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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
八年間の片思い side璃子
18/71

アジサイ(ブルー):自信家



“拓斗、助けて……”


 翔に無視やり連れて行かれそうになって、助けを求めて拓斗に視線を向けた私。

 一瞬だけだったけど、確かに拓斗と視線があった。

 だけど、拓斗は――

 私からすっと視線をそらして女子と話しだしてしまった。

 どうして――……っ!?

 やるせない想いが胸に渦巻いて、私は翔に腕を引かれるまま連れて行かれてしまった。



  ※



 どれくらい歩いたのだろうか、翔が急に立ち止まる。山の売店からは見えないくらい離れた、バーベキュー場とも違う方へ連れてこられていた。

 振り返った翔は複雑な表情でじぃーっと私を見つめてくる。


「なあ、ほんとにあいつとは付き合ってないのか?」

「はぃ!?」


 突然の質問に私はすっとんきょうな声を出してしまう。

 あいつって……拓斗のことだよね……?

 翔は視線を横に流して、決まり悪そうにぼそぼそと掠れた声で囁く。


「お前達二人ってなんか変だぜ? 親友とか言ってたけどおかしいだろ、そんな雰囲気じゃなくね? まだ彼カノって言われた方がしっくりくるんだよなぁ」


 首をかきながら言った翔の言葉に、私は驚きで大きく目を見開く。

 翔は視線を私に流し、苦々しげにつぶやく。


「そんな驚くことか……?」

「だって……」


 私は言葉が出てこなかった。

 私と拓斗が彼氏彼女みたいだなんて、今まで誰一人そんなふうに言った人はいなかった。それはうまく親友関係を築いてきたからなんだけど……

 翔の言葉には、無理して親友を演じてきた私の心を見透かされたみたいで、とても心もとないような不安に気持ちになる。

 確かに、私が拓斗の側にいて目障りだって女子に言いがかりつけられたことはある。でもそのたびに、自分には彼氏がいるし、拓斗とは恋愛対象外なんだって主張してきた。

 なにより、拓斗自身が私のことを“親友”だと答えるから、言いがかり以上のことをされることはなかった。

 何重にも蓋をして、たくさんの鍵をかけて、心の奥にしまった気持ち――

 拓斗にだって、他の誰にだって気づかれないように、自分自身でも忘れるようにしてきた気持ちなのに、簡単に翔に見透かされて、かぁーっと胸が熱くなる。


「ほんとうに……親友だから……」


 やっとの思いでそれだけ口にすると、私は俯いてぎゅっと唇をかみしめた。

 だって、他になんて言える?

 本当は拓斗が好きです――って?

 拓斗にも言っていない気持ちをここで言ってどうなるの?

 そんなの意味ない。言わないって決めてるから。隠すしかなかった。

 それに――

 決して口にしてはいけない想いなんだ。


「拓斗とは小学校からの腐れ縁なのよ、家も近くて……」


 そう言って翔に笑みを向けるが、うまく笑えていた自信がない。きっと、泣きそうな苦々しい笑みだったに違いない。

 私を見た翔は痛々しげに瞳を揺らし、ぽんっと私の頭をなでた。


「……んな顔すんなよ」


 だって、悔しい。

 誰にも気づかれないように上手に隠してきた気持ちを、会ってたった三日しかたたない翔に気づかれるなんて――

 それはきっと、翔がどこか自分と似てるからなんじゃないかって思った。

 自信に満ちて、不敵な笑みを浮かべる翔は軽いように見えて、伝えてくる気持ちに嘘は感じられなかった。いつもまっすぐな気持ちをぶつけてきて、翔の本心がダイレクトに伝わってくる。

 好きだ――って。

 昨日、講義室で再会して「好きだ」って言われた時、魅惑的な瞳の奥に何かを強く求めるような光があって、ドキッとした。

 ずっと私が隠している嘘に気づかれそうで、怖かった。


「お前、あんなヤツの側にいたら、好きになっちゃうだろ?」


 黙りこんでいた私に、ぼそっと翔がつぶやく。その声は冷やかす感じではなく切実な苦しみを理解するような呆れた感じだったから、私は翔を振り仰いで苦笑する。


「別にならないよ」


 いまさらね……って、心の中でつけ加えて肩をすくめる。


「あー? あんなに甘い笑顔向けられて?」


 マジかよって訝しむ翔に、私はため息をつく。


「あんなの、拓斗は誰にでもなんだよ。だからって別に深い意味はないのに勘違いしたら痛い目見るし」

「それって、経験したから、そう言うのか?」

「…………っ」


 思いもよらない切り返しに、言葉につまる。

 でも、私の本心に気づかれないように、こほんっとわざとらしい咳払いをする。


「ほ・ん・と・に! そんなんじゃないから。私と拓斗は恋愛対象外、そういうのからかけ離れてるの。それに――ほんとに彼氏がいるのよ。言っておくけど、拓斗じゃないわよ」


 彼氏なんて本当はいないけど、もうこの嘘をつき通すしかないじゃない。


「ふーん。でも、俺にはあいつが好きって顔してるように見えるぜ?」


 不敵な笑みを浮かべて言う翔の言葉にドキッとする。


「俺はあんたが好きだ。俺のものになれよ」


 腰に手を当てて立つ翔は、色香の漂う魅惑的な瞳で見つめてくる。まるで、心を射抜くようにまっすぐ。

 でも私は、その瞳によろめくんじゃなくて、全然違うことを考えていた。

 翔の言葉って嘘がない。ちょっと強引だけど、自分を知ってもらいたいって強い気持ちを感じるっていうか。なんていうのかな、人恋しいっていうか……

 やっぱり、翔は私に似てるかも――

 告白されているのに、なんだか客観的に翔の言葉を分析してしまう自分に内心で苦笑して、俯いていた顔を上げて翔を見る。


「ごめん、気持ちは嬉しいけど……」


 ストレートな気持ちがちゃんと伝わってきて、女子に睨まれるからってあんなに翔と関わりたくないって思ってたのに、憎めないカンジ。

 歯切れ悪く答えた私に、翔ははぁーっと大きなため息をもらす。


「まっ、今回は諦めるか。お前にそんな顔させたいわけじゃないからな」


 ぽんっと頭を大きな手で撫でた翔は。


「でも――」


 そこで言葉を切って、少し皮肉な感じの、でもすごく魅惑的なほほ笑みを浮かべた。


「今の彼氏と別れたら、俺んとこ来いよ」

「どうしてそういうこと言うかな……」


 自信たっぷりに不敵な笑みを浮かべる翔に、不覚にもドキドキしてしまい、私はぼそっと言葉をもらした。




この回で、翔ファンが増えるかなぁ~

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