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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
八年間の片思い side璃子
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ホウセンカ:私に触れないで



「はぁー……」


 大きなため息と共に、大きなゴミ袋を二つ地面に置いた私は、その場にしゃがみ込んだ。

 昼食のバーベキューの片づけ中だったんだけど、女子からのチクチクとした鋭い視線が突き刺さって、居たたまれなくて、私はゴミ捨てに名乗りを上げて広場から逃げだしてきた。

 女子達の視線の理由は、翔の昨日からの目立つ行動と昼食の時に私と拓斗が親しげにしていたから――私の存在が気に食わないみたい。

 まあ、カッコイイ男子二人に話しかけられるなんて、ひがみの対象になるのは仕方ないとは思うけど、私は好きで二人に構われてるわけじゃないから、なんだか複雑な気分。

 まあ、こういう女子の嫉妬には慣れてるけど……

 なんといっても、アイドル顔負けの美男子かつ性格よしの拓斗と腐れ縁ですから?



  ※



 中学校まではよかった。地元の子が多くて、周りのほとんどが小学校からの付き合いだから私と拓斗が仲良くしててもそんなにいちゃもんつけられることはなくて。でも、知り合いが少なくなった高校では、拓斗の親衛隊みたいなのにすっごい睨まれたっけなぁ。

 基本、穏やかな拓斗を好きになる子達だから、過激な嫌がらせはされなかった。拓斗を好きな子達にとって、誰よりも拓斗に近い存在の私が目障りだっていうのはよく分かるし、私も拓斗もお互いのことを聞かれれば必ず“親友”と答えていたし、実際、親友にしか見えなかったと思う。

 拓斗に対しての気持ちに蓋をして、心の奥底に大事にしまってきた。

 辛くないって言ったら嘘になるけど、この気持ちを打ち明けても拓斗の重荷にしかならないし、私も拓斗の親友のポジションで満足している。

 気持ちに蓋をしてしまえば、気づかないふりをすれば、笑顔で拓斗の隣に立っていられる。

 本当はたぶん……拓斗が誰にも恋しないって、知ってるから。

 拓斗が誰かのものにはならないって分かってるから、安心して友達でいられるんだと思う。

 自分のものにならなくてもいい。だから、誰か一人のものにもならないでほしい――

 そんなズルイ考えなんだ。

 それでも、ずっと拓斗の親友でいるって決めてたから、そのためにも私は頑張って違う恋を探した。

 周りから見て親友に見えるようにするためでもあったけど、いつだって私は本気で好きになった人と付き合ってきた。それでも、拓斗への想いを忘れるほどの激しい恋じゃなかっただけ。たまたま、小さな恋だっただけ。

 夏帆が、蕨先輩を“似てる”と言ったのは――拓斗と雰囲気が似てるっていうこと。

 優しげな笑顔、やわらかい雰囲気。拓斗に似ているからっていうよりも、笑顔が素敵な人が好きなだけなんだけど……

 逆にいえば、チャラチャラした男って苦手なんだよね。そう、翔みたいな……

 いかにもモテますって人が、「どうして私なんか??」って思わずにはいられない。

 彼氏がいるって言ったのに、どうしてこんなに構ってくるのかしら……?

 そこが理解できなくて、私は小さなため息をつく。


「私はうんざりなんだから……」


 しばらくその場にうずくまっていた私は、すっと膝を伸ばして立ちあがって、ぱんっと膝を払って気合いを入れ直した。



  ※



 ゴミ捨て場からみんなのとこに戻ると女子の塊が出来てて、米神がぴくっと引きつる。

 なぜって? 女子に囲まれてるのが拓斗だったからよ。

 私は拓斗を取り巻く女子の群れの横を素通りして、少し離れたところで班の男子と一緒にいる綾と琴羽の所に行こうとしたんだけど、通り過ぎる時、私を見つけた拓斗が駆け寄ってきた。


「璃子、どこいってたの? みんなでソフトクリーム食べに行こうって話してるんだ。一緒に行こうよ」


 甘やかな笑顔を向けて言う拓斗に私は俯いて、ふぅーっと苛立ちを込めたため息をつく。

 なんなの、ほんとっ。

 こんなキラキラ笑顔向けられたら、好きになっちゃっても文句言えないのよ?

 それを女子に振りまいて、自分はその気がないとか、マジ、天然っ! たらしっ!!

 心の中で悪態ついた私の周りには、きっと黒いオーラが立ちこめていたに違いない。でも、拓斗は気づいてないんだ。

 俯いたままぎゅっと唇を噛みしめて、拓斗の方を向かずに言う。冷たくなり過ぎないよう、なるべくいつも通りの口調で。


「私は遠慮しておく。一緒に食べてくれる子はいるでしょ」

「そうだけど、璃子も一緒に行こうよ?」


 ってか、女子の視線が痛いのよ。気づいてよ、拓斗は気づかないって分かってるけど……


「行かない。班の人達がまってるから」


 だから私は、今度はあえて冷たい口調で言いながら、綾達の方へ歩き出す。

 拓斗の視線が私から私の歩く先へと向けられて、ひんやりするほど冷たい声が後ろからかけられる。


「東海林と一緒にいたいから――?」


 その言葉に、ばっと勢いよく振り返って拓斗を睨む。

 どうして、ここで翔が出てくるの――?

 翔がしつこく私に言いよってくるのに気づいてる……?

 ってか、いつもは鈍いのに、こういう時に痛いとこ突いてくるなんてずるいっ。

 私はもどかしい気持ちにぎゅっと唇をかみしめて、震えそうになる声をなんとか平静を装って絞り出す。


「そんなの……拓斗には関係ないでしょ」


 本当は翔とはなんでもないし、あんなヤツ関係なくて綾と琴羽のとこに行くんだって言いたいけど、言ったところできっと拓斗は私の気持ちには気づいてくれない。うん……まあ、気づいてくれなくていいけど。

 拓斗だって女子に囲まれて楽しくやってるんだし、私は女子にこれ以上睨まれたくないのよ。だから。


「もう子供じゃないんだし、いつまでもベタベタ一緒にいたくないの。だからこれからは、同じ学科だからってあまり話しかけてこないで」


 そう言うしか、ないじゃない。

 一瞬、拓斗が切なげに眉を寄せたのが見えたけど、私は綾達の所へと歩き出した。

 この機会に、少し拓斗と距離を置くのもいいかもしれない……




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