には関係ないじゃない」


 吐き出された言葉が胸に深く突き刺さる。苛立ちを込めた璃子の言葉がじくじくと胸をえぐる。その苦しさに耐えられなくて、俺は食堂を後にした。

 自分でも信じられないくらい後悔したのに、一度言ってしまった言葉は元には戻らなくて。璃子に謝ろうか、メールをしようか悩んだのに答えは出なくて、気がついたら朝になっていた。

 いや、深く考えるのが苦手なんだ……

 一晩寝てしまえば、璃子を怒らせたことなんてすっかり忘れて、薬学科のオリエンテーションへと出かける。

 集合場所となった大学の車両門前に、璃子がすでに来ているのを遠目に見つけるが、バスに乗り込んでしまったので声をかけるタイミングを逃してしまった。

 まあ、目的地は一緒だしいいか。バスは何台かに別れ、璃子とは違うバスに乗り込む。

 うちの学科のオリエンテーションは日帰りで山に行き、学科の親睦を深めるらしい。

 目的地に到着すると、午前中は数人のグループに分かれてレクリエーションし、昼食はバーベキューで、午後は自由行動の予定だ。

 グループ分けの時、俺は学番が近くて仲良くなった男四人と、一緒のグループになろうと声をかけてきた女の子二人と同じグループになることになった。

 璃子の方を見ると女の子と楽しげに話していて、ちゃんと友達が出来たようで安心する。

 松本さんは違う学科で、同じ学科に知り合いがいないって言って少し不安そうにしていた璃子を思い出して、笑みがこぼれる。

 友達と楽しそうに話す璃子の笑顔を見てほかほかと胸が温かくなってきて、胸に渦巻いていたもやもやが嘘のように消えていったけど、璃子の側に昨日食堂で会った男――たしか、東海林って言ったかな――がいることに気づいて、消えたはずのもやもやがまた広がりだす。

 その後も東海林が璃子の近くにいるのがなんとなく気になったが、午前中は特に璃子と話すこともなく、璃子と東海林は同じグループだから側にいてもおかしくないよなって、自分で理由をつけて納得する。

 俺と璃子は十二年間の付き合いになるし、家も近いけど、そんなにずっと一緒にいるわけじゃない。むしろ、一緒にいる時間の方が短いんじゃないか?

 だから、別に璃子のことが気になるわけじゃない――

 そう思いながら、俺の視線は璃子を追っていたことに、自分自身気づいていなかった。



  ※



 なんていうか……大学に入ってから、すごく璃子が綺麗になった気がするんだよな。だから自然と目が惹きつけられるというか……

 透き通る雪のように白くきめの細かい肌、くりっと大きな薄茶色の瞳、瞳同じ薄茶色でふわふわの髪の毛。よくハーフと間違えられるような日本人離れした容姿の璃子は中学辺りから男子の中では人気があった。

 守ってあげたくなるような小柄な体系だけど、トレードマークのポニーテールが元気な印象を与えてて、真面目で勉強もすごくできるけど実はおっちょこちょいで、そんなとこが可愛いんだよな。

 男子に人気があるのも分かるし、璃子に彼氏がいない事の方が少ないだろう。

 それでも――

 可愛いとは思うけど、俺にとって璃子は恋愛対象とかそういんじゃなくて、親友で……

 まあ、璃子だけじゃない。女子はみんな恋愛対象外なんだけど。

 告白された事は何度かあるけど。“好き”とか、よく分からないんだ。

 璃子のことは好きだけど、告白してくれた女子達が言う“好き”とは違うと思う。そういう“好き”が俺には分からない――

 いや、心のどこかで分かりたくないって思っているのかもしれない。

 そんなもの……信じられないって思っているからかもしれない……



  ※



 自分の思考に入りこんでいた俺は、友人の声にはっとして我に返り適当に相づちを打つ。

 うわっ……聞いてなかった。

 すでに昼食の時間で、バーベキューグリルを囲んでわいわいと楽しそうな声といい匂いがあちこちから上がっている。


「世良君、ここのお肉焼けてるよ~」


 煙が上がるバーベキューグリルに視線を向けた俺は、同じ班の女の子が声をかけてきてくれたのに気づかず、無意識に香ばしい匂いを漂よわせて焼き上がったエビを二つとって、すぐ隣でバーベキューをしている璃子に近寄りながら声をかけていた。


「璃子」

「拓斗、なに……?」


 振り返った璃子は一瞬眉根を寄せて、小声で聞いてくる。

 俺はにこっと笑顔を向けて、エビの乗った皿を璃子に差し出しながら言う。


「エビ、食べる?」

「食べる……ってか、拓斗が食べたいんでしょ……? もうっ、ほんとにっ」


 呆れたように言いながらも、璃子は俺の皿を受け取ると、手際良くエビの殻をむき始める。

 腹側の殻を指で割り、背側へと綺麗にむいていく璃子の手つきに見惚れて笑みがこぼれる。

 ほんと、いつみても璃子って器用だよな。俺はエビ好きだけど、上手く殻が剥けなくて苦戦する。そう言う時、いつも璃子がむいてくれて、今では璃子にやってもらうのが当たり前になっていて、自分の行動がおかしいとか全然気づいてなかった。

 殻をむき終ったエビを俺はにこにこと受け取り、それを頬張る。

 んー、うまい。

 俺はエビを食べるのに夢中になっていたんだが、璃子がエビを食べずにどこかに行こうとしたのに気づいて視線を璃子に向ける。

 璃子もエビ好きだと思って二つ持ってきたのにどうしたのだろうか――?

 隠すように握りしめている璃子の手が赤いのが視界に入って、歩き出そうとした璃子の手を掴む。


「どうしたの、これ……?」


 振り返った璃子のポニーテールの毛先が揺れて、動揺して掠れた声が響く。


「えっ……なにが……」

「手、赤い」

「えっと、これは……」


 璃子が視線を泳がせて歯切れ悪く口を動かし、俺は掴んだ璃子の手を引き寄せて見つめる。

 横から近づいてきた璃子と同じグループの女の子が驚いた声を上げる。


「わっ、ほんとだ。璃子の手、真っ赤じゃないっ」

「もしかしてアレルギー?」


 俺の言葉に璃子が頷くのを見て、俺はすぐさま手洗い場に璃子を引っ張っていく。

 エビアレルギー……?

 そんなことを璃子が気づかれないようにずっと隠してたんだと気づいてしまったら、もどかしてどうしようもなくなる。

 俺はいつだって璃子に甘えてばかりで、いつも璃子に助けられてばかりで。

 璃子に何もしてあげられない自分が情けなくて嫌になる。


「ちゃんと、手、洗わないと」


 蛇口をひねって流れだす水に璃子の手を当てて、ひたすら洗い流す。かゆがっていたからとにかく洗えばいいのかと必死で俺は無言で璃子の手を握り続けた。




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