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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
八年間の片思い side璃子
14/71

ハナマス:悲しくそして美しい



 山道を揺れるバスの中、私は苛立ちを露わに窓の外を眺める。

 大学四日目、オリエンテーション。うちの学科のオリエンテーションは、日帰りで山に行き学科の親睦を深めるのが目的らしい。

 学科で新しい友達も出来たし、今日はまだ話したことがない学科の子と仲良くなるチャンスで、朝早い集合時間にも関わらずウキウキしてたのに――

 綾と琴羽と一緒に座るつもりだったのに……

 うん、まあね、バスは二人掛けだから三人一緒には無理だって分かってるから、一人あぶれるのは仕方ないよ。けど、前後に座って話したりするつもりだったんだよっ!

 なんで、私の隣に翔が座ってるのよぉ――っ!!

 私は言葉にできない思いを心の中で叫ぶ。

 前の席に座る綾と琴羽はちらちらと振り返って、心配と好奇心の混ざった瞳でこっちを見ている。

 昨日、キスされたこととか、その後のことを聞きたそうにしているのは伝わってきて、気になる気持ちもよく分かるんだけどね……

 私にしたら、『最悪』の一言よ。

 朝、会うなりいきなり、肩を抱き寄せてきて。もちろん、すぐに引きはがしたけど。

バスを待ってる間も綾達と話している間もずーっと、私の隣に立ってて、バスが来て乗り込むことになったら、ちゃっかり私の隣に座ってるのよ……

 ほんとになんでこんなに興味持たれちゃったんだろう……

 性懲りもなく、またポニーテールの毛先に触ろうとする翔の手の甲をぺちんっと叩く。


「なにするのよっ」

「まだ何もしてないだろ」

「しようとしてたでしょっ」


 しれっと答える翔に苛立ちが募るけど、私はなるべく声を押さえて話しかける。だってねぇ、昨日のあれ(・・)、講義室にまだ残ってて見てた人が結構いたみたいで、綾達だけじゃなくて他の子も私達をちらちら見てくるんだよ。

 はぁー……


「ねぇ、お願いだから、私に構わないでよ。あなたなら、女の子なんて選びたい放題でしょ」


 今日の翔はダメージジーンズに黒のVネックのTシャツ、紺のジッパー付きのパーカーを前を開けてはおっている。腰にはお洒落なベルトなんかしてるし、靴もブーツだ。それだけでお洒落なことが分かる。それに筋肉のついた逞しい体、きりっとした表情は男らしくて、自信にあふれた態度が人目を引く。


「それは褒め言葉と受け取るぜ?」


 くいっと顎を上げて強気な視線を投げかける翔から、私はすっと視線をそらして窓の外に向ける。

 どうするのが一番自分の魅力が伝わるのか分かっていて行動しているような翔は、おせじじゃなくモテると思うもの。

 でも、そんなこと言ってあげない。


「それから、あなたじゃなくて翔って呼べよ」

「はあ……」


 翔って呼んでるけど、本人の前ではなんとなく呼びたくないなぁ。だって、つけあがりそう……


「はじめて会った時から思ってたけど、璃子の瞳って茶色いよな。ハーフか?」


 その言葉に視線を窓から翔に一瞬向けて、不機嫌にぷいっと横を向く。


「純日本人よ」


 刺々しい口調で答える。

 初対面でハーフと間違われるのはしょっちゅうだから、いまさらなんとも思わない。

 みんなは私の瞳の色を茶色って言うけど、私からしたらみんなが茶色なんだよね。黒というよりもこげ茶っていうか。それで私の瞳の色は茶色というよりも黄土色に近いんじゃないかな。

 とにかく瞳の色について言われるのは、もう慣れっこ。自分では見えない部分だから気にならないっていうのもあるけど。


「髪も茶色いし、色も白いよな」


 翔にしたらほめてるつもりの言葉も、言われ慣れてる私の心には響かない。


「どういたしまして」


 翔の方を見て素っ気なく返しても、翔は気にしたふうはなくじぃーっと私を見つめてくる。


「ほんと、綺麗な瞳だよな。吸い込まれそうだ――」


 私をとらえた翔の瞳が強くきらめいて、まっすぐ注がれる視線が痛くて、視線をそらしてしまう。

 そんなセリフ言って恥ずかしくないのかな……こっちが恥ずかしいよ。

 私はわずかに頬を染めて、再び窓の外に視線を向けた。



  ※



 バスは左右に揺れながらどんどん山道を登っていき、目的地に到着する。午前中は五~六人のグループに分かれてレクリエーションして、お昼はバーベキューの予定。で……

 私と綾と琴羽は同じ班になろうって話してて一緒にいたんだけど、そこに翔とその友達二人が寄ってきて、このメンバーでグループになることになってしまった。

 もうほんとに、翔とはなるべく関わりたくないと思っていたのに、翔は私が嫌がってるのなんてお構いなしみたいでうんざりする。

 ちらっと視線を周りに向けると、だいたい他のグループもできたみたいで、拓斗は男子四人と女子二人のグループに決まったみたい。

 男子だけとか女子だけのグループもあるけど、うちの学科は若干女子のが人数多いから、男女混合のグループも結構ある。

 それにしても――

 私は拓斗を見て小さなため息をつく。

 もうグループが決まったっていうのに、拓斗の周りにはたくさんの女子がいて、苦笑いがこぼれる。

 二重のきりっとした瞳、整った眉と高い鼻筋、形のよい唇、波打つ黒髪が輪郭を覆い、決めの細かい肌、バスケをやってるからか百八十一センチもある長身は細身なのに適度に筋肉がついていてスタイルも抜群。おまけに頭もいいし、性格もまあ人当たりいいっていうか、誰に対しても平等に優しいから、小学校の時から男女共に好かれるクラスの人気者だった。

 今もたくさんの女子に囲まれている拓斗を見て、ため息が漏れる。

 もちろん、拓斗に対してじゃなくて、周りの女子に対して。

 あんな邪気のないキラキラの笑顔ふりまいて、あそこにいる女子の八割は拓斗に恋しちゃってるに違いない。そんな彼女達に同情せずにはいられなくて、ため息が出るのよ。

 アイドル顔負けの美麗な容姿に加え、気さくな性格で拓斗はモテる。拓斗にその気がなくても、あんな眩しい笑顔を向けられて優しくされたら勘違いしちゃうでしょ??

 だけど拓斗には、その自覚がない。

 十二年間、拓斗のそばで“親友”やってきたんだから、勘違いして拓斗に告白して玉砕した子を何人見たことか……

 まあもちろん、拓斗は優しく言って断るから、玉砕というか信者を増やしてる感じだけど。

 あんなに優しいのに、どこか一線を引いて女子と接している拓斗の姿が切なくて、胸が締めつけられる。

 拓斗が恋をするつもりはなくて、無意識に恋とかそういう感情を遠ざけようとしているのを知っているから、どうしようもなく胸が痛む。

 拓斗が誰のものにもならないって安心してる自分がいるのに、どこか衝動的に“誰かのものになってしまえばいいのに”と思うことがある。

 それが自分じゃなくてもいいから、あんな作り笑いじゃなくて、もっと幸せそうな拓斗の笑顔が見たい。




※ ハナマスのもう一つの花言葉は「あなたの魅力に惹かれる」

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