ヒャクニチソウ:絆
「夏帆は知ってたの……!?」
入学式後、大学近くのファミレスに入った私は、向かいの席に座る夏帆を問い詰めた。
中学から親友の松本 夏帆はバッチリメイクに、ブランドモノのミニスカートのダークグレーのスーツと高いヒールを履いた外見はちょっと派手な女の子。だけど、そんな格好も似合うモデル並みのめりはりのある体系に、百七十センチという羨ましい長身、ストレートの黒髪は腰まである美女なんだ。
それに比べて私はといえば――小鳥遊 璃子、十八歳、今日から大学生。名字は変わっているけど、それ以外は普通。
小柄な体系に身につけているのは平凡なスーツ。顔も平凡だし、あえて特徴というなら、生まれつき色素の薄い瞳と髪。肌も他の人に比べれば白いらしい、よく「色白い」って言われるから。それから毛先だけくるくるした癖っ毛。下ろしてると絡まりやすいから、いつもポニーテールにしている。これがポイントかな。
「知ってた。ってか、璃子が知らなかったことが驚きなんだけど……」
呆れた口調で言った夏帆は、前髪をかきあげてふぅーっとため息をつく。
「私はてっきり、拓斗は就職だとばっかり……」
「あー、そういえば璃子は推薦で決まってたから、気づいてなかったのか」
私の自慢できることといえば、頭はそんなに悪くないってこと。
「ほら私はさ、受験だったでしょ? 合格発表を見に来た時に拓斗君がいたから……」
そう言って夏帆は、私から横にちらっと視線を向けて苦笑する。
「拓斗……もしかして隠してたの……?」
ギロッと睨んで横を向けば、私の隣には拓斗が座ってて、何食わぬ顔でしれっと答える。
「別に? 聞かれなかったから言わなかっただけだよ?」
悪びれた様子もなく爽やかな笑顔を向けられて、私はうっと言葉に詰まる。もちろん米神をひくつかせながら。
「怒った――?」
スローモーションのようにゆっくりと首を傾げて、哀愁を帯びて眉を寄せる顔すら絵になっている拓斗から私はすっと視線をそらす。
ほんっと、なんなのこの男……っ!!
心の中で激怒する。だけど。
「俺は璃子と一緒の大学で嬉しいんだけどな」
しゅんっと耳を垂らしてうなだれた子犬のように潤んで悩ましげな瞳を向けられて、ドキドキしない女の子なんていないんだからぁ――……、私以外はっ!
このっ、女ったらしっ! 天然っ!!
さんざん、心の中で悪態をついてから、はぁーっと大きなため息をついて心を落ち着かせる。
「別に……怒ってないし、ただちょっとびっくりしただけ」
私は決まり悪く拓斗から視線を外して言う。
だってこういう時の拓斗って、見た人がうっとりするような綺麗な笑顔を浮かべるから、その顔が苦手なのよ……
「拓斗がそういう秘密主義なのは知ってるし、ってか気づかなかった私がいけないんだし」
ため息とともに言って、ガクンっと肩を落とす。
あーあ、これで拓斗との腐れ縁はあと六年間は切れないのか……
ってか、実家に住み続ける限りずっと!? だって、私と拓斗は小学校の学区が一緒で、お互いの家までは徒歩三分くらいで行き来できる距離にある。
恐ろしい予感が現実になりそうで、背筋がゾクゾクっと震える。
いやぁ――――――っ!!!!
「それにしても」
自分の世界に入り込んでいた私は、夏帆の言葉に顔をあげる。
「またこのメンバーで同じ学校なのね」
ちょっとうんざりした顔で夏帆は横に視線を向ける。
夏帆の隣に座っているのは七瀬 仁君。いままでずっと会話に参加していなかった七瀬君が、つっと指先で眼鏡を押し上げて鋭い視線を一瞬、夏帆に向ける。
「夏帆と七瀬君って同じ学科なんだっけ?」
私が尋ねると、視線を合わせた二人の間で一瞬、火花が散る。
「そうよ」
「…………」
うーん……、相変わらずこの二人は仲悪いのね……
私は苦笑して首を傾げる。
七瀬君とは高一の時同じクラスで、拓斗と七瀬君は同じバスケ部だったから仲良くしてて。夏帆とは中学からの友人で高一でも同じクラスで、それ以来自然とこの四人で出かけたりすることが多かった。七瀬君は拓斗の親友で、夏帆は私の親友で、私と拓斗は腐れ縁だから。
七瀬君と夏帆は特別仲がいいわけではない。むしろ犬猿の仲……?? 夏帆は派手めな美少女で、七瀬君は眼鏡の理系男子。二人はタイプが違いすぎるから、なんだか敬遠してるってカンジ?
それでも、お互い私と拓斗の親友だからこの四人でいることは多くて、一緒にいるんだから仲が悪いわけでも、ないのかな……?