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リナリア*セレネイド ―この恋に気づいて―  作者: 滝沢美月
八年間の片思い side璃子
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ローダンセ:変わらぬ想い



 女の子らしいピンクと白を基調にした部屋の衣装棚の上に置かれた小さな写真立ての中――満開の桜の木の前でお洒落をした小さな男の子たちと女の子たちが少し緊張した笑顔で映っている。

 その中央で、ピンクのワンピースを着て同色のリボンをすこし癖のある栗毛の髪を頭の上で結んだ女の子が、隣に立つ男の子の方を向いている。

 男の子は黒い上品なスーツを着て、女の子と見間違うほどの可愛い顔で笑っている。

 小学校の入学式――それが二人の出会いだった。



  ※



「はぁ~~……」


 私はわざとらしいため息をついて、隣のパイプ椅子に座る男子をちらっと横目で見て眉根を寄せた。

 なんでここにいるの――……?

 視線にその疑問をのせて睨んでみても、隣に座る人物は私の視線なんか痛くもかゆくもないといったような平然とした様子で前を向いて座ってて、それが余計に私をイラつかせる。

 世良 拓斗(せら たくと)

 それが私の苛立ちの原因。

 小学校、中学校、高校と十二年間同じクラス隣の席になり続けた腐れ縁で親友。

 でもさ、ここは大学ですよ。ってか、大学の講堂だけど。

 悪夢のような十二年間も終わり、やっと高校も卒業したと思ったのに、どうして拓斗が隣にいるのよぉ――!?

 高三の時、進学しないって言ってなかった? 僕は就職するよ、璃子は試験勉強と受験勉強の両立で大変だね、なんて笑ってたじゃん!?

 私と同じ薬学部を目指すなんて聞いてないんですけどぉ――!!

 怒り心頭で、頭から湯気が出そうな私の苛立ちまじり視線にいまやっと気づいたというように、拓斗が視線だけをこっちに向けて、口元に涼しげな笑みを浮かべた。

 なんなの!? この小馬鹿にするような笑みは……

 ほんっと憎らしいっ!

 私はぷいっと首を横に振って、拓斗の存在を無視する。

ってか、家の前で待ち伏せされてた時から無視だけど、自転車で駅に向かう私の後ろをにこにこ顔でついて来て、駅の改札をくぐったまでは気にしないでいた。でもさ、同じ方向の電車に乗って、乗り換えも一緒について来て、さすがになんか変だって思わずにはいられなかった。

 そういえば私、拓斗がどこの会社に就職したのか聞いていなかったなぁ……なんて考えて、“もしかして”の恐ろしい推測を無理やり打ち消す。

 まさかね、まさかね……

 何度も心の中で呟いて、今に至るというわけ。“もしかして”なんて信じたくなかったけど、大学の最寄り駅を降りても後をついてきて――しかもスーツだしね、ってかその時点で気づけ自分って感じ?

 とにかく入学式の行われる講堂の隣の席に座られたらもう諦めるしかないでしょ……

 それにしても。

 ちらちらとこっちを振り返ってくる周囲の女子の視線にこめかみを引きつらせる。

 もちろん、女子が見てるのは私じゃなくて拓斗なんだけど、その拓斗の隣に座っている私に「なによ、この女」的な視線が時々向けられるわけで。

 二重のきりっとした瞳、整った眉と高い鼻筋、形のよい唇、波打つ黒髪が輪郭を覆う端正な顔立ちは、黒のメンズスーツを着ているけどレディーススーツも似合いそうな女顔。つまり美形ってこと。

 出会ったのは小学校の入学式だけど、その頃から女の子と見まごうような綺麗な子だった。その上、出会った時は私とほとんど変わらなかった身長が今では百八十一センチもあるっていう――私なんか小五からぜんぜん伸びなくて百五十五センチしかないのに……

 運動神経が良くて、高校では所属していたバスケ部は県大でいいとこまでいったし、部活やっているのに成績は常にトップ三に入ってる。それを鼻にかけたりせず、誰にでも平等に優しくて気前がよくて人情があって、男子からも女子からも好かれるクラスの人気者。

 おまけに、かっこよく見せようとしてじゃなくて、素で女子に甘いセリフを吐くから、女子をメロメロにさせる。まさに眉目秀麗、頭脳明晰。

 出来すぎる()なやつなんだ……

 これは、女の子みたいに可愛い拓斗に対して、「可愛い」の次に抱いた感情。

 初めの頃は、隣の席だからってそんなに話すわけでもなく仲がいいわけでもなかった。それが毎年隣の席になれば、嫌でも関わらなくてはならなくなる。小五の時、先生の勧めで入った児童会で一緒に仕事するようになってから――私は彼のことを親友だと思っている。むしろライバルみたいな?

 中学はもちろん、高校もなぜか同じところに進学して、高校三年間もまさかの同じクラス隣の席だった。これを腐れ縁って言わずしてなんというの?

 家が近所だから仕方なく一緒に登下校して、まあ、拓斗が部活で毎日ってわけでもなかったけど、周りの女子に比べたら、私が一番拓斗の側にいる時間は長かったと思う。

 言っておくけど、好きで一緒にいたわけじゃないから!

 近所だから仕方なくよっ!!

 まあ、親友としてつかず離れずの距離を保つ私と拓斗に、周りは男女の友情は存在しないと言うけど、本当に私達は友達でしかない。

 その証拠に、私は中学でも高校でも何人かの人とお付き合いしてる。だから拓斗は正真正銘、天地神明に誓って恋愛対象外の親友でしかないんです!

 拓斗にいたっては、いまどきの草食系男子ってやつ? 恋に興味がないらしい。

 それなのに、私が彼氏と別れたって聞くと「そんなの本気の恋じゃない」とかって笑うんだ。誰とも付き合ったことがない拓斗にだけは言われたくないけどね。

 今まで付き合ってきた人は、全部向こうから告白されてだけど、私はちゃんと好きで付き合っていて、遊びの恋なんかじゃない。いつだって本気で人とぶつかりあっていて――心を隠しているのは拓斗の方だ。

 そう思って、胸の奥が切ない想いできゅっと締めつけられる。

 いつでも楽しげな笑みを浮かべて、周りには男子も女子もたくさんの友人がいる拓斗。だけど、私だけが知っている。拓斗が笑顔の裏側で、他人と一線を引いていることを。

 人間関係なんて脆くてすぐに壊れてしまう――

 愛するだけ絶望するんだって、小学生とは思えないようなそんな悲観的な感情を抱えている拓斗を知っている。その原因も。

 だから私だけは、ずっと拓斗の親友でいようって誓ったの――



2012年3月に連載を始めた「リナリア*セレネイド」、2012年6月に連載休止して、第3章が書きあがったら更新しますと言いながら、すでに半年以上。

連載開始してから1年が経ってしまいました。 

いろいろ訂正や加筆したい箇所があり、ずっと更新が止まり非公開にしていましたが、とりあえず他の連載が終わり、これからはこの作品を完結に向けて書き進めていこうと思います。

本当にこれから書いていくので、もうしばらく更新には時間がかかると思いますが。

待っていてくださった読者様、本当にお待たせしました!

多少、内容は変わっています。登場人物の名前も変わっています。

それでも楽しんで頂けるように頑張って書いていきますので、最後まで読んで頂けると嬉しいです。


2013.3.19  滝沢 美月

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